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県外遠征@伊勢

禊の地 二見浦

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「颯人、天照、月読、魚彦、暉人、ふるり、ククノチ、赤黒、ラキにヤト…十柱か。元の命が神とは言え、依代としては規格外だな」
 
「…結局神の序列からは外れっぱなしだから、否定はできないなぁ…」

「階位がないって事か。神格…ご利益は?」
 
「美と豊穣、厄除け、知略、縁結び、心願成就、金運、導き、道開き、料理・調理、技芸ぎげい成就、国家安泰こっかあんねい武運長久ぶうんちょうきゅう福徳成就ふくとくじょうじゅ

 
 
「数が多いのに開運がねぇな。…過去の出来事からするとそうなるか」
「うっせい。他に質問は?」

「現行での仕事は真神陰陽寮の伏見さんから直接依頼なんだろう?今後はどうする」
 
「独立はしてるけどまだ開廃業届出してないんだよなぁ…怨霊退治とか妖怪とか相手に仕事する事になるって。
 一般の人からも依頼を受けたいけど、やりかたがよく分からん」
 
「確定申告は?税理士をつけないのか?」
 
「…そのあたり正直疎い。天文学で手一杯で手をつけてないんだ」


「お前は端から深く掘り下げすぎなんだ。最初は表面を撫でて必要な時に掘り下げりゃいいの。
 税理士は申告が必要ならつけろ。それこそ伏見さんに頼むしかない。長年やらせるなら魚彦みたいに情勢と内情に明るい奴がいい。
 確定申告についてはお前の籍が神界ならそっちに聞かなきゃわかんねーな。そもそも納税義務あるのか知らんだろ?」

「な、なるほど…?」


 
「市井の仕事は、俺だったら事務所を借りて街中に窓口を作る。いくつか作っておけば何かあった時に目眩しになるから一箇所にしない方がいい。
 変な客がつけばその場所だけ閉めちまえばいいんだ。」

「あぁ…確かにそうだな…都内に住まないでいいならその方がいいや。海沿いから離れたくないし」
 
「住まいの場所には周囲に迷いのもりを作るべきだろう。辿り着けるやつは制限した方がいい。
 仕事の方でまずやるべきは事務所の名前を決め、口コミで広げて客を入れればいい。顧客が必要なら伏見さんから上手く手を回してもらう。一回きりで終わる仕事のみにするべきだ」

 

「縁を繋がない方がいいって事か」
 
「そうだ。縁を繋ぐなら人を選ばなきゃならん。芦屋の存在を秘匿してるんだから。
 真神陰陽寮担当の仕事、芦屋担当の仕事を分けて仲介する奴を作り、伏見さんとお前の間に挟んで真神陰陽寮との繋がりを隠せ。
 長命なら数十年を区切りにして何年か引きこもって、ほとぼりが覚めてからまた事務所を開く。
そんな感じでいいんじゃないか?」

 
「なるほど…それで行くか…。
 伊勢神宮参拝の後は、出雲で高天原と国津神を繋ぐ会議が決まってて、後は地方を回る予定だから…そこで手配を始めようかな」
 
「そうだな。あと、今までの仕事でやっていたお礼の手紙やアフターフォローに関しても神継に引き継がせろ。どうしてもやらなきゃならん場所は仕方ないが、全部を全部やるなんてのは無理だ。
 今のままじゃいつかパンクするぞ。その方が相手に失礼だろ」

「むー、わかった…」

 

 現時刻 10:30。古来からの伊勢参り順序を倣い、現在二見興玉神社に向かってるところ。
 白石は個人事業主してたから俺の独立についてアドバイスを貰ってたんだ。
俺の情報を一通り聞いて、伏見さんからも真神陰陽寮の話を聞いて一度で全部理解してる。
 しゅごい。白石かしこい。

 

「…芦屋さん」
「おん?伏見さんどした?」
 
 俺たちは車をニ台に分けて伊勢市駅から移動中なんだけど。伏見さんが運転席でどんよりしてる。助手席の鬼一さんも微妙な顔だ。

「白石君は神継の仕事ではなく、あなたの助手にすべきではないかと思います」
「俺もそう思う。ここまで優秀とは…本気で驚いた。」


 確かになぁー。そうしてもらえると嬉しいんだけどさ。
でも神継の人手不足は深刻なんだよなぁー。うーん。
 白石は魚彦と連絡を取り合って、納税義務についてメッセージで聞いてくれてる。優秀過ぎるぅー。

