二度目の人生も貴方に捧げます!(仮)

諏訪カノン

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序章 転生

#4 神様の駒

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「それで…もしかして、そのマスに停まってしまったのはサイコロを回した自分たちだ。だから私が死んだのは自分達の所為だってことですか?」

『……そうだ。本来、神は下界に干渉してはならない。しかし我々の問題に君たちを巻き込み、挙句なんの関係もない君を死なせてしまった。これは……私達の罪だ』

苦し気に俯いたソウ様と楽神様。喜神様と怒神様、哀神様は申し訳なさそうに視線を向けてきた。

『言いたいことは色々とあるだろう。だがまずは、こちらの問題で其方を死なせてしまったことを謝らせてもらいたい。本当にすまなかった』

神様たちが私に頭を下げる。
世界の最高権力者と言っても良い方々が、軽々と人間相手に頭を下げるのもどうかと思った。それだけ、私の死に責任を感じているという事だろう。
けれどそんなことはどうでもいい。

「…………わよ」

『え?』

「っ!! ふっざけんじゃないわよ!!!」

沈黙を破り、我ながらとんでもない声が出た。思わず耳を塞ぐ神様たちの気持ちは分かる。ソウ様は私を掌に乗せていたので塞げなかったようだ。顔が引きつっている。

「人を駒にゲームしてたですって? 神様だからって何でも許されるわけないでしょうが!! 人の人生なんだと思ってんのよ!!?」

『『『ごもっともです』』』

声をそろえて、肩を縮こまらせる神様たちに、怒るのも馬鹿馬鹿しくなってきた。

「本当に貴方がたは神様なんですか?」

『そ、そこは信じてもらうしかないのだが…』

焦るソウ様の隣で哀神様が失神しそうだ。だが今はそんな事どうでも良い。
幸宏の人生はすべてゲームで管理されていた?

「じゃあ私と付き合ったことも、結婚しようと言ったこととか、自殺したことも、私が庇ったことも……全部ゲームの指令だったの?」

あの笑顔も、大好きだと言ってくれた愛情も、手をつないだ時の温もりも。
一緒にいた時間も全て「ゲーム」だった?
目の前が一瞬にして真っ暗になる。

『それは違うわ!!』

今度は楽神様が大声を上げた。他の四神はぎょっとした顔で彼女を見る。

『彼が貴女に対して抱いた感情は本物よ! 確かにゲーム上、駒は決められた人生を歩むことになる。けれどそれはマス目に書かれた指令を熟す時だけ! 他の時間は全て“柳井幸宏”という人間として、一人の男として過ごしていた! だからアナタと過ごした彼はゲームとは関係なく――生きていたわ!!』

顔を真っ赤に染めて、熱く語る楽神様。
同じ女だからということもあるのか、その言葉は思っていた以上に胸の奥に響いた。

「本当、ですか…?」

『ええ、間違いないわ。ゲームをしながら、私達は貴方達を見守っていたんだから。貴方たちの互いを想う気持ちに…嘘はないわ』

「ぐすっ、楽神様ぁ!」

いらっしゃい、とばかりに伸ばされた楽神様の両手にダイブする。

『よし、よし。辛かったわね』

楽神様は優しく受け止めて下さると、私を自分の頬へすり寄せ、慰めてくれた。
それを見て、呆然と哀神様とソウ様が呟く。

『慰めているけど…楽神も彼女を死なせた一人のはずだよね……』

『ああ、そのはずなんだが…』

『女ってホント、面倒くせぇな』

『奇遇じゃな。儂もそう思っておった』

喜神様と怒神様は呆れたようにこっちを見てきた。
男には分かるまい。これぞ女の特権である。それにしても楽神様の母性、半端ないです。トゲトゲしていた心が徐々に和らいでいくのを感じた。

『あー…こほん。そろそろいいかな?』

おずおずと片手を上げたソウ様に涙を拭いながら頷いた。

「すみません、取り乱しました。
……まあ、その。私が神様の所為で死んだことはもう良いです。今更、謝ってもらっても何も変わらないですし。それに私は幸宏を庇ったことを後悔してませんから」

