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アルの欲しいもの
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どれくらい2人で抱き合っていたんだろう。
アルの腕にすっぽりと包まれて、ここが俺の定位置なのだと実感していると、
「それにしても、なぜ折り鶴の話になったんだ?」
と尋ねてきた。
俺は言おうか言うまいか悩んだけれど、内緒にしてまた勘違いしちゃったら嫌だし……と話すことにした。
「あのさ……もうすぐアルの誕生日だろ。だから、何をあげたらいいか香月に相談したんだ。それで香月が……アルが折り鶴を大切にしてるからどんなものでも心がこもってたら喜ぶ筈だってそんなことを言ってた気がする……」
「気がする?」
「正直……折り鶴がアルの初恋だって聞いてそれ以外の話はあんまり覚えてないんだ」
……って、ちょっと待って!
なんか俺恥ずかしいこと言ってないか?
他のことが耳に入らないほど、アルの初恋のこと気にしてたって……それって嫉妬したって言ってるのと同じじゃないか。
確かに嫉妬したんだけどさ……なんか恥ずかしい。
顔がどんどん真っ赤になっていってるのが自分でよくわかる。
う゛ぅーー、アル なんか言ってくれよ!
チラッとアルの顔を見てみると、満面の笑みを浮かべて俺の方を見ていた。
「……アル?」
アルは何も言わずにぎゅっと俺を抱きしめた。
「リクを悲しませたというのに、私はそれを喜んでしまっている。リクが嫉妬してくれたのが嬉しくてたまらないんだ」
「アル……」
俺がアルを見つめると、アルの顔が近づいてきた。
ハッと気づいた時にはアルの唇が俺のそれに重なり合ってた。
愛おしそうに啄む軽いキスを何度も繰り返すと、アルは嬉しそうに『リク、愛してるよ』と囁いた。
『うん、俺もアルのこと愛してる……』
アルは俺の言葉を最後まで聞く前に荒々しく噛みつくような深いキスをして、俺はそれに酔いしれた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「リク、実は欲しいものがあるんだ」
ほんの少しでも離れるのを嫌がってぎゅっと抱きしめられたまま、アルが急に誕生日プレゼントのリクエストをしてきた。
「ほんと? 俺に買えるものだったらなんでも言って!」
「いや、売り物じゃないんだ」
「えっ? あっ、手料理とかそういうの?」
やっぱり香月に教えてもらった方がいいか……。
「ああ、それも欲しいが……私のためだけに鶴を折って欲しいんだ」
「えっ? 鶴? って、折り鶴?」
「そうだ、リクに折ってもらったものを店に飾りたいんだ。だめか?」
「い、いや……そんなことないけど。せっかくの誕生日プレゼントなのにそんなのでいいの?」
「そんなのじゃないよ、リクの折り鶴が欲しいんだ」
心からそう望んでくれてるのがアルの目を見たらよく分かった。
だから、俺は決めたんだ。
「うん、分かった。なら、一緒に折ろう。2人の折り鶴を飾って欲しい」
「ああ、リク。なんていい考えだろう!
早速明日にでも折り紙を買いに行こう!」
アルはまるで子どものように喜んでいた。
翌日、ちょうどシュパースはランチがお休みで夕方からの営業日。
というわけで、俺たちは朝食を早々に済ませ、昨日こっそり調べておいた〈和紙専門店・桜花〉にアルを連れて行った。
俺がミュンヘンのカフェで鶴を折った折り紙は、祖父母が江戸時代から続くこの紙専門店で買ったものだったからどうしてもここに連れてきたかったんだ。
見た目は呉服屋さんのような和の佇まいに少し尻込みしてしまいそうになるが、隣に立つアルはとても嬉しそうだ。
「ここで折り紙を買おう! アルが気に入ったものを見つけてよ」
そういうとアルは嬉しそうに笑った。
引き戸を開けて店内に入ると、なんとも言えない和紙独特の原料の香りがする。
裏に工房があると紹介されていたから、梳きたてでしか感じられない香りなのだろう。
俺たちの他にも何人かお客さんがいるが、みんな外国人の方たちだ。
アルのように和紙や折り紙に惹かれた人たちなんだろうか。
そんなことを考えていると、アルが一枚の和紙を手に取り感慨深そうに見つめているのが見えた。
「アル? 気に入ったの見つかった?」
「リク……これ、リクの折り紙じゃないか?」
手渡された紙は確かにあの時俺が折ったものに似ている。いや、多分これだ。
「すごい! こんなに種類があるのによく分かったね!」
少し興奮気味に話しかけると、アルは瞳を潤ませながら
「あのカフェに毎日のように通ってはリクの折り紙に触れていたからね。身体が覚えてしまっていたみたいだ」
「えっ? 毎日?」
「ああ、ドミニクはイヤそうにしていたけれどね……ははっ」
ドミニクさんの気持ちがわかる気がする……。
それでも、本当に俺の作った折り鶴を好きになってくれてたんだと思うと嬉しくてたまらなくなる。
俺はアルに笑顔で返すと、アルの手から和紙を受け取り会計へと向かった。
アルは自分で払うと言ってきたが、
『プレゼントはここからなんだから!』と言い切ると『分かったよ』といって折れてくれた。
支払いが終わって店を出るとアルは嬉しそうにその和紙を胸に抱き、
「リク、ありがとう」
と言ってくれた。
誕生日当日に2人で一緒に折ろうと約束をし、その日は食事をして俺は自分の家へと帰った。
アルの腕にすっぽりと包まれて、ここが俺の定位置なのだと実感していると、
「それにしても、なぜ折り鶴の話になったんだ?」
と尋ねてきた。
俺は言おうか言うまいか悩んだけれど、内緒にしてまた勘違いしちゃったら嫌だし……と話すことにした。
「あのさ……もうすぐアルの誕生日だろ。だから、何をあげたらいいか香月に相談したんだ。それで香月が……アルが折り鶴を大切にしてるからどんなものでも心がこもってたら喜ぶ筈だってそんなことを言ってた気がする……」
「気がする?」
「正直……折り鶴がアルの初恋だって聞いてそれ以外の話はあんまり覚えてないんだ」
……って、ちょっと待って!
