1 / 6
「好きに扱っていい」のですね?
しおりを挟む
「ミスティシャ・スウェーク! 貴様との婚約を破棄する。貴様のような可愛げもない女、俺の妻とするはずもないのはもちろんのこと、一生涯独り身で過ごすのが似合いだ」
「あら、まあ」
突然のことに驚きましたが、そのあとで思ったのが(ありがたいな)ということでした。
バカの割に変に勘の鋭いところがある王子です。さすがというべきか、わたくしが独り身で過ごす覚悟を決めていると無意識に察していたのかもしれませんね。
(秘密を守るためには、独り身が一番安心ですもの)
王家の方との結婚など特にまずいので、ほどよいところで適当に自分に瑕疵をつくって身を引くつもりでおりました。
ですので、金髪碧眼で観賞用にはちょうどいいだけのバカ王子に、可愛げを見せることもなかったのでした。
だって結婚してしまったらさすがに隠しきれないでしょう。
女癖の悪い殿下が、いくらわたくしが嫌いでも白い結婚なんてしないでしょうから、大惨事が予想されます。
わたくし、男ですから。
というのが三日前のことです。
「なんと気の利かぬ女だ、言わずともわかるだろう! 婚約破棄は……っ、間違いだった。ミスティシャ、おまえとやり直してやろうと言っているのだ!」
「嫌ですわ?」
目の前の元殿下を蔑みながら、わたくしは即答しました。わたくしが本物の令嬢だったとしても、まるでメリットがありません。
本来王家に嫁ぐはずだったわたくしは、スウェーク公爵家を継ぐことになりました。
いえ、わたくしが王家に嫁ぐのはまずいので、お父さまとわたくしは最初からそのつもりでしたが、対外的には「養子を迎えるつもりだったが、娘が婚約破棄されたから娘と婿に継がせる」という流れになっています。
「くっ、何も無理を言っているわけではない。元の状態に戻ろうと言っているのだ! こうしてこの俺が頭をさげて、そんな当たり前のことを望んでいるのだぞ!」
「当たり前ですの? 我が公爵家に婿入りしたいという態度ではございませんわよ? まあ、頼まれて受け入れることでもありませんけれど」
「し、仕方ないではないか、父上が廃嫡などと世迷言を言うから……!」
「正しいご判断だと思いますわ」
これを王にするのは問題外、誰だってそう思いますでしょう。
そもそもなぜわたくしが令嬢として育てられたかというと、王家の求心力が下がり、わたくしの血統が良すぎたからです。
血は争えないというべきか、殿下の父である陛下もまた、最初に決められた婚約を解消して、身分の低い王妃様を娶っているのです。
まあ、殿下ほどアレではなかったようできちんと話し合って婚約を解消してはいます。そういう前提があるからこそ、殿下は自分もイケると思ってしまったのかもしれませんね。
ともかくそのおかげで、公爵家のわたくしの方が王子より王家の血が濃いのです。
お父さまは生まれたわたくしが男子であったので頭を抱えました。陛下が身分の低い女を娶ったことで王家は求心力を失っており、うっかりすると反乱の旗印にされかねなかったのです。
まあ、それは問題だとわかりますわ。
けれど「女の子として育てよう」というのは、ちょっとどうでしょうか。お父さまがデレデレに溺愛してきたので、ちょっと趣味を疑います。
それ以降は子供を産まないことに決めたお母さまも、ノリノリでわたくしのドレスを選んでいましたし。
いえ、わたくしも着飾るのは嫌いじゃないのですよ、昔からのことですし、可愛いものは良いですわよね。
「今は父上も頭に血が登っているだけで、この俺を廃嫡するなどありえるはずがないだろう!」
「そういうところだと思いますわ」
わたくしはため息をつきます。
殿下がこんなでなく、まともに育ってくだされば、わたくしも男の子に戻れたのです。占い師がどうこういったから女の子として育てた、とか適当な言い訳をして。
なのに周囲が「これに次期王は無理では?」と思うほどのアレで、わたくしは育ちすぎ、もはや男子としての立場を取り戻すことは無理でしょう。わたくしとしてもいまさら男らしい態度など取れません。
「廃嫡が嘘ならそれでよろしいではないですか。恐れ多くも陛下のご判断をお疑いになる前に、ご自身をお疑いになるべきとは思いますけれど。どうぞお幸せに」
とはいえ殿下を甘やかした陛下ですから、もしかしたら廃嫡もなかったことに、と言い出す可能性もなくはないかもしれません。
ただ年が離れているとはいえ弟君がおられますので、次期王はさすがに無理だと思うのですわ。貴族たちが許しません。幸い、弟殿下は平凡で知られておりますもの。
この殿下を見ていると、平凡って素晴らしいと思いますわ。
王が優秀すぎると逆に国が傾くとも言いますしね。平凡、平和、一番です。
「まあ待て、ミスティシャ」
「お父さま?」
「ローダド殿下が行き場をなくし、わざわざうちに泣きついてきたのだ。我々にも利のあることだと思わんか?」
「……」
どうやらお父さまは、この状況を利用するつもりのようです。
確かに、廃嫡されたダメ王子を婿として引き取ったとなれば、それはもう「好きに扱っていい」ものです。
いずれわたくしが誰かに跡継ぎを生んでもらうにしても、養子を取るにしても、それなりの名のある父親はいて損はないのです。
こっちが完全優位であれば、白い結婚でも文句は言わせませんものね。