たとえそれで幸宏が自殺したという真実が消えなくても。

『其方は……強いな。いや、変わっているな?』

「嫌味ですか? 嫌味ですよね?」

私が強いなんてどんな意地悪だ。
某ステキ俳優さながらに、ニコニコ笑顔で怒って見せる。

『い、いやそうではなくて……。幸宏同様に、其方は人の中でも特別なようだ』

微笑ましげに見つめられてしまった。
ソウ様のイケメンオーラにぽっと頬が熱を持ったのは秘密だ。

「そういえば……どうして幸宏は駒なんてやってたんですか?」

きちんと教えてもらいますよ、と神様たちを見る。今更ながら、まだ肝心なことを聞けていないのだ。まあ取り乱した私が悪いんだけど。

『ああ、もちろん。そのつもりでいた』

深刻さを増した表情でソウ様が口を開いた。

『彼は要するに人間の中でも特別な存在だったんだ。来世ポイントについてはソロエルから聞いているか?』

「はい。確か生きている間に良い事をすると貯まるポイントですよね?」

『ああ。そのポイントは人それぞれな訳だが。平均が一千万ポイントだ、とポイント担当天使が集計し、報告を受けている』

何、その経理担当職みたいなの。というか一千万ポイントが平均って高くないですか!? これが普通なの?
私ってどれくらいなんだろう。せめて半分の五百万くらいは良い事したはずだ。うん……心配になってきた。

『お前のポイントは五千万だって。すげぇよな! おめっとさん!』

喜神様がどこから取り出したのか、クラッカーの紐を引いて祝福してくれた。
ありがとうございます。でも、そっか。数字のゼロが一つ足りなかったんだね。ははは――

「って、五千万!? なんで!? どうして!?」

『あら。自分で思ってるより、貴女は良いこといっぱいしてたわよ?』

『一番は、幸宏を助けたことだけど、ね。……ごめんなさい』

自分のことのように喜ぶ楽神様と相変わらずオドオドしている哀神様。

「ああ、なるほど……って、納得できるわけないでしょう!?」

『そう謙遜することはないぞ。事実、お主は良き人間じゃからな』

怒ってばかりだと思っていた怒神様が、まるで孫を見つめるお爺ちゃんのように、表情が柔らかくなる。やめてくだい。恥ずかしいす。
そこでハッとした。

「じゃあ……幸宏は?」

ポイントの話をして、特別とソウ様は言ったということは、つまり……。

『彼のポイントは“一億ポイント”。歴代最高額だ』

マジっすか。私の彼は規格外でした、って題名で小説書けそうな気がする。
いったい何をしたらそんなに貯まるんだか。
確かに付き合う前からお年寄りや子供に人気あったし、困ってる人がいたら手を差し伸べずにはいられない性格だったし。そんな幸宏とお似合いの彼女でいたいからって、私も色々と頑張ろうと思ったこともあったけど……。

(やっぱりカッコイイな…)

と、とか思ってないんだからね! ほ、惚れ直したとかもないんだからね!

「えと、それが理由で駒に?」

『察しが早くて助かる。ポイントが多いほど、次の“命”に付与できる能力が増える。こちらとしても負ける訳にはいかないため、彼を選んだ。幸宏も最初こそ戸惑っていたが、快く引き受けてくれたのだ。彼は本当に良き人間だ』

そりゃ、そうでしょ。私が好きになった人なんだから。
……自分で言ってて恥ずかしくなりました。反省。
ちょっと、喜神様と怒神様。その微笑ましげな目、止めてください。くっ、仲悪いんじゃなかったの、この二人。

