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王の動揺
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「陛下! 南の果て……いえ、南から消失が迫っております!」
「なんだと? 消失は止まったのではなかったのか」
「止まりました! ですが、果てより王都に近い位置から、裂けるように広がったと」
「……何?」
言っている意味がわからない。兵士もまた、理解できない、いや、理解したくないという顔をして地図を広げた。
「鳥による報告をまとめますと、消失はこのように発生しています」
「……」
王も、その場にいたものも、呆然と眺めた。
南の果てを残して、消失は回り込むように発生しているのだ。
「南の、果て、は……」
「この地……恐らく鳥の道が消失する直前に、特務隊の報告が届きました。南の果ては、無事ではないかと……」
特務隊とは、王妃を連れ戻すために出した隊だ。
王妃が神の光を得、消失を止めたというのだから、守るべき王都に彼女を戻さなければならない。
作戦は継続しており、頻繁に鳥を行き交わせていた。
「王妃は」
「……作戦は失敗したようです。周囲を多くの民に囲まれ、奪還は難しいと……」
「では」
「ただ消失は止まり、わずかながら復帰も見られるとのことでした。……その後、消失したと考えることもできますが、王妃殿下のいる果ての地だけが残った可能性が高いでしょう」
王妃のいる地だけが切り取られるように残り、他の地は変わらず消失の危機にある。
この王都もだ。
東の地からの消失も止まらない。
王と貴族たちはこの現実に身を震わせた。神の光を受けた王妃と分断され、王都に戻すことはもはや不可能だろう。
そこに王子が現れて叫んだ。
「父上、リーリエがマイラを連れ去りました!」
「……なん、だと」
王は悪報を持ち込んだ息子の顔を見た。謹慎を申し付けていたということさえ、頭に浮かばない。
何よりもただただ最悪だった。
聖女の名を持つものがすべて、この城から失われていたのだ。
「馬車を使ったようです。すぐに王都を厳戒態勢に! マイラの捜索に全力をつくしましょう! すぐに助け出し、あの偽聖女を極刑に……」
王は乾いた口で、状況のわかっていない王子を叱りつける元気もなかった。
「黙れ」
「はっ?」
「黙れ。部屋に戻っていろ」
「ち、父上!」
「王都の馬車をすべて調べよ!」
「す、すべて、ですか?」
兵の間に動揺が広がったが、王は何を当たり前のことをと思った。
「リーリエを取り戻さねば、この国は滅ぶ」
皆が息を呑む。しかしどこかでわかっていたのだろう、誰も否定の言葉はないようだった。
「すべてだ。すぐに取りかかれ。門から出た馬車の記録もすべて集めよ。いなくなる前に姿を見た者を取り調べよ。マイラに関わった者からもすべて話を聞け、行き先の心当たりがあるやもしれん」
「はっ」
「それから……ああ、リーリエにつけていた者からも話を聞け」
「つけていた、とは……」
「侍女か、護衛がいたであろう」
「いえ。リーリエ、様、は、一般の罪人として牢におりました。誰もつけてはおりません……」
「……そうか」
王は顔をしかめた。
誰もが黙り、絶望的な静寂が襲った。王子だけが騒ぎ、王の視線を受けた衛兵が強引に部屋に連れて行く。
「では……牢番に話し相手になっていたものはいないか? いれば……、いや、牢番全員に話を聞け。リーリエの行き先に思い当たるところがないか」
「……はっ」
数人がすぐに謁見の間を出ていった。
「あとは教会か……司教代理を呼べ。聖女付きだったものがいるだろう」
リーリエを必ず見つけ出さねばならない。
「恐れながら陛下、そのような扱いをされていたのなら、もはや遠くに逃げているのでは……」
「そうであればどうしようもなかろうな」
「……」
「だが、マイラと共にいると……ああ、証言者をまず呼んでくれ。馬車で出ていったのを見たものがいるのだろう」
「父上! 父上……!」