 
 
「なぁ白石。どっちがいい?」
「助手」

 おっふ。ノータイムで返事が来た。

「給料3倍は無理だぞ?」
「構わん。俺と弟が暮らせればいい。
 神継と兼任でもいいが、事務所に受付人員が必要だろ。お前の眷属では無理だ」
 
「ぬーん…」

「芦屋さん、構いませんよ。給料に関しては間に神社庁を挟んで、彼はそこから出向している事にしますから。組織から出せます。
 真神陰陽寮の仕事をしていただく可能性もありますし、どちらにしても彼が言った仲介機関を育てましょう。僕たちが登仙した後はそれが使えますから、とてもいいアイディアです」


 
「…んじゃそうしてもらおうかな…本当にいいのか?白石」

 白石は伏見さんが持ってきたスーツに着替えてすっかりカッコよくなってる。
たくさんメモを書いた手帳を胸ポケットにしまい、鳶色の目を輝かせながらニヤリと笑む。

 
「願ったり叶ったりだ。俺は組織には向いてねぇ。お前と居れるなら他はどうでもいいんだよ」
「……お、おう…じゃあお願いします」
「任せとけ」

 にべもなく言われて、ほおに熱が集まる。な、何だよ急にさぁ。今までそんな事口にしてなかったのにさぁ。
ドキドキしちゃうだろ。


 
(我の花が浮気をしている)
(し、してないだろ!白石の気配を見ろ!赤しかないじゃん!)
(確かにな。今までのえりーとちーむは皆混じりっけがあったが、此奴はそれがない…様子を見てやる)

 颯人は不服そうな声だ。でも、俺も颯人もずっと白石を見てきたんだ。同じように信頼してくれているとは思う。


 

「登仙すれば寿命が伸びるって事っすか」
「そうです。今の所遠い道のりですが」
 
「具体的には何をしてるんすか?」
「…修練くらいしかできてねぇな。」

「登仙の条件を明確化してないっすね、それ。時間が惜しいっすよ。
特に鬼一さん、あんたは30後半なんだから一番焦るべきだ。魚彦にセッティングしてもらって今晩天照さんと話します」
 
「は、お、おう。…すげーなお前」
 
「俺も登仙しますから。一番出遅れてんのは俺だし、芦屋の助手をするなら長生きしないとなんで。伏見さん、今日のスケジュールですけど…」


 
 し、白石が止まんないぞー!!仙人になるのかお前さんもー!?
 伏見さんと運転しながらぽんぽん話してるけど二人でスケジュール組み換えてどんどん効率化してる。
えっ、これ俺の仕事無くならない?大丈夫?
 
「ま、真幸…白石はヤバいぞ。伏見と張ってるじゃないか」
「俺もそう思うー。神降しどこでしよう…伊勢神宮でさせてもらおうかな」

「それがいい。俺は出雲会議にも出るからな。伏見さん、明日の参拝目的としてはメインが何ですか」
 
「伏見と会話しながらこっちも聞いてんのかお前…本当にやべーな…」
 
 白石は厩戸皇子うまやどのおうじと呼ぶべきかもしれない。うん。
 

 
「今回の参拝については仮にも国のトップ神宮に来れなかった謝罪、国護結界の強化、後は先ほど追加になった白石の神降しですね」

 おお…伏見さんがもう呼び捨てだ!伏見さんの呼び捨ては信頼の証なんだよなぁ…。俺はいつまでもさん付けなんだが。

「芦屋さんは憧れの人なのでさん付けですよ、永遠に」
「俺の頭の中見ないでっ!」

「ほー。そう言う術もあんのか…伏見さん、後で教えてくれ。その方が手間が省ける」
「かしこまりました」
 
「むう…むむー。」


 
 スイスイ進む車はおトイレ休憩のために二見浦駅近くのコンビニに立ち寄る。
車から降りると、伊勢市駅で合流したアリス、妃菜、星野さんが走って来た。

「お疲れ様です真幸さん!飲み物買いますか?わたし行ってきますよ」
「あ、俺が行ってくるよ」
 
「えーダメですよ。真幸さんはそういうのじゃないんで」
「はっ。アリスさんだけずるいです!私も芦屋さんに触ります!」
「なんやて!?私も私も!!」

 アリスが俺の腕を掴んで、星野さんと妃菜が絡んでくる。
ええい、コンビニくらい行かせろっ。


 
「アリス、俺が行ってくる。トイレはここでしなくても二見興玉神社のトイレは改装済みで綺麗だ。芦屋もみんなを構って待ってろ」
 
「お、おう…あんがと…」
「おお、ありがとございますー!」
 
 白石と伏見さんはなんか喋りながら二人でコンビニに消えていく。
…なんで神社のトイレ改装したって知ってるんだ???

 

「なかなかやりますね…彼は」
「星野、この先で目玉が飛び出るぞ。あいつはヤベェ」
「鬼一さんが言うなんてそんななん?」

「そんなだ。じきに分かる。すでに伏見と張ってる」
「「「えぇ…?」」」

 みんな微妙な顔してるな、さもありなん。降って湧いた様な主力人物だからなぁ。んふふ。


 
「そう言えば伊勢神宮の内宮参拝は、明日になったんやな」
「うん。さっき白石と伏見さんが話してそうなりました」
 
「確かにこの後猿田彦神社と、外宮に行きますし、歩数的にはその方が良さそうですねー」
「効率化の鬼だあいつは。正直話についてってねぇぞ俺は。今晩天照と登仙についても確認会議するってよ。」

 
「はー!なるほど…条件的なものはまだ分かりませんもんね!すごいです!」
 
「そうなんだよなぁ。俺が知ってるのだと人間は無理ってわかっちゃったし…正直打つ手がなかったから…助かるよ」

 そうこうしているうちにコンビニから出て来た白石がみんなに水を配り始めた。


 
 
「これから歩きが多くなるんで、悪いけど水にしてくれ。
ちびちび飲んでくれりゃ外宮までは持つ。綺麗なトイレは二見興玉神社と外宮のみだ」
「「「はーい」」」

 
 みんなに水を配り終えて、白石が戻ってくる。俺と鬼一さんは伏見さんからボトルを渡された。
…トイレ把握をどうしてそんなにきっちりしてるんだ?????

 
「芦屋、トイレは女性にとっては大切なもんだ。男も膀胱が小さいんだから管理するんだよこう言う時は。お前は出ないからいいけどな」
「んなっ!?もう頭の中よんでる!?」
 
「コンビニでやり方聞いた。伏見さん、赤福の善哉が食いたいならここで食った方がいいっすよ。冷やしぜんざいだから熱中症予防にもなる。おかげ横丁だとめちゃくちゃ並びますから。こっちは空いてる」
 
「は、はい…ではおやつを食べてから参りましょうか…」

「「「なるほど…」」」
「な、言ったろ?白石はすげえんだ」

 神継みんなに言われて、白石はほんのり頬を染める。て、照れてる!?


 
「うっせぇ。さっさといくぞ。今日は外宮周りまで終わらせるんだからな」
「ハイ…」


 みんなの苦笑いをもらって、俺はすごすごと車に戻るのであった。

 ━━━━━━

二見興玉神社は伊勢湾の出口あたりにある、禊の地として有名な神社だ。
 規模は小さいが伊勢参りの順路としてはここが始まりになる。
 結局コンビニからすぐの二見浦駅に車を置いて、途中の赤福で冷やし善哉を食べて、徒歩で向かうことにした。大体15分くらいで着くみたい。
海沿いに松がずらっと立ち並ぶ二見浦公園を通って、神社に向かっていく。

 
 
「あっ!松尾芭蕉さんを発見しましたよ!」
「お、おん…どこにでもいるな…」

 途中で松尾芭蕉の句碑が現れた。アリスがしゃがんでじっと眺めてるが、石に刻まれた文字の中に砂浜の砂が入ってる。…こういうの、気になるな。
なんとなくその砂をほじくり出して、出羽三山神社で芭蕉さんに会った時のことを思う。
 
 分霊ねぇ…誰がそんなこと教えたんだろうな…。前世の自分と話すことなんか普通あるんだろうか。

 
「…真幸、今まで句碑触って来たんか?」
「ん?なんとなく触ってはきたけど…なんで?」
「なんか…石にあんたの神力が移ってるで」
「えっ!?そうなの!?」


 
 ふむふむ、と伏見さんが句碑を眺め、合点が言った様にあぁ、と頷いた。

「神の祝福という物ですねこれは。土地に力を与える様です」
「へー…」

 ぽすぽす、と句碑を叩いて再び歩き出す。海風が気持ちいい。石畳が敷かれて歩きやすいし、そんなに混んでないから貸切状態だ。
 …商店街はちょっと寂しい感じだけど。

 
「真幸さんが祝福を与えたならまた栄えるかもしれませんね鬼一さん」
「そうだな。しかし、流石清めの地だな。変なものは小物一ついない」

「そうですねぇ。空気も綺麗ですし、海がエメラルドグリーンでキラキラしてますよ。私も奥殿と来ようかな…」
 
「星野さんは新婚だもんね」
「えへへ…ハイ」

 みんなでわちゃわちゃしながら歩いていたら、あっという間に神社に到着。鳥居に頭を下げて、早速お邪魔しよう。


 
 二見興玉神社の祭神は『興玉大神オキタマノオオカミ』、『猿田彦大神サルタヒコオオカミ』『宇迦乃御魂大神ウカノミタマノオオカミ』だ。
 オキタマノオオカミはサルタヒコオオカミと同一視されてるから、土地神として分別しているのかな…?こういうのは神社関連の謎の一つだ。
 
 サルタヒコオオカミは、ニニギノミコトが降臨した際に一行を先導した神様。
 道開きの神様としての役割だ。
 俺は一度高天原の温泉で会ってるんだけどさ。賑やかしくて元気な神様だ。久しぶりに会えるし楽しみだな。


 
「ややっ!?カエルさんだ!!きゃわいい!!」
 
 海沿いの岩壁に沿ってカエルさんの石像がたくさん置いてある。大きいのから小さいのまでずらっとたくさん…かわいいなぁ。

 
「でたで、真幸のかわいいもん好きが」
「いやーこれはかわいいですよ。あっ!手水舎もカエルがいますよー!」
 
「わー!色付きだ!小さいのもいる…きゃわいいー」
「…確かにかわいいやん…人気ありそやな…」

 妃菜とアリスと三人でキャッキャ言いながら手を清めていると、奥から神主さんらしき人が走ってくる。
 おお?浄衣着てるけど…なんか祭事か?

 
 
 俺の目の前に伏見さんと白石が立って、神主さんに頭を下げる。…何が始まったの?

「真神陰陽寮御一行様ですね!
 お、お待ちしておりました!!!不肖私双海ふたみがご案内つかまつります」
 
「お迎えありがとうございます。私は真神陰陽寮の伏見です。彼はヒトガミ様の助手の白石です」
「双海さん、初めまして。国護結界を結ばせて頂いたのに、お伺いもできず申し訳ございませんでした」

 し、白石敬語使えるの!?えっ、な、何が起きてるんだ???


 
 
「ははぁーっ!滅相もございません!…ヒトガミサマに祝福を賜ることは…可能でしょうか」
「ええ、構いませんよ。ヒトガミ様、お召替えを」

「はぇ」

 
(芦屋、お前がちょくちょく来れないんだからこう言う時はあまり親しくするな。地下鉄で着てた着物に変えればいい)
 
(はっ!なるほど??いつの間にそう言う話してたんだ…しゅごい)

 白石が隠す様に上着で体を覆ってくれて、その中で俺は衣服を変える。
 
(できたか?)
(うん…)

 白石と伏見さんが手を差し伸べて来て、それに手を乗せる。…エスコート?まるでプリンセス扱いだな?


 
「はあぁ…あぁ…お美しい…」
「ご案内をお願いします、双海さん」
「かしこまりました!!!」

 二人に手を引かれながら社に向かい、本殿で祝詞を捧げた後、夫婦岩を見に行く事にした。
 本殿の脇を通り、海沿いの遥拝所に参拝して涼やかな海風を受ける。
夏の暑い日差し、海の香り…若干強風だけど暑い中でこれは、とても気持ちいい。

 
 夫婦岩は男岩と女岩の二つを大きなしめ縄で繋いだ、巨岩だ。
写真で見たよりもずっと大きいなぁ…。
観光スポットと思われがちの物だが、神力が溢れてるところを見ると鳥居みたいな役割がありそうだな。

 
「御名答。日の大神と興玉神石を拝む鳥居の役割だってよ」
「し、白石…俺の役割なんだぞそれは」
 
「アホなこと言ってんじゃねぇ。さっきそこの看板に書いてあっただけだ。」
「くっ!?」


 
 鋭いツッコミに伏見さんがうんうん、と頷く。
 
「白石、知ってると思いますが、芦屋さんは相当なうっかりさんです。気をつけてあげてください」
 
「承知してます。頭がいいやつは注意力散漫なんすよ。自分の興味があるものしか見ないんだから。
 汁物持つと転ぶでしょこいつ。ラーメン食ってた時は、俺がトレーつかんでなければ台無しにしてたっす」

『あー』とみんなに納得した目で見られる。うぅ、仕方ないだろ。直そうとしても中々直らないんだもん。血脈だ!遺伝のせいだ!!

 

「ふ…いいんだよ。芦屋はそのままでいろ。俺たちが手出しできないと困る。何でもかんでも完璧じゃない方が可愛いだろ」
 
「…そ、そう…デスカ」

 汗を拭ったハンカチを握りしめて、なんとなく言葉を反芻してしまう。最近やたらと可愛いって言われるのなんなんだろう…嬉しいけど、なんかこう、んいーっ!?ってなるんだけど。
 
 
「あぁ…そうだ。着物を常用するなら下にちゃんとしたものをつけろ。衣紋を抜いてんだから、うなじが丸見えなんだよ。色気を振り撒きすぎ」
 
「い、色気?」
 
「自覚がねーのか…颯人さんは苦労してるだろうな…」

(その通りだ。)
(颯人までなんだよっ!?)

 
「衣紋を抜いてんのは胸の出っ張りで着崩れるから、それの防止だろ?中性的で神様っぽくていいが、ハイネックと…下はトレンカでも履いておけ。肌を見せるな」
 
「か、彼氏みたいなこと言うじゃん…」
 
「俺は彼氏じゃねぇ。お前が魅力をダダ漏れにするのは良くねぇんだ。
唯でさえその見た目で他者を惹き寄せるんだから、守るこっちの身にもなってくれ。
 夏ならポーラテック、冬ならヒートテック素材にして黒で統一すればいいんじゃねーの?」
 
「…何それ?」

 

 白石がスマホを取り出し、ぽちぽちして見せてくれる。
ほー、足先が出てるタイツみたいなのがトレンカなのね。ハイネックもピッチリ肌にくっ付く感じ。
夏は汗を吸って乾かして涼しくしてくれる、冬は汗で発熱する素材か。
 なるほどなるほど。


「てか、下から排泄しねーのになんで汗かくんだ?」
「俺の場合まだ神様の体にしてないからかな…?」
 
「…めんどくさい配合にしやがって。焦らすつもりはねーけど、早めに覚悟決めて神様の体にした方がいいんじゃね?どうせまた変なこだわりで人間の体のままなんだろ。」

「ふぁ…は、はひ…うぅ…」

 
 

「真幸さんは真幸さんですけどねー。体が変わってもそれは変わらないし。
 でも、お子さんを産むなら授業参観とかあるでしょうし…それまでにはメタモルフォーゼした方がいいでしょうねー」
 
「アリス!どっちでもいいって言ってたじゃん!」

「真幸さんがそうしたいと思ってるからですよ?わたしだって頭の中見えてますからー。」
「せやな、そんなら早うそうした方がええなぁ」
「くぅ…」

 
 
「芦屋は頑固でめんどくさいんだ。納得できりゃ勝手にやるだろう。ヤキモキはするがな」

「すげーな白石」
「鬼一さんはそればかりですね。私も確かに同意ですが。ふくふくしたお姿も見てみたいものです」
「僕も星野に同意です」


 むーむー。みんなして!!
 …でも、まあ、そうだな。納得できれば別にそれでもいいけどさ。
俺が颯人のそばにいる資格云々って言ったら颯人はきっと怒るだろうし。


 

(それはそうだ。我はそなたの命が愛おしいのだ。ここにいる者たちは皆そうだろう?のんびりゆっくり、納得するがよい)

 颯人の低い声に頬が熱くなる。
もう。なんだよ。みんなして俺のことわかりすぎ。


「さて、次は外宮だ。その後猿田彦神社で猿田彦と会って、宿で夕食だぜ」
 
「うん」

 
 白石に言われた通り、着物の下に黒い装束を着て、次の目的地へ向かった。

 
  

  
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