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大学生のおけいこ

31 桃太郎なスミレ

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「お前、誰いく?」

「俺、ミカちゃん。あのピンクのセーターの」

「じゃ、俺はスミレちゃんにする」

「そうだよなあ。あの2人以外全部ハズレだもんな、今年の・・・」

「ちょっと待て」

 その居酒屋の男子トイレにぬっと入って来たのは他校の3年生でオーモリといった。

「スミレちゃんは、オレいくから。キミら、他の子にして」

 カーキ色のタンクトップのムキムキを見せつけられると、なよなよした2年生たちはみんな急に押し黙った。

「なにあいつ。オーモリっての。何様だよ。うちの大学じゃないだろ。どこのやつ?」

「アレだよ。あの2、3コ手前の駅の・・・」

「ああ、あの偏差値38の・・・」

「今日来てる3年生の女子の知り合いなんだって。去年も無理やり来てたじゃん、新歓だけ。気に入った子お持ち帰り。その子、さんざんヤラれて退学したらしいよ。せっかく旧帝入ったのに。なんでそんな奴、呼ぶかなあ・・・」

「・・・やな奴だな」

「じゃあ、お前、いけよ、スミレちゃん」

「・・・やっぱ、やめとく。モメそうだし」

「だっせーな!」

「そこまで言うならお前がいけよ!」

「・・・やだよ」

「あーあ。一気に気分悪くなった。帰ろかな」

「あ、そ。じゃあ、俺ミカちゃんいくわ。文句、ないよな」


 

 オーモリはほとんど付きっ切りで、そのボブの、白地に薄いブルーのチェックのワンピース、清涼感のある新入生の相手をしていた。

「スミレちゃんはお酒飲める方?」

「えー? 全然飲んだことないんですぅ」

 揺れる髪や胸元から除く鎖骨からは上品でフルーティーな香りが漂ってくる。

「じゃあ、これなんかどお? 飲みやすくってお酒慣れてない子にはピッタリだよ」

 タンニングマシンに入り浸った身体をカーキ色のタンクトップで見せびらかし、短くてツンツンした髪は脱色している、見るからに遊び人。オーモリはぜってーこの子おとす、と気合入れまくり、状態だった。もう何人もこのテでおとしている。今夜もイケる。間違いない。

 結局その飲み会は、オーモリとスミレという新入生のカップルと、もう一人の新入生のミカという子と彼女を取り巻く2、3の男子、そしてあとはモブさんズとして4、5人の女の子だけのグループと、終始スマートフォンばかりいじっている男の子2名という、鉄壁のフォーメーションが最後まで続いて終わった。

「もう一軒行こうよ」

 オーモリは攻めた。

「でも、もう、ヒッ、家に帰らないと、ヒッ、かなあ・・・」

 まだ一杯も干してないのに・・・。酒、弱かったんだな。トロンとした目で髪を揺らしながらしゃっくりする。めちゃ可愛い。ナマツバもんだぜ・・・。

「じゃあさ、少し休んでいかない? 足元、危なそうだしさ・・・」

「イッ、でも、ウチ、ヒッ、近くなんですぅ、ヒッ・・・どうしよかな・・・ヒッ」

「スミレちゃん、一人暮らし?」

「はい。イッ!」

「・・・送ってあげるよ」

「えー、で、ヒッ、でもー・・・」

「大丈夫。ボク、シンシだから」

 どう見たって紳士とは程遠いのだが、口から出まかせが身上だから、実はどうでもいいのだ。

「じゃあ、ヒッ、おねがいしちゃおっか、ヒッ、なあー」

 速攻でタクシーを捕まえ、あとは勝手知ったるホテル街に行ってしまえばこっちのもの。そう思っていたのだが、

「運転手さん。カスガチョウで一人降ります」

 なぜか初っ端で淀みなくこう言われてしまい、出鼻をくじかれた。

 でもその後はオーモリの肩に頭を載せ、うとうとし始めたスミレちゃん。彼女から湧き上がるフルーティーな香りを胸いっぱいに吸い込み、これはイケるぞ。イカねば人類が許さない! と奮起した。

 そっと肩を抱いてしなやかな身体を引き寄せる。思ったより量感のある胸が当たる。これはもうっ!

 うん!

 スミレちゃん、キミはボクにいただかれるのが運命だったんだよ。

「あ、運転手さん、そこ左」

「運転手さん、もう少し先の黄色い看板で右ね」

 酔っていてウトウトしながらも要所要所で目覚めてしまう彼女。

 ホテル街はムリ。これはもう、彼女の家でいただくとすればいいのではないか・・・。

「そこのマンションの前です」

 口調はハッキリしているのに足が覚束ない。ぐったりと寄りかかってくれるから自然に料金を払う。彼女も何も言わないし。

「スミレちゃん、大丈夫? 心配だから部屋まで送るね」

「うーん。うんうん。ヒッ。むにゃむにゃ・・・」

 これはもう。もらうより他に選択肢はない!