息子の叫び声が遠ざかっていく。もはや構う余裕もないこの時になって、どうにも耳に残った。
「なんだと? 消失は止まったのではなかったのか」
「止まりました! ですが、果てより王都に近い位置から、裂けるように広がったと」
「……何?」
言っている意味がわからない。兵士もまた、理解できない、いや、理解したくないという顔をして地図を広げた。
「鳥による報告をまとめますと、消失はこのように発生しています」
「……」
王も、その場にいたものも、呆然と眺めた。
南の果てを残して、消失は回り込むように発生しているのだ。
「南の、果て、は……」
「この地……恐らく鳥の道が消失する直前に、特務隊の報告が届きました。南の果ては、無事ではないかと……」
特務隊とは、王妃を連れ戻すために出した隊だ。
王妃が神の光を得、消失を止めたというのだから、守るべき王都に彼女を戻さなければならない。
作戦は継続しており、頻繁に鳥を行き交わせていた。
「王妃は」
「……作戦は失敗したようです。周囲を多くの民に囲まれ、奪還は難しいと……」
「では」
「ただ消失は止まり、わずかながら復帰も見られるとのことでした。……その後、消失したと考えることもできますが、王妃殿下のいる果ての地だけが残った可能性が高いでしょう」
王妃のいる地だけが切り取られるように残り、他の地は変わらず消失の危機にある。
この王都もだ。
東の地からの消失も止まらない。
王と貴族たちはこの現実に身を震わせた。神の光を受けた王妃と分断され、王都に戻すことはもはや不可能だろう。
そこに王子が現れて叫んだ。
「父上、リーリエがマイラを連れ去りました!」
「……なん、だと」
王は悪報を持ち込んだ息子の顔を見た。謹慎を申し付けていたということさえ、頭に浮かばない。
何よりもただただ最悪だった。
聖女の名を持つものがすべて、この城から失われていたのだ。
「馬車を使ったようです。すぐに王都を厳戒態勢に! マイラの捜索に全力をつくしましょう! すぐに助け出し、あの偽聖女を極刑に……」
王は乾いた口で、状況のわかっていない王子を叱りつける元気もなかった。
「黙れ」
「はっ?」
「黙れ。部屋に戻っていろ」
「ち、父上!」
「王都の馬車をすべて調べよ!」
「す、すべて、ですか?」
兵の間に動揺が広がったが、王は何を当たり前のことをと思った。
「リーリエを取り戻さねば、この国は滅ぶ」
皆が息を呑む。しかしどこかでわかっていたのだろう、誰も否定の言葉はないようだった。
「すべてだ。すぐに取りかかれ。門から出た馬車の記録もすべて集めよ。いなくなる前に姿を見た者を取り調べよ。マイラに関わった者からもすべて話を聞け、行き先の心当たりがあるやもしれん」
「はっ」
「それから……ああ、リーリエにつけていた者からも話を聞け」
「つけていた、とは……」
「侍女か、護衛がいたであろう」
「いえ。リーリエ、様、は、一般の罪人として牢におりました。誰もつけてはおりません……」
「……そうか」
王は顔をしかめた。
誰もが黙り、絶望的な静寂が襲った。王子だけが騒ぎ、王の視線を受けた衛兵が強引に部屋に連れて行く。
「では……牢番に話し相手になっていたものはいないか? いれば……、いや、牢番全員に話を聞け。リーリエの行き先に思い当たるところがないか」
「……はっ」
数人がすぐに謁見の間を出ていった。
「あとは教会か……司教代理を呼べ。聖女付きだったものがいるだろう」
リーリエを必ず見つけ出さねばならない。
「恐れながら陛下、そのような扱いをされていたのなら、もはや遠くに逃げているのでは……」
「そうであればどうしようもなかろうな」
「……」
「だが、マイラと共にいると……ああ、証言者をまず呼んでくれ。馬車で出ていったのを見たものがいるのだろう」
「父上! 父上……!」
息子の叫び声が遠ざかっていく。もはや構う余裕もないこの時になって、どうにも耳に残った。
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