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お揃いの漢服
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ここのテーマパークには持ち込んだ弁当や食事などを保管できるコインロッカーがある。
冷蔵庫より少し高めの温度で適度に保たれているから、晴と理玖が作ってくれた弁当を腐らせたり、崩したりすることなく置いておけるのが助かる。
「さて、荷物も預けたしどこから回る?」
「リク。行きたいところがあるって言ってただろう?」
俺とアルが尋ねると、晴と理玖は顔を見合わせて
「こっち、こっち!」
と俺たちの手を引いてどこかへ連れて行った。
ここのテーマパークはいくつかのエリアに分かれていて、それぞれコンセプトが異なっている。
「ほら、ここだよ」
晴と理玖が行きたがっていたのは、コスプレエリア。
ここではたくさんの衣装の中から思い思いの服に着替えて、その姿のままアトラクションを楽しむことになっている。
コスチュームの種類は数百を超え、例えばメイド服でも数十種類用意されているらしい。
しかも、ここのコスチュームは全て新品で気に入れば買取も可能だというから驚きだ。
その分値段は張るが、他のやつが着た服を愛しい恋人たちに着せたくない我々からすれば、どれだけ値段がかかっても安い買い物と言えるだろう。
「何にするか決めてるのか?」
「ふふっ。アルのは俺が、早瀬さんのは香月がもう決めてるから。アルは俺のを選んでよ」
「隆之さんも僕のを選んでください」
「そうか、楽しみだな」
俺たちは4人揃って、まずは衣装ゾーンへと向かった。
「い、いらっしゃいませ。4人様ご一緒でお着替えになりますか?」
応対に出てきたスタッフの顔が赤い。
それはそうだろうな。
晴と理玖は気づいていないだろうが、俺たち4人が目を惹いているのはパーク内に入った時からわかっていた。
ここに来るまでの間にどれだけの男たちから晴や理玖に視線が浴びせられたか……。
その度に俺もアルも威嚇の視線を向けたから、流石に近づいてくる奴らはいなかったが十分気をつける必要がある。
「二人ずつで着替えます」
「し、承知いたしました。で、ではこちらへどうぞ」
かなり緊張しているようだ。
こんな人気のあるテーマパークならどんな客でもしっかりと対応してもらいたいものだが。
かなり広いスペースに種類ごとに分けられたコスチュームが並べられている。
その周りを覆うように試着室が並んでいて、俺たちは隣同士の試着室を用意してもらった。
「まずは隆之さんのね」
嬉しそうに晴が俺の手を引いて、それが並んでいる場所へと連れていく。
この辺りはどうやら漢服・韓服といった民族衣装のコーナーらしい。
「晴、ここなのか?」
「うん、理玖と二人で調べてたらこれ、絶対に隆之さんに着て欲しいなって思ったんだ。僕が目をつけてたのは……ああっ! あった、これだよ」
そう言って晴が指さしたのは黒地に赤いラインの入った漢服。
まぁ、悪くないな。
「隆之さん、いつもスーツだからイメージの違うものがいいなと思って。だめ、かな?」
嬉しそうに目をキラキラとさせながら俺を見つめる。
こんなふうに見つめられて嫌だなんていうわけない。
「いいんじゃないか、さすが晴だな」
そう返すと嬉しそうに笑った。
俺の衣装を用意してもらっている間に今度は晴のを選ぶ。
