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妄想とこじつけ
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「アニエス妃についてなんだが」
「……」
「君の側妃なのかい?」
「は!?」
あまりに突拍子もない問いかけに思わず声を出した。
その様子をゲルハルトが楽しそうに見ているのを見て慌てて表情を改める。
「いや、失礼。てっきりそう思ったけど違ったのかな? その反応は」
「……悪質な冗談ですね。彼女の名誉にもかかわる」
憮然とエルヴィンは言い返した。
正妃どころかまだ結婚もしていない。更にそれ以前に婚約者すらいない。
アニエスがそんな自分の側妃。どこからそんな話が出てくるのか。
「何か君、少し変わったかい? 彼女の名誉って」
「別に何も。私は私です」
「悪い悪い、そう膨れないでくれ。でも、そう思うのも無理ないと思わないか?」
「全く思いませんね」
エルヴィンの本質を見透かした様な言葉遣いが癪に障る。
むかつきが頂点に達した。
この男が自分の側近候補から外された性格の一端が垣間見えている。
王室の人物調査による判断は正しかった様だ。
高すぎる自尊心に率直な物言いからくる節度と王室への敬意の欠如。
学園の門をくぐれば身分は忘れろ。
そんなものはご立派な建前に過ぎない事は皆分かっている。
決して馬鹿ではないゲルハルト自身も分かっている筈だ。
なのに個人的な負の感情から最大限、建前を利用して悪意ある絡みをする。
粘着的で典型的なサディスト。
(昔、側近を外された時の恨みが爆発したらしいな)
「……じゃあ、そう思う根拠を言うけど」
別に聞きたくない。
そう思ったがこの状況と学生身分を利用してゲルハルトはかまわず続ける。
「第一に、既にいる側妃殿下のお二人はまだお若い。
君の弟だってまだ生まれる可能性もあるだろう?」
「……」
「第二に、それでも追加で側妃を迎えるとしたら余程彼女を愛している場合だ。
でも在学中にアニエス妃にそんな噂は流れた事は全く無かった」
「……」
「第三に、そうでもないとすると彼女を側妃に迎えるメリットが他にある筈だ。
でも、フェラー伯爵家と縁を結ぶメリットが王室にあるとも思えない。
伯爵領は経済的にそこそこだが貴族間での影響力も特に突出している訳ではないしな」
「……」
「そして最後だが、そもそも陛下より君の方が年齢的にしっくりくる」
「妄想もいい加減にして下さい」
怒りを押し殺してゲルハルトに言い放つ。
ゲルハルトは自分の推測で王室の者に対して無遠慮な物言いをしている。
(ここが学園なんて関係ない。不敬罪に問いたくなってきたな)
そう思いつつゲルハルトの云う事を否定しきれない事も頭の片隅で理解していた。
最近エルヴィンが気付いた事があるからだ。
アニエスの王室入りは知られていてもその身分についての周知が足りない。
国王の妃にしては目立つ儀式をしないまま後宮入りしたせいかもしれない。
側妃は側妃でも自分の側妃という勘違いをしている者もいた程だ。
現に目の前の男の様に。
「妄想ついででおまけに言っておくよ。無理ない事だったんだ。」
「……何が?」
「『彼女の強さ』についての推測さ。
所詮、彼女は女性だから男性の王国騎士なり職業剣士とかには及ばない。
でもこの私が後れを取るくらい学生レベルでは群を抜いて強かった。
納得いかず、調べた。なにがしかの理由があると思ってね」
「……」
「彼女の髪の色、珍しいだろう?」
アニエスの髪は赤に近い金髪だ。
この国では赤髪はかなり珍しい。居ない訳では無いがほぼ見ない。
「別の大陸のある国のおとぎ話に出て来る面白い話があってね。
古代の『剣聖伝説』ってやつだ。それに出てくるのと同じ髪色なんだよな」
「それが何です」
「彼女の遠い先祖がもしかしたら海の向こうのそこから流れてきたかもしれない。
その話では、かの人物は魔力を全ての動作に上乗せ出来たと言われているんだ」
「彼女はおとぎ話の登場人物の血筋だとでも云うんですか」
「あながち間違いじゃないと思うけどね。遠い遠い、それこそ大昔の血筋の隔世遺伝とかかな。でなきゃあの華奢な体つきであの妙な強さは説明出来ない。
本人は何も言っていなかったし何も知らないかもしれないが」
(馬鹿馬鹿しい)
エルヴィンは内心でそう断じた。
剣の腕が強いか弱いかは単に9割9分9厘の修練と1厘の才能だけだ。
彼女の強さもそこから来ている筈である。
つまり、ゲルハルトはアニエスの努力による成果を否定したいのだ。
だからエルヴィンは嫌いな先輩の見解を皮肉でまとめた。
「そんな埒も無いこじつけをしないとプライドが慰められなかった訳ですね」
「……言うねぇ、君も」
「時間は貴重です。だいぶ時間を無駄に費やしました。そろそろ失礼します」
「そうかい、悪かったね。剣技会の対決を楽しみにしてるよ」