「あ、あの、ゲームについてなんですけど……基本的には私の知るすごろくと変わらないのでしょうか?」

こういう時は話題を逸らすに限る。楽神様が空気を読んで答えて下さった。

『基本的にはそうね。でも、このゲームには大事なルールが二つあるわ。一つは“同じマス目に互いの駒が止まった時、相手を攻撃して良い”ということ』

「え。私達がいたのは比較的治安の良い日本ですよ? 攻撃って…!」

『もちろん分かってるわ。けど、攻撃する手段が全くない世界というわけでもないでしょう?』

そう言われて浮かんだのは、刑事ドラマや洋画でよく見る拳銃だ。
それだけでなく、日常にだって包丁やナイフがある。よく考えたら地球あの世界は攻撃しようと思えばいくらでもできる世界だったのかもしれない。

『普段の生活では意識しないものだからのう。理解できなくとも無理はない』

『ま、そこは気にすんなよ。今回のことで、重要なのは“あの日”幸宏はカオスの駒と同じマスに止まったってことだ』

喜神様の言葉にハッとする。

「あの事故の時! 幸宏は確かに、誰かに押されて道路に飛び出した。もしかして、それはカオス側の攻撃だった?!」

お人好しで少しドンくさいところもある幸宏だが、歩道から道路に落ちるというヘマは一度も無かったはずだ。

『でも、疑っていたでしょ?』

「少しだけですよ、ははは」

また顔に出ていたらしい。楽神様にあからさまな作り笑いを向けておく。

『私達もカオス側の攻撃だとみている。
幸宏は其方と信号待ちをしていた時、奴らの駒と同じマスに到達した。止まった瞬間にこちらと駒は互いに連絡を取り合えるのだが……その最中にあのようなことになるとはな……』

ソウ様が悔しそうに唇を噛みしめる。
そういえば、と事故の前に幸宏は何かを言い掛けていたことを思い出す。
もしかしたら私にそのことを伝えようとしていたのか。
もしくは優しい幸宏のことだ。私を巻き込まないようにと、自分から遠ざけようとしていたのかもしれない。

「それで二つ目はなんです?」

今度はソウ様が答えてくださった。

『もう一つは……“駒は相手の駒により殺されるか、自ら命を絶つ以外に死ぬことは無い”というモノだ』

「……。それじゃあ、幸宏が死んだということは、ソウ様たちはゲームに負けた?」

『ああ。そのはずだった』

『けど、何故かカオスは言った。「ゲームはまだ、これからだ」ってね。しかも嬉しそうな笑顔付きだったぜ』

嫌なことを思いだした、とソウ様と喜神様の顔が引きつる。私の体も恐怖に震えた。

『まあ、その理由は後で亡くなった幸宏がここに来た事で分かったわ』

「え……幸宏もここにきたんですか!?」

驚きの新事実だ。というか、もっと早くそれを言って欲しかった。
幸宏も亡くなったなら、この世界で会えるかなを思っていた心に光が差す。

『そりゃあ、俺たちの駒だったし? 何より、幸宏は一度転生した姿だからな。それもここでの記憶や前世の記憶を持って“柳井幸宏”として二度目の人生を歩んでいた訳だし。ここに来るのは自然じゃね?』

再びの新事実。じゃあ幸宏の精神年齢って実は……お爺ちゃんくらいだったの?
というか、この神様たち大事な事をサラッと流すの止めてくれませんかね。これじゃあ心臓がいくつあっても足りないから。それよりも――

「今、幸宏はどこに?! この世界にいるんでしょう!?」

『えっと。いるには、いるけど……』

楽神様がチラリとソウ様に説明を投げた。

『いや、実は数分前まではいたのだが……。多分、今はすでに“転生の穴”に着いている頃では……』

「っ!! 今すぐ、追いかけます! 楽神様、下ろしてください!」

『ちょ、ちょっと危ないわよ!?』

手から身を乗り出した私を慌てて楽神様の指が押し留める。

『ここからでは転生の穴へは行けない。例え神である儂らでも“転生の門番”の許しなしには通ることが出来ないのじゃ』

『送っていってあげたい、けど……ごめんなさい。諦めて……』

「っ……でも! 今、行かなくちゃ、いつ会えるっていうの? 転生したら、それは幸宏じゃない。私が大好きな幸宏じゃないでしょ?」

われながらクサい台詞だと思うけど、すべて本音だ。
結局のところ、自殺した切っ掛けが「私が死んだことへの後悔やショックから」というのは、私や神様の推測でしかない。
ソロエルも彼等に頼まれて捜査していると言っていたし、本人に聞くのが手っ取り早い。

