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290. 油断(チビとベビに助けられる)✔

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 コカドリアスだった十二名の獣人を連れ、この前助けた獣人の住居に向かっている。チビとベビが上空で護衛しているので魔物も近寄っては来ない。この調子なら、安全に連れて行けるだろう。

 獣人の建物が見えてきた。魔石の摘出後の経過も気になっていたが、あの時の様子からすると体調を崩したりはしていないはずだ。

 おかしい、誰も外にいないな。食事の時間に来てしまったか。建物に歩いて行き声を掛ける。

「お久しぶりです。調子はどうですか? 約束通り会いにきましたよ!」

 獣人が顔を覗かせたが、表情が抜け落ちており顔色も悪い。体調が悪いのだろうか? まさか悪化したのか?

「……いらっしゃいませ」

 他の獣人はどうして出てこないんだろう?

「食事中でしたか? ちょうど悪い所に来てしまいましたか?」

 獣人の反応が悪いな。ゾロゾロと他の獣人を連れて来たから警戒しているのだろうか?

「中に入ってください」

 獣人から住居に招かれた。それにしても体調が悪そうだ。

〈チビ、ベビ、警戒しておいてね!〉

〈任せてダォ!〉〈任せてなノ!〉

 チビとベビは上空を旋回して警戒にあたってくれる。さあ、建物の中に入ろう。

「おじゃまします!」
 あれ? 食事してないじゃん! 獣人たちが壁際に集まって座っており、顔の表情がない。それに人数が少なくないか、狩りにでも出かけているのだろうか?

「どうぞ」

 木製のコップを渡されたが、声のトーンまでおかしく感じる。中をチラッと覗いてみたが水ではないみたいだ。一口含んでみたがアルコールでもない。何かのジュースみたいだ。なんの味だろうか? 舌の上で転がして味を確かめる。果物の果汁だろうか?

 なんだろう!? 体が痺れてきた。 慌ててコップに吐き出したが既に遅かった。体の自由がおかしくなっている。毒か? 油断した!

「どうしましたか?」 

〈チビ、ベビ、まずいことになった! 舌も痺れてうまく動けない。助けて!〉

〈任せてダォ!〉〈ママを助けるノ!〉

「プレゼントがあるんですよ」

 獣人が魔道具を嵌めようとしてくる。そんな怪しげなプレゼントはいらない!

 今頃になって気がついたが、獣人達の首に魔道具が嵌っていた。やられた。邪神の使徒が襲ったに違いない。きっと、隷属の魔道具ではないだろうか?

 ドーンと大きな音がして建物が大きく揺れた。お陰で俺の首に嵌めようとしていた魔道具が床に転がる。獣人がゆっくりとした動作で、拾い上げようとする。

 さらに衝撃があり、屋根が吹き飛ばされた。しかし獣人の表情はまったく慌てていない。表情が無いままだ。明らかにおかしい。

 チビとベビが上空から風の刃を飛ばして獣人に切りつける。すると手に持っていた魔道具のベルトが切断された。これで俺の首に魔道具を嵌めることができなくなった。

 他の獣人が袋の中から、別の魔道具を取り出している。すると、チビが風の刃を飛ばして切断した。

 ベビがすかさず、俺をがっしりと両手で捕まえると上空に飛び上がった。

〈ベビ、胸ポケットに入っているピンクポーションを飲ませてくれない! 毒か痺れ薬を飲まされたみたいなんだ! 飲んだ量が少なかったから、直ぐに回復できると思うよ〉

〈人化しないと蓋は開けれないノ!〉

〈ここから離れよう! チビ、一旦離れるよ! ベビが人化している間、護って!〉

〈任せてダォ!〉

 ベビに掴まれたまま遠ざかり、その後ろをチビがついてくる。地上に下ろしてもらうと、ベビの人化が始まった。人化する時間も段々と短くなっているようだ。ベビがポケットからピンクポーションの瓶を取り出して、蓋を開けると俺の口に流し込んでくれた。

 毒の量が少なかったからか、直ぐに効き目があり、痺れが収まりだした。やばかった。完全に油断してしまった。自分に癒しの魔法をかける。さっきは痺れていて、癒しの魔法を発動することができなかったんだ。

〈アルママ! 魔物が近くにいるダォ!〉〈ベビが左で、チビは右なノ!〉

〈任せるダォ!〉

 ふたりの成長には目覚ましいものがあり、自分達で判断して的確に対処してくれる。今回は二人に助けられたし、もう俺が教えることはなさそうだ。

 チビとベビが風の刃を連続で飛ばしている。ピンクポーションが効き、痺れは無くなった。

 ホバリングで上空から確認することにした。飛び上がるとチビとベビが飛び去った方向に意識を集中する。少し離れた場所から大きな音と魔物の叫び声が聞こえてきた。

 ベビとチビから念話が届き、行ってみると五匹のリザードマンが血を流して倒れている。近くには蔦で縛られた獣人がボーっと突っ立っていた。どこかに連れて行かれそうになっていたようだ。

 この獣人だが見覚えがある。この前助けた獣人じゃないか!

「何があったの? 大丈夫ですか?」

 目の焦点が定まっておらず、意識が飛んでいるのか返事がない。首に魔道具が嵌められていた。

 魔道具は革のベルトに魔石が嵌められており、魔石からは魔力を感じる。直ぐに外してあげなければ!
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