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おけいこのはじまり
21 「別荘」での生活。ヤンとのラブ・アフェア
しおりを挟むレイコさんはミタライさんが迎えに来るとさっさと帰ってしまった。
「外出するときはセキュリティーかけるの忘れないでね」と言い残して。
そのあと、農夫の衣装から衛兵の制服に変わったヤンが来た。要は連れ込まなければいいのだろう。給油して食料品を買い込むついでにホテルへ行くぐらいはいいだろう。
「Are you finished ?」
「Yes, ma’am」
英語のテストで満点をとれても会話は別だ。ネイティヴではないのだから、意味さえ伝わればいいのだ。それなのにネイティヴの言い方はどうの、本場の言い方はどうのなどという輩が必ずいる。だから何だというのだろうとスミレは思う。そう言うのは英語を商売にする奴らで、その陰謀にはまっているだけだ。日本人はシャイだから、そう言うつぶやきをすぐ真に受ける。
日本にくる外国人はそんなくだらないことは全く気にしない。とにかく覚えたての単語を連発し、笑われようがなにされようが平気でまくし立てて自分の意志を押し通し、やがていつの間にか日本人が感心するほど日本語がぺらぺらになっている。それでいいのだ。
意思の疎通ができて目的が果たせるなら。今のスミレの場合で言えばヤンとセックスが出来れば細かいことはどうでもいい。どうせなら今いる高校の英語教師は全員クビにして、大学の基礎課程を教える講師を連れて来て長文を、あとはTOEICで点を競わせれば十分ではないか。高校英語など学問ではない。実用でいいのだ。
赤い馬にヤンを乗せてホテルにいった。
彼はキスだけでスミレを蕩かした。ホテルの部屋に入るなり口を押し付け思い切り吸い込まれた。緩急つけた巧みな唇使い舌使い。時には激しく、優しく、甘く、誘うように。この人どうしてこんなにキスが上手いんだろう。誘われるまま、舌を絡めざるを得なくさせられる。彼を求めずにはいられなくさせる、キス・・・。
(キス、上手過ぎる)
(そう?)
彼はふふっと笑った。
まだ一度しか寝ていないのに、彼はスミレの感じるスポットをちゃんと覚えていてくれた。キスしながら、そこを指でしっかり愛撫するのを忘れなかった。それだけではなく、バスルームに入る前に、髪は洗うかを訊いてくれて洗わないと答えると長い髪を巻き上げるのを手伝ってくれもした。
彼はあの広大な大陸の出ではなく、そこの東海岸にへばりついた小さな島から来たという。つい二十年ほど前まであの世界の海賊国家の植民地だったところで、伝統的に英語を話していた島だ。彼の方が英語が上手い。
口とはうらはらに、ヤンはなかなかスミレに入ろうとせず、焦らした。マットの上に寝転がって顔に跨れという。さらにしつこいほどクリトリスを責められ、メロメロにされる。
ヤンのクンニリングスは絶妙だった。
(気持ちいい。素敵よ、ヤン)
(早くスミレの中に入りたいよ)
(わたしも。ヤンが欲しいよ)
あの彼はキミの恋人なのかい? ヤンに訊かれる。メロメロにされても、口は割らない。そうだよ、と答える。レイコさんの話になる前に攻撃に転じる。身体の向きを変えて彼のペニスを愛してあげる。彼の幹に舌を這わせながら、
(ヤンもお国に恋人がいるんでしょう?)
彼のことに話を振る。
(いたけど別れてきた)
スミレの股間の下で舌をクリトリスに転がしながら彼は答えた。
(あとニ三年したら一度国に帰る。このグループの幹部を目指すか、ここで稼いだ金で商売を始めるか。そのとき、彼女がまだぼくを好きでいてくれているならまた付き合う。そのときまでに国が赤で塗りつぶされていなければいいんだけどね)
(わたしなら二年も三年も放っておかれたら浮気しちゃう)
(今、してるしね)
うふふ。お互いに笑い合う。
(あの彼、相当なマニアックだね)
最初に来た時にサキさんにお膳立てされヤンとセックスさせられ、それをじっと間近で見られたのを言っている。
(そうなの。セックスもすごいの。なかなか会えないんだけどね。だからたっぷり愛してね)
ヤンのキスはそれだけで相当な官能がある。雰囲気を作ってくれるのがとても上手だ。そしてカンがいい。スミレがサキさんやレイコさんの話題に触れそうになると話を変えるのを敏感に察し、それ以上詮索してこなくなった。
(君はスタイルがいいね。美人だし。好きになっちゃいそうだよ)
(ヤンも。日本人の男の子より、よほど大人だし、素敵だよ)
(もういいかな。これ以上ガマンできないよ)
充分に濡れたヴァギナに彼を迎えた。あの怪獣のようなイワイのとも、あの子羊のようなナカジマのものとも、あの悪魔のようなサキさんのものとも違う、あの島の名門大学を出た優等生的な彼のものが這入って来る。
(ああ。素敵。そこも覚えていてくれたのね)
(キミの中はいいね。とろけそうだ)
簡単に高みに押し上げられ、あっという間に絶頂し真っ白になっている間に体位を変え、また押し上げられ真っ白にされ・・・。それを何度も繰り返す。
イワイのような暴力的なものとも、サキさんのような悪魔的な呪術のようなものとも全く違う自然な高みだ。その間彼は二度精を放った。最後は向かい合ってお互いの唇と舌を貪り合った。サキさんには悪いが、彼との相性は抜群にいいのかもしれない。
(ヤバいな。スミレを放したくなくなっちゃったよ)
(でも、どうしても夜は帰らなきゃ。ごめんね)
(あの家でのメイクラブはだめなの?)
(そう。彼に殺されちゃうかも)
(それは困るな)
(昼間あなたが非番の時、あなたの部屋に行ってもいい? そのときまたたっぷり愛して欲しいな)
それに別れるのが苦痛じゃない。サキさんとほどの後ろ髪を引かれるような熱いものがない。あっさりと純粋にセックスを楽しんだ、と言えるようなさわやかな後味のアフェア。思い切りスポーツを楽しんだ後のようなリラックスした気持ちになる。
彼と別れ際、こう確認するのを忘れなかった。
「Can you cooking?」
「Of course, ・・・but why?」
ダメもとで訊いてみたが、ラッキーだった。一人暮らしで、ここへは特別ボーナスが目当てで来たと言っていた。だから、もしかしてと思ったのだ。一週間。食費を出す代わりに彼にお弁当を作ってもらい届けてもらうことになった。
わあ。こんなにくれるなら思い切り腕を振るっちゃうよ。そう、彼は言ってくれた。下らないプライドがない。素直にお金に喜んでくれる。それに日本の男と違って「女のくせに料理も出来ないの?」などと余計なことも言わない。
スミレは一週間の間のセックスフレンドとデリバリーサービスを確保するのに成功した。料理ができなくとも、人生はさほど苦痛ではない。
名残惜しそうなヤンと別れ、深夜までやっている量販店で麦わら帽子となるべく素朴なワンピースとスニーカーを買い、食料品店でワインを数本、それから朝食用のバゲットとチーズと卵を買って事務所に戻った。
そして朝までぐっすり眠った。
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