 スミレちゃんは三回もセキュリティーのボタンを押し間違え、エレベーターの中で軽くキスしてもむにゃむにゃ言い、よたよたしながらドアの前でポーチを開けて、

「あるえー? カギがないよ~」

「どれどれ」

 なんちゅー、無防備な娘だろうか。親の顔が見たいよ。カギを見つけ刺して回す。

「あ。開いたー!」

 パチパチパチ。

 そんな。拍手されても・・・。

 今からぐっちょんくっちょんにヤラれちゃうっていうのに・・・。完全に酔ってるよ。うへへ。やっぱ、この大学の女の子は、勉強ばっかりしてたんだろうなあ。ウブだなあ・・・。

 ドアを閉めカギをかける。玄関先でもう一度、キス。

「んー。キス、キス、キスーう!」

「こらこら」

 アハハ。

 こんなにカンタンにオトせるなんて。今日は、ラッキーだ。神様、ありがとう!

「お水。お水飲みたいよー、ヒッ」

 水を飲ませると覚めてしまうかもしれない。その前にヤッてしまおう。

「お水はベッドにあるよー。スミレちゃんのベッドは、どこかなー」

「ベッドー。お水ー。お水飲みたいー」

 ふらふら。歩く彼女を追ってベッドルームへ。意外に広い。ワンエルディーケーか。

 いい所住んでんだなあー。

 なら、これからも時々利用させてもらうか。仲間も呼べるし。3P4Pもいけちゃうかもな。いい子、捕まえたなー。ウキウキッ!

「う、ううーん・・・、むにゃむにゃ・・・」

 豪奢な鋳物のフレームのベッドに倒れこむスミレちゃん。

 彼女を介抱するふりをして、さっそくワンピースのボタンを外しにかかる。仰向けに寝ててもボリュームが落ちない。

 スゲー・・・。

 間違いなく、最低でも、Eはある、いや、Fか。

 純朴で清楚な外見とは全く違う、それまでオーモリが見たこともないようなゴージャスなブラジャー。プリンプリンの、おっぱい・・・。

 なんつーんだ、このメーカー。んなのどーでもいー。とりあえず、いただきまーす!

「うえっ!」

 なにこれ。

 ピアス?

 少し色素の濃い乳首に、ダイアモンドをあしらった高価そうなピアスが煌めいていた。

「・・・どう? キレイでしょ?」

「え?」

 完全に酔いつぶれていると思い込んでいたスミレちゃんが、いつのまにかパッチリと目を開けていて、微笑んでいる。

 それが、なぜか、怖い・・・。

「・・・舐めてくれないの?」

 オーモリは完全に固まっていた。

 彼の腕をひょいと上にあげ、もう片方の肩を押すと彼の身体は簡単に仰向けになった。

「え?」

 彼に馬乗りになり顔に乳房を押し付ける。

「舐めてよ。それがしたかったんでしょ」

 もう片方の手を上にあげバンザイさせる。両手がヘッドレストの格子の外に出る。ベッドサイドの、カバーをかけた籠の中から手錠を取り出して格子の外でカチカチと嵌めてしまう。

「うふふ。つかまえた♡」

 そうしておいて、後ろに下がり彼の両足の上に座り込む。これで彼はもう、動けない。

「え?」

 何が起きたのか、今から何か起ころうとしているのか。

 あれだけ泥酔していた女の子。今にも美味しくいただこうとしていた、その矢先に。オーモリにはまだ、自分の置かれてしまった状況がよく理解できていなかった。

「八ちゃん、クマちゃん。おいで」

 え?

 ウスッ!

 どこに隠れていたのか、天井を圧するほどの大男と美形の優男が現れた。

「スミレさん、出番?」

「そ。また一人バカが捕まったよ。あんたの好きにしていいよ。最後までヤッちゃって」

「待ってました!」

「なんだ、お前ら!」

 スミレと入れ替わりにTシャツの大男がオーモリの両足を掴む。彼の脚よりも確実に大男の腕の方が太い。オーモリはジタバタ暴れたそうだったが、ガッチリつかまれた脚は解けない。もう一人の優男がせっせとオーモリのベルトを外しジーンズを脱がしにかかる。

「何すんだよ!」

 やっと状況が分かりかけてきたようで、オーモリが叫びだした。

「脱がしてんだよ」

「だから、何するつもりなんだっ!」

 大男がヒョイと両足を上にあげる。そこを優男がスルリとジーンズを抜く。尻さえ抜けば後はラクだ。オーモリのオレンジのビキニショーツがあらわになる。

「うわ。もっこりしちゃって♡」

 優男の手がそこに触れる。

「・・・やめろってっ!」

 オーモリの声に鳥肌が立っている。

 大男は顔を背けている。そういう趣味はないとでも言いたげに。

「早く済ましちゃえよ」

「だって、このコ。前のコより美味しそうなんだもん。じっくり味わいたいよ」

 その間にスミレはワンピースを脱ぎ下着姿になってスマートフォンを構えた。

「さあ、クマちゃん。この前みたいにねっちょりぐっちょり、ズコバコやっちゃってね。バッチリ撮るから」

 大男が左右の足を掴んでいた手をサッと入れ替え、くるっと身をひるがえして逆向きにオーモリの身体に馬乗りになった。優男が工事用の黄色と黒のまだらのロープをオーモリの片方の膝上に巻き付けてヘッドレストの方に引っ張り、縛り付ける。