「あら、まあ」
突然のことに驚きましたが、そのあとで思ったのが(ありがたいな)ということでした。
バカの割に変に勘の鋭いところがある王子です。さすがというべきか、わたくしが独り身で過ごす覚悟を決めていると無意識に察していたのかもしれませんね。
(秘密を守るためには、独り身が一番安心ですもの)
王家の方との結婚など特にまずいので、ほどよいところで適当に自分に瑕疵をつくって身を引くつもりでおりました。
ですので、金髪碧眼で観賞用にはちょうどいいだけのバカ王子に、可愛げを見せることもなかったのでした。
だって結婚してしまったらさすがに隠しきれないでしょう。
女癖の悪い殿下が、いくらわたくしが嫌いでも白い結婚なんてしないでしょうから、大惨事が予想されます。
わたくし、男ですから。
というのが三日前のことです。
「なんと気の利かぬ女だ、言わずともわかるだろう! 婚約破棄は……っ、間違いだった。ミスティシャ、おまえとやり直してやろうと言っているのだ!」
「嫌ですわ?」
目の前の元殿下を蔑みながら、わたくしは即答しました。わたくしが本物の令嬢だったとしても、まるでメリットがありません。
本来王家に嫁ぐはずだったわたくしは、スウェーク公爵家を継ぐことになりました。
いえ、わたくしが王家に嫁ぐのはまずいので、お父さまとわたくしは最初からそのつもりでしたが、対外的には「養子を迎えるつもりだったが、娘が婚約破棄されたから娘と婿に継がせる」という流れになっています。
「くっ、何も無理を言っているわけではない。元の状態に戻ろうと言っているのだ! こうしてこの俺が頭をさげて、そんな当たり前のことを望んでいるのだぞ!」
「当たり前ですの? 我が公爵家に婿入りしたいという態度ではございませんわよ? まあ、頼まれて受け入れることでもありませんけれど」
「し、仕方ないではないか、父上が廃嫡などと世迷言を言うから……!」
「正しいご判断だと思いますわ」
これを王にするのは問題外、誰だってそう思いますでしょう。
そもそもなぜわたくしが令嬢として育てられたかというと、王家の求心力が下がり、わたくしの血統が良すぎたからです。
血は争えないというべきか、殿下の父である陛下もまた、最初に決められた婚約を解消して、身分の低い王妃様を娶っているのです。
まあ、殿下ほどアレではなかったようできちんと話し合って婚約を解消してはいます。そういう前提があるからこそ、殿下は自分もイケると思ってしまったのかもしれませんね。
ともかくそのおかげで、公爵家のわたくしの方が王子より王家の血が濃いのです。
お父さまは生まれたわたくしが男子であったので頭を抱えました。陛下が身分の低い女を娶ったことで王家は求心力を失っており、うっかりすると反乱の旗印にされかねなかったのです。
まあ、それは問題だとわかりますわ。
けれど「女の子として育てよう」というのは、ちょっとどうでしょうか。お父さまがデレデレに溺愛してきたので、ちょっと趣味を疑います。
それ以降は子供を産まないことに決めたお母さまも、ノリノリでわたくしのドレスを選んでいましたし。
いえ、わたくしも着飾るのは嫌いじゃないのですよ、昔からのことですし、可愛いものは良いですわよね。
「今は父上も頭に血が登っているだけで、この俺を廃嫡するなどありえるはずがないだろう!」
「そういうところだと思いますわ」
わたくしはため息をつきます。
殿下がこんなでなく、まともに育ってくだされば、わたくしも男の子に戻れたのです。占い師がどうこういったから女の子として育てた、とか適当な言い訳をして。
なのに周囲が「これに次期王は無理では?」と思うほどのアレで、わたくしは育ちすぎ、もはや男子としての立場を取り戻すことは無理でしょう。わたくしとしてもいまさら男らしい態度など取れません。
「廃嫡が嘘ならそれでよろしいではないですか。恐れ多くも陛下のご判断をお疑いになる前に、ご自身をお疑いになるべきとは思いますけれど。どうぞお幸せに」
とはいえ殿下を甘やかした陛下ですから、もしかしたら廃嫡もなかったことに、と言い出す可能性もなくはないかもしれません。
ただ年が離れているとはいえ弟君がおられますので、次期王はさすがに無理だと思うのですわ。貴族たちが許しません。幸い、弟殿下は平凡で知られておりますもの。
この殿下を見ていると、平凡って素晴らしいと思いますわ。
王が優秀すぎると逆に国が傾くとも言いますしね。平凡、平和、一番です。
「まあ待て、ミスティシャ」
「お父さま?」
「ローダド殿下が行き場をなくし、わざわざうちに泣きついてきたのだ。我々にも利のあることだと思わんか?」
「……」
どうやらお父さまは、この状況を利用するつもりのようです。
確かに、廃嫡されたダメ王子を婿として引き取ったとなれば、それはもう「好きに扱っていい」ものです。
いずれわたくしが誰かに跡継ぎを生んでもらうにしても、養子を取るにしても、それなりの名のある父親はいて損はないのです。
こっちが完全優位であれば、白い結婚でも文句は言わせませんものね。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
368
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる