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県外遠征@伊勢

外宮

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「人神様、真神陰陽寮の皆様、ようこそ伊勢へ。
 外宮げくう参拝をご案内致します、渡会わたらいと申します」
 
「渡会さん、初めまして。芦屋真幸です。申し訳ありません、ご挨拶に伺うのが遅くなりました。真神陰陽寮の神継達と今日はお邪魔させていただきます」

「謝罪はご不要ですよ。事前に何度もお手紙をいただき、また国護結界をお繋ぎする時にあなたの神力を感じておりました。
 想像通り、凛々しいお姿でいらっしゃる。おぉ、サルタヒコオオカミ殿もお連れになりましたか。」

 

 外宮の鳥居前で神職さんの御一行がニコニコ笑顔で迎えてくれる。
 猿田彦神社からサルタヒコオオカミも一緒にやってきて、外宮参りに参加するって形になりました。
 
 俺は二見興玉神社から白の着流しと羽織、サルタヒコオオカミはおしゃれな水色グラデーションの着流しだ。…俺たち派手だな?

 
 
「スサノオ殿は、芦屋様の中ですか?」
 
「あ…はい。伊勢参りはまずいかと思いまして。天照…アマテラスオオカミは顕現した方が良いでしょうか?」

 
 
 上下純白の礼服を着用してお出迎えくださってるのは渡会さん…壮年の男性だ。
 この苗字を持っているならかなり偉い人のはず。
 
 渡会氏わたらいうじは鎌倉時代から南北朝時代まで伊勢神道を唱え、外宮の地位、神官と庶民の結びつきを高め、神宮の発展に努めた祠官しかんの家系。
 子孫達は国学、神学者としても名高いお家柄の方だ。…そんな凄い人が案内してくれるのか?
大丈夫かな…。すごく緊張してしまう。

 心配とは裏腹に優しく微笑んだイケオジ渡会さんは、俺の手を握ってぽんぽん、と叩く。


 
「お好きにしていただいて構いません。ただ、そうですな…内宮ないくう参拝時はあちらの指示通りにされた方がよろしい。」
 
「天照はやめときな、高天原で会議中だ。内宮参拝が明日になってよかったって泣いてたぜー?
 内宮はちゃーんと国で一番の自覚があるからさ。神職の奴らも堅苦しくしなきゃなんねーんだ。渡会みたいにニコニコしてる奴がいるうちに旦那といちゃついとくといーよ。」
 
「サルタヒコオオカミは何言ってんだ!」

 いちゃつくとか言わないの!俺はこう、清い心持ちでもうでさせて貰うんだぞっ!?

「なんだよ、あっちで散々風呂酒飲んだ仲だろー?ちっぱい見せてもらいながら飲む酒はサイコーだったぜ!わはは!!」
 
「やめろ!ヒコ!ばかっ!」
 

 サルタヒコオオカミ…通称ヒコはあっけらかんとした顔でけらけら笑ってる。
高天原の温泉は、混浴だからな。隠す方がおかしいし、温泉はタオル持ち込んじゃダメだし。
 
 いいんだ別に。俺は巨乳を目指してるわけじゃない。
イナンナみたいに重たいおっぱいで、肩こり慢性化はやだ。


 
「ふふ、仲がよろしいですな。お気軽に回っていらしてください。我らは正殿にてお茶でも飲んでお待ちしておりますから。ゆっくりどうぞ」
 
「お気遣いありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げると、神職さん達が手をふりふり中に消えていく。
心遣いがあったかいな…。優しい人たちだ。

 
 
「颯人」
「応。…猿田彦。お主真幸の乳を見たのか。」
「おう。見たぜ?神様の体になってたからそりゃーもう可愛いおっぱいでさー」
「…剣を抜け。」
「えっ」
 
「ちょ、颯人!!何してんの!?出てきて早々キレないで!」
「…我はまだ見ておらぬ」
「し、仕方ないだろ!?あの、その…大して変わんないし!」
 
「そーかー?乳とケツの膨らみはもうちょいあったぜ?背はちっと縮んでたかな。あとあれだ。手のひらに聖痕が残ってた」
「あぁ…なるほど、全身くまなく見たと言う事だな…」

「おっふ、やべ。オレ様も正殿で待ってるわ~!こっわ!颯人こっわ!」

 

 猿田彦が笑いながら走り去っていく。颯人を掴んで後を追わないようにしてるけど、顔が怖い。

「……他に体を見た神は?」
「えっ…え…あの…」
「いるのだな」
 
「い、いるけど!!もう、そんな話してる場合じゃないだろ。」
「芦屋の言う通り。さっさと参拝済ませるぞ。
 颯人さん、そう言う話は布団の中でするんだよ。うまく使ってくれ」
「……なるほど。わかった」

 わかられている!!!!
 ええい、もう、知らないからねっ!!

 伏見さん達の生暖かい眼差しを受けつつ、颯人にしっかり手を握られて外宮の鳥居に頭を下げた。

 ━━━━━━


 
「はー、おなかいっぱーい」
「真幸、お前神様になったらよく食うな?ふるりといい勝負じゃないか」
「そんなに食べてる?鬼一さんもいっぱい食べるようになったね」

 
 
 現時刻 20:30。外宮参拝を終わらせて宿に帰ってきたところだ。
 
 神様達も全員顕現してるから賑やかな食卓だ。
伊勢の美味しい海鮮をたらふくいただいてお腹いっぱい。外宮が広くて今日の歩数はニ万歩を超えてる。
俺もこんなに歩いたのは久々だ。

 

 鬼一さんが浴衣姿でニカっと笑って、お茶を啜る。
「俺も体を鍛えてるからな!…鈴村、眠いんなら先寝てろよ。飛鳥殿、連れてってやってくれんか」
「ん、む…まだいける…まだ…。」

 鬼一さんの横で妃菜がうつらうつらしてる。酔っ払いのおじさんみたいなこと言ってるぞ。
飛鳥が苦笑いしながらお先に、と妃菜を抱き抱えて部屋から出ていく。

 

 
「…あの二人は結局くっついたんでしょうか」
「んー、鈴村の心の整理がつきゃあっという間に真幸みたいになるだろうな」
「なるほど、恋バナ仲間が増えそうですね…」

「女の子の意見が聞けるのはいいなぁ…若干気まずいの極みパート5が待ってそうだけど。
 それにしても…あっちの話はなかなか終わらないね」
 
「飯は食い終わってんだからいいだろ。白石の体力が心配だがな」
「そうですね、少し気配が弱めになってます。流石にお疲れでしょう」

 鬼一さんと星野さんが言うように、白石はちょっと疲れてる。気配が弱々しいんだ。
 次々に情報を与えてしまったし、さっきまで猿田彦の面倒見てくれてたし、今は天照と月読と三人で話し合いしてる。
…大丈夫かな。


「俺たちもそろそろ寝るか。真幸もさっさと寝ろよ」
「そうしましょう。芦屋さん、また明日」

「うん、おやすみ」


 二人を見送って、食べ終わった食器を重ねる。今回は珍しくちゃんとした旅館に泊まってるから、部屋だしでご飯をいただいてるんだ。ちなみにここは白石の部屋です。なんでか知らんが白石だけ一人部屋なんだ。


 
「あ、颯人…いいよ。俺がやるから」
「よい。真幸も疲れただろう。足は痛んでいないか?」
「うん、平気。ありがと」

 颯人が一緒に器を重ねてくれて、入り口側のお盆にのせる。
なんか、こういうのいいな。夫婦みたいだ…。
 
 
「ついにその言葉が出たな」
「……ん…うん。颯人は…大切な人だから、お父さんでも、お兄さんでもないだろ?」

 ニコニコした颯人が背中から抱きしめてくる。ドキドキしてるのがバレちゃうよ。

「少しずつ進めばよい。なんと愛おしい人を得られたのかと、幸せでたまらぬ」
「恥ずかしいからそういうのヤメテ」


「へーい!目の前でいちゃこらしないでくださーい。ヤンデレ月読爆誕するよー」
「…我が弟ながら、すでにヤンデレであろう…」
「日本no.2の神様がやめてくださいよ。芦屋、ちょっと来てくれるか」


 
 
 白石に呼ばれて窓側の椅子に座る。旅館って必ずこう言うのあるよね。
 椅子とテーブルの下はカーペットだ。
窓を開けて、白石がタバコに火をつけた。

「すんません、眠気覚ましに一本」
「よい。あとは其方に任せる。残して来た仕事があるのだ。」
「僕の話もしておいてね、ちゃんと」

「っス。じゃあまた明日」
「天照も月読もまたね」
「「応」」

 二柱がさっさといなくなる。…なんか、ちょっと寂しい気もする。みんな、忙しそうだ…。

 

「芦屋、お前も吸ってくれ。ちょっと真面目な話になる」
「お?わかった。」

 浴衣の袖からタバコを出して、火をつける。俺が煙を吐き出す様を見て、白石が椅子の背にもたれかかった。
相当疲れてるな…。

 
 
「大丈夫だよ。俺はまだ始めたばかりで慣れてねぇけど、今後もやらなきゃならん。最初はきついが俺だって明るい未来をもらったんだ。身を粉にして働くさ」
「無理しないで欲しいんだけど…」

「お前が一番働いてんだから、そういうのは見逃してくれ。
 じゃあ、まずは羽化登仙についてだ。」

 白石が煙を吐きつつ、大量のメモ書きの中から一枚の紙を取り出す。
…なにこの文字???見たことのない文字が並んでる。

 

「速記用の特殊文字だ。記者の真似事してたからな」
「へー!へー!!…面白いな…」
「ダメだぞ、お前さんは他に優先事項がたくさんある。休暇期間になるまで教えてやらん。」
「しょぼん…わかった」


「知識欲の塊だな芦屋は…はぁ。
 えーと、人間が仙人になるには具体的な数値とかはねーな。
 必要なのは…
 1.人と隔離する期間
 2.身のうちの五行を完成させる事
 3.利他行りたこうを成す事
 4.一芸に秀でる事
 これらが揃って神様の判定が下りればできる。3.4に関しては神継なら殆ど合格レベルだそうだ。
判定するのは決まった神だが、元々月読もその役割を持っているってよ」

「へぇ、月読が…」
 
「月読は天照の補佐で様々な役割を持ってるし、天照はイザナギの左目、月読は右目から生まれただろ?あいつらは元々セットの神だからな。それで、俺は月読を芦屋から借り受ける形で、依代を勤めたらどうかと提案された」

 えっ。何それ。月読を…貸す??
 そんなことできるのか?


 
「あいつの目的は芦屋のそばにいること。魚彦が今は高天原で馬車馬の如く働いてて月読は比較的手が空いてる。
 さらに言えば、俺はお前の助手だからな。天照の助手である月読から学ぶこともできる。
 借りるってのは、魚彦が昔仮契約したことがあるだろ?あれをやりゃいいんだ」

「なるほど…でも、大丈夫か?…二柱とも体の負担がデカくて、俺は死にかけたぞ」
「其方には神力がない。少々危険だと思うが」

 颯人が心配そうにしてる。俺も心配だよ。天照と月読のパワーバランスはほとんど同じだ。神力があった俺でさえ魂を持っていかれそうだったんだもん。
 神継になったばかりの白石が危険な目に遭うのは…いやだ。

 

「そこは他の神様の力を借りる。導きの神、猿田彦がいるだろ?芦屋もそうだ。内宮にいる神様に力を分けてもらい、誘導してもらう。芦屋の中に降りた時も神々が居所を作ったんだ。
 猿田彦にも頼んであるし、内宮の神にも伝えてくれるようにしてある」
「わ、わー…白石すごいな…」

 びっくりしながら答えると、颯人がふむ、と顎に手をやる。
真剣な横顔の鋭さに…ドキドキしてしまう。
 俺の乙女脳が絶好調なんですが。

 

「それならば…成せるやも知れぬな。念の為魚彦にも来るよう、伝えたほうがよい」
 
「あ、もうメッセしてありますよ。問題ないそうです」
 
「…手配が早いな。
 仙人になる過程の全ては高天原に交代で登らせてもいいやも知れぬ。時の流れが違うのだ。あちらなら現世よりも早く修練できる」
「そっすね。その辺は伏見さんと話しておきますんで、颯人さんにも協力をお願いしたいっす」

 颯人が白石を見つめて、うん、と頷く。
 白石がそのまま目を逸らさず、目の力を強めた。…なんだろう…。

 

「颯人さん、それとは別件で聞いておきたいことがあります」
「なんだ」

「颯人さんは、避妊ってわかります?」
「ししししし白石!?な、何を言い出すんだ!?」

 顔が熱い。白石は真剣な顔してるけど、突然どうしたんだよ…なんでそんな話題を振ってくるんだ!

 

「芦屋、これは照れてる場合じゃない話題だ。仕事をしていく上で産休ってのは計画的に取るべきだろ?
 でなきゃお前が一人で苦労することになる。子育ては手伝えるだろうが、子供を産んだ女性は車に轢かれるくらいダメージを負う。
 さっき聞いたが、神様でも同じで『魂がつけた傷』は癒術が効かない。颯人さんの魂を背負ってやった骨折は、治すのに時間がかかっただろ?」
 
「たしかにそうだった…出産もそう言うものなのか?」
 
「あぁ。お前が独立して事務所を立てて、数十年周期で引きこもるならその時が産休に丁度いい。
 愛情表現で枕を交わすなら、ちゃんと避妊をしてほしいんだ」

「は、あ………ハイ」
 
「避妊…要するに子を作らぬようにと言う事か」
「そうです。芦屋のことだから妊娠しても仕事を押し通すのは、目に見えてる。それを避けたいんで」

 

 言葉が出てこない。
 顔を覆って、机に突っ伏す。
なんという話題なんだ…俺はどうしたらいいんだよ。

 
「芦屋は聞かなくていいから耳でも塞いでおけ。
 人間界では避妊用の道具がありますが、神様はあるんすか?」
 
「道具はないが、互いに子が欲しいと思い…体を重ねるときに誓い合えば出来るものだ。誓と似ている。
 誓は枕を交わさぬが、物実ものざねが必要となる。人は物実が元々備わっているが…真幸の場合は神としての体になれば可能だろう」
 
「天照さんは、颯人さんの勾玉が溶けてるからできるって言ってましたが、それは?」

 
「自身の勾玉では物実とならぬのだ。我が人の姿の真幸と子をなすには別の勾玉がいる。眷属の勾玉では真幸の子にはならぬ。
 神の姿となれば問題は全て解決だ」
「なるほど。んじゃわかりやすくていいな。子作りしたくなったら神様の体になるって事でいいっすか」
 
「そういたそう。…真幸、よいか?」

 
 
 耳を塞いでも聞こえるから、恥ずかしくて体が震えてくるんですけど!!それって俺が…エッチなことしたいと思ってるのがバレバレになるってことじゃんか!!

「別にいーだろ?恋人なんだぜ?して当然のことだ。
 お前が嫌なうちは強制しないが、その辺りは仲間内でわかったほうがありがたいし…その、なんだ。
 お祝いしてやりたいし、幸せになる芦屋を見て…おこぼれが欲しい。俺は、恋人を作らないって決めてるからな」

「白石…どう言うこと?」

 

 白石がおほん、とわざとらしく咳払いしてメモをまとめてとんとん、と机の上で揃える。
タバコに火をつけて、窓の外を眺めたまま小さな声で語り出した。

 
「俺は幼少期の頃、隣に住んでたお姉さんが好きだった。ウチが落ちぶれて、自宅を売って、市営住宅に引っ越して別れたんだ。だが、碌でもないゴシップ雑誌の仕事をしてる時に再会した。そんで、ハニートラップされたんだよ」

「……政財界の人だったのか」
 
「そ。元々の実家は閑静な高級住宅街で、近所はみんな金持ちだったからな。
 親が決めた婚約者が腐った議員で『結婚したくない、助けてくれ』って言われて信じたが、殺されかけた。
…ベッドの上で、冷たい目をして笑ってた。初めてみる顔だったな…。」

 ふぅ、と煙を吐き出した白石の顔が歪む。遠い目をして、夜空を見てる。


 
「俺も一応プロだし、金が必要だし、仕事は完遂した。お姉さんの家族も、婚約者の家族もみんな悪いことしてたからな、全員死んだ。
 ハニトラかまして来た初恋の人を、俺が殺したも同然だ。落ちぶれるのに慣れてねぇお嬢様だからな……優しかったし耐えられんかったんだろ。
 俺は、そのままその命を受け取った。
目の前で、恨み言を言ってさ。泣いて叫んで、首を掻っ切って死んだその子を抱いて『愛してる』と言った。」

「……まだ、好きなのか?」
 
「好きだよ。俺はこう見えて一途だ。他の女なんか目に入らんし、入れない。
 たとえ彼女が腐った根性でも、俺を騙そうとした奴だったとしても、ずっと好きだ。
 小さい時、忙しい親には中々面倒見てもらえんかったからな。…二人で寂しさを分け合った。
 俺は、それを一生忘れたくないんだ」

「……そうか…」


 
 白石の心のうちに巣食う闇が…切なくてあたたかいものに感じる。
そう感じさせるのは本人の愛が揺らがないものだから。
何があっても、どんな人でも、白石を好いていなかったとしても…そんなのは関係ないんだ。

「真に愛おしいと思えば、その者がどんな姿でも、どんな命でもそう思える。我にもよくわかるぞ。其方の覚悟は快いものだ」

 
 ふ、と笑って白石が颯人と見つめ合う。二人はあっという間に仲良くなってしまったな…。

 

「颯人さん、芦屋は頑固で強情だろ?本音のところではあんたに体を許してもいいと思ってるだろう。
 でもな、弄ばれてしまった過去がそうさせてくれないんだ。
今の体で結ばれたとしても後悔するかもしれん。颯人さんのことを大好きだし、お互いの熱量は一緒だよ。
 神様の体で、初めてを捧げたいって気持ちがあるけど、神降しをして契約した体で無くなるのが怖いんだ。…そうだろ?」

「……うん」

 真剣な眼差しを受けて、素直に頷く。ほんとに、俺のことよくわかってる。びっくりするくらい。

 

「颯人と契約したのはこの体だし、もし…契約にヒビが入ったらと思うと怖い。
 おかあさんも…俺を生かしたのは、アリスが言うように間違いないと思ってる。その縁が切れるのも…怖い気がする」

 俺の吐露を聞いて、颯人が肩を抱き寄せてくる。されるがままにして、大きな肩に頭を乗せた。
 
 
 
「其方が我の依代だと言うことを忘れてはいまいな?我の血肉を作ったのは誰だ?」
「…俺だと思うけど…」

「そうだ。我の体は、其方の血肉を分けている。元々真幸の体から作られ、我らは命を繋いだだろう。
それに、命は…真幸の魂はここにある」

 颯人が俺の手を取り、自分の心臓に当てる。力強く脈打つ命の鼓動。
手のひらに伝わるそれは、俺と同じ時を刻んでいる。

 

「いつぞや、言っていたな。一心同体だと。まさしくそのままの意味だ。真幸は我と共にあり、我は其方と共にある。恐れることなど何もない。わかるか?」
「うん…」

「あとは、あれだ。飛鳥に聞いた。体を穢されたと思うのなら、お清めせ…」
「わー!!!わー!!!やめて!ストップ!ダメダメダメ!!!」
「むぐむぐ」

 慌てて颯人の口を押さえる。飛鳥!!なんて事教えたんだよ!!!


 
「あ、それはいいな。颯人さん、そうしてやってくれよ。芦屋もそれが一番幸せだろ」
「白石!?何言って…」

 ニヤリと嗤った白石が席を立ち、俺の肩をポン、と叩く。


「せいぜい颯人さんの愛を思い知るといいぜ、その体でな」
「白石!!!」

 あはは!と大きな声で笑った白石が、「月読にも愛がなんたるかを教えてやるよ」と呟いてクローゼットからお風呂セットを取り出した。

「俺、でかい風呂に入りたいから共同風呂行ってくる。いちゃつくなら自分の部屋でしろよな」
 
 白石がいなくなってしまった。
 どこまで傑物なんだあいつは。

 

「…むぅ…むぅぅ…」
「真幸」
「むううぅ」
「そのように膨れても愛らしいな。閨にゆこう」
「むーむー!!むーむー!!」

 屈託なく笑う颯人が俺を抱き上げて、白石の部屋を出る。
エレベーターが降りてくる間にギュッと力を込めてしがみつくと、おでこにキスが落とされる。
 

「今のそなたを、よく見せて欲しい。そのうちに失われる物ならば覚えておきたい」
「……う…ハイ」


 だめだ、これはもう逃げられない。
ずっと熱いままの顔を颯人に押し付けて、小さく返事を返した。
  
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