「・・・やめろ、やめてェっ、お願い・・・」

 オーモリの声が震えている。やっと自分の置かれている状況が飲み込めたらしい。大男が彼の身体から降りてもう片方の脚をぐっと開いて大きな手で彼の口をふさいだ。

「我慢しろ。すぐ済む」

「えーっ? ちょっとは楽しませてよ」

 優男がジーンズを脱ぎながら抗議する。下着を脱ぐと、もう勃起しているイチモツにコンドームを着け、ジェルを塗りたくっている。

「おー。ご立派」

 スミレはおもしろがりながら優男のソレをアップで撮っている。

「またスミレちゃんのにも入れたい」

「それはまた今度。今はこれ。早くやっちゃって」

 優男は口をへの字に曲げて、オーモリのアナルにもジェルを塗り込む。むがむが何か言いたそうにしているオーモリだが、頭が枕に埋もれるほど押しつけられた手のせいで、何も喋れない。

「いくよ。リラックスして、ちから抜いてね。すっごく気持ちよくなるから」

「・・・・・・!」

 スミレのスマートフォンが鳴る。

「あ、パパだ。いいよ。そのまま続けて」


 

 イワイはスミレのマンションの前で上を見上げた。

「あ、もう、終わった? まだやの。じゃあ、もう少し待っとくわ。・・・そやかて、ボクそういう趣味、ないねん。・・・ボクのキャラやないねんて。そやかてな・・・人の話、聞いとる?・・・わかったよ。やればええんやろ、やれば。十分ぐらいしたらあがるわ。ほなな」

 スマートフォンをタップしポケットにしまうと、イワイは大きなため息をついた。

「ほんにもう・・・。大学生なったら少しは大人しなるかと思ったんやけどなあ。えらい娘と関わってしもたがな・・・」

 ブツブツ言いながらもう一回り散歩でもしてこようと歩き出した。


 

 オーモリは、泣いていた。

 手錠は外され、傍らで仁王立ちになった大男に見下ろされながら、シクシク鼻をすすり上げながら服を着ていた。

 スミレはニコニコしながらスマートフォンを優男に見せている。

 ピンポーン。

「はあい」

 スミレが玄関に立った。

 サングラスをかけたイワイが入ってくる。

「お疲れ様です!」

 大男と優男はそろってイワイに頭を下げた。

 オーモリはベッドの上で膝を抱えて震えている。

「おう! ごくろうやったの。これ、少ないけどとっとき」

「ありがとさんです。じゃ、俺らはこれで。アネゴ、失礼します」

「ありがとね。またね!」

 スミレは二人を見送った。

「おう、おんどれ!」

 イワイはベッドの上で完全に縮んでしまっているオーモリを見下ろした。

「ようもワシの女、手籠めしてくれたの」

「いっ、お、おれ、まだし、してないっすよ!」

「・・・ほう。口ごたえすんの。ほなら、もういっぺんシャテー呼ぼか? またケツ掘られたいん?」

「か、か、勘弁してください。すんませんでしたっ!」

「・・・わかったやろ。ええか。今回はこれで勘弁したるわ。でも二度はないで。もうおぼこい子ォ手籠めしたらあかんど、コラ。今度見つけたらケツ掘られるだけやすまんさかいの。コンクリートの靴はかしてオーサカ湾沈めたる。やるんやったらそれ覚悟してやり」

「も、も、もうぜ絶対しません」

「ワシの女にも近づくな。ええな。・・・わかったら、さっさと消えさらせ!」

 オーモリは二度ほどコケながら、ホラれたケツを抑えながら、そそくさと出て行った。

「こんで、ええの?」

 サングラスを外してイワイは言った。

「ありがと。イワイさん。さすがホンモノは違う」

「なにが『ホンモノ』よ。もう、いややわ。カンサイのイメージ悪なるよ、ホンマ」

 それからスミレに寄ってクンクン鼻を鳴らした。

「酒、大丈夫やな」

「この作戦があったからほとんど飲んでないもん。飲みたかったけど」

 彼はキッチンの椅子に座るとふうっと息をついた。

「送ったって」

「え、帰るの?」

「あたりまえやん。店、戻らな。これでもボク、忙しいねんで。それでもスミレちゃんのためや思うて来たんやわ。頼むわ」
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