流石に種類が多すぎて何にしようか悩むところだが、看護師やC.Aなんかは他の奴らには絶対に見せたくないし、それは二人だけの時でいい。
それなら、せっかく晴が選んでくれた漢服で合わせるとしよう。
そのほうがカップルだとすぐにわかるし、牽制にもちょうどいい。
そうと決まれば話は早い。
俺は晴を連れて、今度は漢服の女性コーナーに向かった。
「うわぁ、すごく繊細で綺麗なドレスばっかり」
「これなんか晴に似合いそうだな」
そう言ってハンガーから取って見せたのは、淡い黄緑色のシルクオーガンジーのドレス。
全体に可愛らしい花の刺繍が施されている。
そして、その上からまるで天女の羽衣のような真っ白な柔らかな羽織を纏うらしい。
「こんなに可愛いドレス、僕に似合うか心配ですけど隆之さんが選んでくれたのならそれにします」
晴は少し恥ずかしそうにしながらもそう言ってくれた。
「じゃあ、これに着替えようか」
スタッフに試着室まで服を運んでもらい、先にメイクと髪を整えてもらう。
晴のメイクはほとんど何もしていないように見えるナチュラルメイクだがどこをどう見ても美人にしか見えない。
「――っ、この人……どこかで……あれ、どこだったかな?」
メイクをしてくれている女性が晴の顔を見て、何かに気づいたようだ。
もしかしたら、リュウールのポスターの人物だと気づいたのかもしれない。
ここでバレては困る。
「メイクが終わったのなら着替えをしたいのだが……」
そう言って晴をメイク室から連れ出し、試着室に戻った。
「さっきの人にバレちゃいましたか? パーク内を歩いてたら他の人にも気づかれたりしないですか?」
「いや、大丈夫だろう。ドレスを着れば印象も変わるし、ウイッグもつければ多分バレることはないだろう」
念の為に晴の髪色を隠すように長いストレートの黒髪のウイッグをつけさせたが、さらに美人に拍車がかかってしまった。
これはかなり牽制しなくてはいけないが、まぁ晴から離れなければ大丈夫だろう。
お互いに服を着せ合い、お互いにあまりにも似合いすぎてため息が溢れる。
「隆之さん、すっごく似合ってます」
「晴もすごく可愛いよ。これは買取決定だな」
「じゃあ、隆之さんの服は僕が買います。また家で来てください」
「ふふっ。そんなに気に入ってくれたのか?」
「いつものスーツもすっごく似合ってますけど、なんていうのかな……やっぱり民族衣装って違いますよね」
「ああ、確かにそうだな。美しく見えるように計算されて作られている気がするな。なぁ、晴。夏になったら浴衣を着て出かけないか? ああ、初詣に和装で行くのもいいな。漢服もいいが、やっぱり和服の晴も見てみたい」
「はい。僕も隆之さんの和装を見たいです!!」
「じゃあ、旅行から帰ったら仕立てに行こうな」
「はい。って、えっ? 仕立て?」
「楽しみだな」
晴が驚いているうちに約束を取り付ける。
これで決定だ。
さて、アルたちはもう着替えただろうか?
長いドレスで転ばないように晴の手を取って試着室の外に出ると、ちょうど隣のカーテンが開いた。
「ああ、アルたちも同じタイミングだったんだな……って、そのアルのその格好は、王子か?」
「ああ、そのようだな。どうだ?」
「やっぱりドイツ人だけあってそういう格好がしっくりくるな。本物の王族みたいな気品と風格が漂ってるよ」
「ははっ。まぁ、一応貴族の末裔だからな」
笑ってさりげなく話していたが、アルの祖先は貴族?