ひらひら手を振るゲルハルトを一顧だにせずエルヴィンは生徒会室を出た。
不愉快な時間はようやく終わった。
「……」
「君の側妃なのかい?」
「は!?」
あまりに突拍子もない問いかけに思わず声を出した。
その様子をゲルハルトが楽しそうに見ているのを見て慌てて表情を改める。
「いや、失礼。てっきりそう思ったけど違ったのかな? その反応は」
「……悪質な冗談ですね。彼女の名誉にもかかわる」
憮然とエルヴィンは言い返した。
正妃どころかまだ結婚もしていない。更にそれ以前に婚約者すらいない。
アニエスがそんな自分の側妃。どこからそんな話が出てくるのか。
「何か君、少し変わったかい? 彼女の名誉って」
「別に何も。私は私です」
「悪い悪い、そう膨れないでくれ。でも、そう思うのも無理ないと思わないか?」
「全く思いませんね」
エルヴィンの本質を見透かした様な言葉遣いが癪に障る。
むかつきが頂点に達した。
この男が自分の側近候補から外された性格の一端が垣間見えている。
王室の人物調査による判断は正しかった様だ。
高すぎる自尊心に率直な物言いからくる節度と王室への敬意の欠如。
学園の門をくぐれば身分は忘れろ。
そんなものはご立派な建前に過ぎない事は皆分かっている。
決して馬鹿ではないゲルハルト自身も分かっている筈だ。
なのに個人的な負の感情から最大限、建前を利用して悪意ある絡みをする。
粘着的で典型的なサディスト。
(昔、側近を外された時の恨みが爆発したらしいな)
「……じゃあ、そう思う根拠を言うけど」
別に聞きたくない。
そう思ったがこの状況と学生身分を利用してゲルハルトはかまわず続ける。
「第一に、既にいる側妃殿下のお二人はまだお若い。
君の弟だってまだ生まれる可能性もあるだろう?」
「……」
「第二に、それでも追加で側妃を迎えるとしたら余程彼女を愛している場合だ。
でも在学中にアニエス妃にそんな噂は流れた事は全く無かった」
「……」
「第三に、そうでもないとすると彼女を側妃に迎えるメリットが他にある筈だ。
でも、フェラー伯爵家と縁を結ぶメリットが王室にあるとも思えない。
伯爵領は経済的にそこそこだが貴族間での影響力も特に突出している訳ではないしな」
「……」
「そして最後だが、そもそも陛下より君の方が年齢的にしっくりくる」
「妄想もいい加減にして下さい」
怒りを押し殺してゲルハルトに言い放つ。
ゲルハルトは自分の推測で王室の者に対して無遠慮な物言いをしている。
(ここが学園なんて関係ない。不敬罪に問いたくなってきたな)
そう思いつつゲルハルトの云う事を否定しきれない事も頭の片隅で理解していた。
最近エルヴィンが気付いた事があるからだ。
アニエスの王室入りは知られていてもその身分についての周知が足りない。
国王の妃にしては目立つ儀式をしないまま後宮入りしたせいかもしれない。
側妃は側妃でも自分の側妃という勘違いをしている者もいた程だ。
現に目の前の男の様に。
「妄想ついででおまけに言っておくよ。無理ない事だったんだ。」
「……何が?」
「『彼女の強さ』についての推測さ。
所詮、彼女は女性だから男性の王国騎士なり職業剣士とかには及ばない。
でもこの私が後れを取るくらい学生レベルでは群を抜いて強かった。
納得いかず、調べた。なにがしかの理由があると思ってね」
「……」
「彼女の髪の色、珍しいだろう?」
アニエスの髪は赤に近い金髪だ。
この国では赤髪はかなり珍しい。居ない訳では無いがほぼ見ない。
「別の大陸のある国のおとぎ話に出て来る面白い話があってね。
古代の『剣聖伝説』ってやつだ。それに出てくるのと同じ髪色なんだよな」
「それが何です」
「彼女の遠い先祖がもしかしたら海の向こうのそこから流れてきたかもしれない。
その話では、かの人物は魔力を全ての動作に上乗せ出来たと言われているんだ」
「彼女はおとぎ話の登場人物の血筋だとでも云うんですか」
「あながち間違いじゃないと思うけどね。遠い遠い、それこそ大昔の血筋の隔世遺伝とかかな。でなきゃあの華奢な体つきであの妙な強さは説明出来ない。
本人は何も言っていなかったし何も知らないかもしれないが」
(馬鹿馬鹿しい)
エルヴィンは内心でそう断じた。
剣の腕が強いか弱いかは単に9割9分9厘の修練と1厘の才能だけだ。
彼女の強さもそこから来ている筈である。
つまり、ゲルハルトはアニエスの努力による成果を否定したいのだ。
だからエルヴィンは嫌いな先輩の見解を皮肉でまとめた。
「そんな埒も無いこじつけをしないとプライドが慰められなかった訳ですね」
「……言うねぇ、君も」
「時間は貴重です。だいぶ時間を無駄に費やしました。そろそろ失礼します」
「そうかい、悪かったね。剣技会の対決を楽しみにしてるよ」
ひらひら手を振るゲルハルトを一顧だにせずエルヴィンは生徒会室を出た。
不愉快な時間はようやく終わった。
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