「私は、幸宏の気持ちが知りたい。……ただ、会いたいだけだよ」

懇願するように神様たちを見上げた。

『……。』

しかし彼等は何故か互いの顔を見合わせる。その表情はどこか戸惑ったような、何か困っているようにも見えた。
けれどただ一人、喜神様だけが平然とした様子で爆弾を落とした。

『幸宏はお前に会いたくないってさ』

「え……?」

『ちょっと、喜神!』

『なんだよ。本当のこと教えた方が、諦めがつくってもんだろ?』

『そう言う問題じゃ…!』

あっけらかんとした喜神様に楽神様が怒ったように声を荒げる。
すると何やら思案顔だったソウ様がスッと私を見据えた。

『いや、良い切り口になった――美桜』

「……はい?」

不機嫌な声を上げてしまった。だって恋人(しかも結婚を約束した相手)に会いたくないとか言われて、正気でなんかいられない。心の中は巨大台風が訪れた時の海のように、大荒れである。

『先に言った通り、ゲームはまだ終わっていない。それは幸宏が死んだ時、相手の駒も死んだからだ』

「……あの事故で?」

『それは分かっていない。カオス側も真相は明かそうとしなかったからな。しかし勝負は引き分けとなり、新たにゲームが始まった』

そこで言葉を切って、ソウ様は自身の大きな掌に小さな光を集めた。彼等からすれば米粒くらい。私から見ても三センチくらいの大きさだ。

『すごろくというゲームと基本的なルールは変わらない。ただ、新たなルールを付け加えるとカオスは言った』

収縮していく光を目で追うと、そこには片耳用のイヤリングがあった。

『駒は全部で“五人”。先のゲームの駒以外に、四人を追加する。その五人の内、だれか一人でもゴールに辿り着くことができたなら、勝ちだという』

「……幸宏は強制参加ってことですか?」

『ああ。だが彼は今回も承諾してくれたよ。一つの条件を提示して』

最後の言葉に、何となくその「条件」がなんなのか分かった。

「私をそのゲームに参加させるな、とかですか?」

深く頷くソウ様に、先程の会いたくないというのも納得した。
私も逆の立場だったら、幸宏の顔を見た瞬間、一緒の世界で一緒に戦って欲しいと言ってしまう。
同じように、どうしてこのゲームに参加した、とか。なんで黙ってたの、とか。色々と聞かれるのはすごく嫌だし、危険なゲームに参加させる事も反対だ。
大切な人だからこそ、言えない……言いたくないことがあるものだ。

「なら、私にもう用はないんじゃないですか? ゲームには参加できないんだか、ら……。あれ……?」

ちょっと待って。ならなんで私はここに呼ばれたの?
幸宏の死について教えたかったというなら、ソロエルを通して伝えればいいだけの話だ。
直にあって謝りたかったというのも考えられる。けど、今この時にも人はたくさん亡くなっているだろうし、私一人に時間を割くなんてこと、神様があるのかな。
現に彼が自殺したという事実はソロエルから聞いたし、それだけでも十分な気がする。

(もし……。もし、他の理由があって呼ばれたんだとして、私が望む答えは――)

期待の眼差しでソウ様を見れば、それはもう美しい笑顔で片手を差し出してきた。

『笠木美桜。この《ゲーム》に、私の駒として参加してはくれないだろうか?』

掌の上で小さくも、強い光と存在感を放つ銀の細工に、ソウ様の瞳と同じ金色に近い色の宝石が付いたイヤリング。
コレを受け取れば、ゲームに参加したことになるらしい。

私は楽神様の手からソウ様の手に飛び移った。


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