なんか俺恥ずかしいこと言ってないか?
他のことが耳に入らないほど、アルの初恋のこと気にしてたって……それって嫉妬したって言ってるのと同じじゃないか。
確かに嫉妬したんだけどさ……なんか恥ずかしい。
顔がどんどん真っ赤になっていってるのが自分でよくわかる。
う゛ぅーー、アル なんか言ってくれよ!
チラッとアルの顔を見てみると、満面の笑みを浮かべて俺の方を見ていた。
「……アル?」
アルは何も言わずにぎゅっと俺を抱きしめた。
「リクを悲しませたというのに、私はそれを喜んでしまっている。リクが嫉妬してくれたのが嬉しくてたまらないんだ」
「アル……」
俺がアルを見つめると、アルの顔が近づいてきた。
ハッと気づいた時にはアルの唇が俺のそれに重なり合ってた。
愛おしそうに啄む軽いキスを何度も繰り返すと、アルは嬉しそうに『リク、愛してるよ』と囁いた。
『うん、俺もアルのこと愛してる……』
アルは俺の言葉を最後まで聞く前に荒々しく噛みつくような深いキスをして、俺はそれに酔いしれた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「リク、実は欲しいものがあるんだ」
ほんの少しでも離れるのを嫌がってぎゅっと抱きしめられたまま、アルが急に誕生日プレゼントのリクエストをしてきた。
「ほんと? 俺に買えるものだったらなんでも言って!」
「いや、売り物じゃないんだ」
「えっ? あっ、手料理とかそういうの?」
やっぱり香月に教えてもらった方がいいか……。
「ああ、それも欲しいが……私のためだけに鶴を折って欲しいんだ」
「えっ? 鶴? って、折り鶴?」
「そうだ、リクに折ってもらったものを店に飾りたいんだ。だめか?」
「い、いや……そんなことないけど。せっかくの誕生日プレゼントなのにそんなのでいいの?」
「そんなのじゃないよ、リクの折り鶴が欲しいんだ」
心からそう望んでくれてるのがアルの目を見たらよく分かった。
だから、俺は決めたんだ。
「うん、分かった。なら、一緒に折ろう。2人の折り鶴を飾って欲しい」
「ああ、リク。なんていい考えだろう!
早速明日にでも折り紙を買いに行こう!」
アルはまるで子どものように喜んでいた。
翌日、ちょうどシュパースはランチがお休みで夕方からの営業日。
というわけで、俺たちは朝食を早々に済ませ、昨日こっそり調べておいた〈和紙専門店・桜花〉にアルを連れて行った。
俺がミュンヘンのカフェで鶴を折った折り紙は、祖父母が江戸時代から続くこの紙専門店で買ったものだったからどうしてもここに連れてきたかったんだ。
見た目は呉服屋さんのような和の佇まいに少し尻込みしてしまいそうになるが、隣に立つアルはとても嬉しそうだ。
「ここで折り紙を買おう! アルが気に入ったものを見つけてよ」
そういうとアルは嬉しそうに笑った。
引き戸を開けて店内に入ると、なんとも言えない和紙独特の原料の香りがする。
裏に工房があると紹介されていたから、梳きたてでしか感じられない香りなのだろう。
俺たちの他にも何人かお客さんがいるが、みんな外国人の方たちだ。
アルのように和紙や折り紙に惹かれた人たちなんだろうか。
そんなことを考えていると、アルが一枚の和紙を手に取り感慨深そうに見つめているのが見えた。
「アル? 気に入ったの見つかった?」
「リク……これ、リクの折り紙じゃないか?」
手渡された紙は確かにあの時俺が折ったものに似ている。いや、多分これだ。
「すごい! こんなに種類があるのによく分かったね!」
少し興奮気味に話しかけると、アルは瞳を潤ませながら
「あのカフェに毎日のように通ってはリクの折り紙に触れていたからね。身体が覚えてしまっていたみたいだ」
「えっ? 毎日?」
「ああ、ドミニクはイヤそうにしていたけれどね……ははっ」
ドミニクさんの気持ちがわかる気がする……。
それでも、本当に俺の作った折り鶴を好きになってくれてたんだと思うと嬉しくてたまらなくなる。
俺はアルに笑顔で返すと、アルの手から和紙を受け取り会計へと向かった。
アルは自分で払うと言ってきたが、
『プレゼントはここからなんだから!』と言い切ると『分かったよ』といって折れてくれた。
支払いが終わって店を出るとアルは嬉しそうにその和紙を胸に抱き、
「リク、ありがとう」
と言ってくれた。
誕生日当日に2人で一緒に折ろうと約束をし、その日は食事をして俺は自分の家へと帰った。
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