やっぱりなんとなく一般人とは違うと思っていたよ。
「ユキは民族衣装か? それもよく似合ってるな」
「はは。ありがとう。これは漢服。中国の民族衣装だよ」
「ああ、なるほど。じゃあハルの服もお揃いか? 驚くほど美人だな」
視線を向けると、俺たちが話をしている間に晴と理玖は興奮気味にお互いのドレス姿について話をしているが、どれだけ自分たちが目を引く格好かはわかっていないようだ。
「だろう? 可愛すぎて心配だよ。そっちも理玖に姫の格好させるなんて、変なのが近寄ってくるぞ」
「それは大丈夫だ、私は決して離れないからな」
「それは俺もだよ。お互い目を離さずにしようぜ」
「ああ、そうだな」
俺たちが晴と理玖を守ると決めたところで、ようやく試着室を出た。
エスコートしながら、衣装ゾーンを出ると一気に視線が注がれるのがわかる。
俺もアルも転ばないようにするためだからと、ピッタリと寄り添いながら周りに威嚇して歩き始めた。
これなら、流石に変なのは寄ってこないだろう。
それにしても太陽の下で可愛らしいドレスに身を包んだ晴はいつにも増して美しい。
これを選んで正解だったな。
冷蔵庫より少し高めの温度で適度に保たれているから、晴と理玖が作ってくれた弁当を腐らせたり、崩したりすることなく置いておけるのが助かる。
「さて、荷物も預けたしどこから回る?」
「リク。行きたいところがあるって言ってただろう?」
俺とアルが尋ねると、晴と理玖は顔を見合わせて
「こっち、こっち!」
と俺たちの手を引いてどこかへ連れて行った。
ここのテーマパークはいくつかのエリアに分かれていて、それぞれコンセプトが異なっている。
「ほら、ここだよ」
晴と理玖が行きたがっていたのは、コスプレエリア。
ここではたくさんの衣装の中から思い思いの服に着替えて、その姿のままアトラクションを楽しむことになっている。
コスチュームの種類は数百を超え、例えばメイド服でも数十種類用意されているらしい。
しかも、ここのコスチュームは全て新品で気に入れば買取も可能だというから驚きだ。
その分値段は張るが、他のやつが着た服を愛しい恋人たちに着せたくない我々からすれば、どれだけ値段がかかっても安い買い物と言えるだろう。
「何にするか決めてるのか?」
「ふふっ。アルのは俺が、早瀬さんのは香月がもう決めてるから。アルは俺のを選んでよ」
「隆之さんも僕のを選んでください」
「そうか、楽しみだな」
俺たちは4人揃って、まずは衣装ゾーンへと向かった。
「い、いらっしゃいませ。4人様ご一緒でお着替えになりますか?」
応対に出てきたスタッフの顔が赤い。
それはそうだろうな。
晴と理玖は気づいていないだろうが、俺たち4人が目を惹いているのはパーク内に入った時からわかっていた。
ここに来るまでの間にどれだけの男たちから晴や理玖に視線が浴びせられたか……。
その度に俺もアルも威嚇の視線を向けたから、流石に近づいてくる奴らはいなかったが十分気をつける必要がある。
「二人ずつで着替えます」
「し、承知いたしました。で、ではこちらへどうぞ」
かなり緊張しているようだ。
こんな人気のあるテーマパークならどんな客でもしっかりと対応してもらいたいものだが。
かなり広いスペースに種類ごとに分けられたコスチュームが並べられている。
その周りを覆うように試着室が並んでいて、俺たちは隣同士の試着室を用意してもらった。
「まずは隆之さんのね」
嬉しそうに晴が俺の手を引いて、それが並んでいる場所へと連れていく。
この辺りはどうやら漢服・韓服といった民族衣装のコーナーらしい。
「晴、ここなのか?」
「うん、理玖と二人で調べてたらこれ、絶対に隆之さんに着て欲しいなって思ったんだ。僕が目をつけてたのは……ああっ! あった、これだよ」
そう言って晴が指さしたのは黒地に赤いラインの入った漢服。
まぁ、悪くないな。
「隆之さん、いつもスーツだからイメージの違うものがいいなと思って。だめ、かな?」
嬉しそうに目をキラキラとさせながら俺を見つめる。
こんなふうに見つめられて嫌だなんていうわけない。
「いいんじゃないか、さすが晴だな」
そう返すと嬉しそうに笑った。
俺の衣装を用意してもらっている間に今度は晴のを選ぶ。
流石に種類が多すぎて何にしようか悩むところだが、看護師やC.Aなんかは他の奴らには絶対に見せたくないし、それは二人だけの時でいい。
それなら、せっかく晴が選んでくれた漢服で合わせるとしよう。
そのほうがカップルだとすぐにわかるし、牽制にもちょうどいい。
そうと決まれば話は早い。
俺は晴を連れて、今度は漢服の女性コーナーに向かった。
「うわぁ、すごく繊細で綺麗なドレスばっかり」
「これなんか晴に似合いそうだな」
そう言ってハンガーから取って見せたのは、淡い黄緑色のシルクオーガンジーのドレス。
全体に可愛らしい花の刺繍が施されている。
そして、その上からまるで天女の羽衣のような真っ白な柔らかな羽織を纏うらしい。
「こんなに可愛いドレス、僕に似合うか心配ですけど隆之さんが選んでくれたのならそれにします」
晴は少し恥ずかしそうにしながらもそう言ってくれた。
「じゃあ、これに着替えようか」
スタッフに試着室まで服を運んでもらい、先にメイクと髪を整えてもらう。
晴のメイクはほとんど何もしていないように見えるナチュラルメイクだがどこをどう見ても美人にしか見えない。
「――っ、この人……どこかで……あれ、どこだったかな?」
メイクをしてくれている女性が晴の顔を見て、何かに気づいたようだ。
もしかしたら、リュウールのポスターの人物だと気づいたのかもしれない。
ここでバレては困る。
「メイクが終わったのなら着替えをしたいのだが……」
そう言って晴をメイク室から連れ出し、試着室に戻った。
「さっきの人にバレちゃいましたか? パーク内を歩いてたら他の人にも気づかれたりしないですか?」
「いや、大丈夫だろう。ドレスを着れば印象も変わるし、ウイッグもつければ多分バレることはないだろう」
念の為に晴の髪色を隠すように長いストレートの黒髪のウイッグをつけさせたが、さらに美人に拍車がかかってしまった。
これはかなり牽制しなくてはいけないが、まぁ晴から離れなければ大丈夫だろう。
お互いに服を着せ合い、お互いにあまりにも似合いすぎてため息が溢れる。
「隆之さん、すっごく似合ってます」
「晴もすごく可愛いよ。これは買取決定だな」
「じゃあ、隆之さんの服は僕が買います。また家で来てください」
「ふふっ。そんなに気に入ってくれたのか?」
「いつものスーツもすっごく似合ってますけど、なんていうのかな……やっぱり民族衣装って違いますよね」
「ああ、確かにそうだな。美しく見えるように計算されて作られている気がするな。なぁ、晴。夏になったら浴衣を着て出かけないか? ああ、初詣に和装で行くのもいいな。漢服もいいが、やっぱり和服の晴も見てみたい」
「はい。僕も隆之さんの和装を見たいです!!」
「じゃあ、旅行から帰ったら仕立てに行こうな」
「はい。って、えっ? 仕立て?」
「楽しみだな」
晴が驚いているうちに約束を取り付ける。
これで決定だ。
さて、アルたちはもう着替えただろうか?
長いドレスで転ばないように晴の手を取って試着室の外に出ると、ちょうど隣のカーテンが開いた。
「ああ、アルたちも同じタイミングだったんだな……って、そのアルのその格好は、王子か?」
「ああ、そのようだな。どうだ?」
「やっぱりドイツ人だけあってそういう格好がしっくりくるな。本物の王族みたいな気品と風格が漂ってるよ」
「ははっ。まぁ、一応貴族の末裔だからな」
笑ってさりげなく話していたが、アルの祖先は貴族?
やっぱりなんとなく一般人とは違うと思っていたよ。
「ユキは民族衣装か? それもよく似合ってるな」
「はは。ありがとう。これは漢服。中国の民族衣装だよ」
「ああ、なるほど。じゃあハルの服もお揃いか? 驚くほど美人だな」
視線を向けると、俺たちが話をしている間に晴と理玖は興奮気味にお互いのドレス姿について話をしているが、どれだけ自分たちが目を引く格好かはわかっていないようだ。
「だろう? 可愛すぎて心配だよ。そっちも理玖に姫の格好させるなんて、変なのが近寄ってくるぞ」
「それは大丈夫だ、私は決して離れないからな」
「それは俺もだよ。お互い目を離さずにしようぜ」
「ああ、そうだな」
俺たちが晴と理玖を守ると決めたところで、ようやく試着室を出た。
エスコートしながら、衣装ゾーンを出ると一気に視線が注がれるのがわかる。
俺もアルも転ばないようにするためだからと、ピッタリと寄り添いながら周りに威嚇して歩き始めた。
これなら、流石に変なのは寄ってこないだろう。
それにしても太陽の下で可愛らしいドレスに身を包んだ晴はいつにも増して美しい。
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