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私の主人、国一番の会頭に頭を下げられる

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侯爵夫人の屋敷に行った翌日のこと、プランからシニフェ様と私へグラン商会への来ないかとお誘いがありました。
グラン商会に行くのは久しぶりですが、相変わらず大きな建物でこの国一番の商会ということをまざまざと感じさせる居住まいです。中は華美でこそないものの、手の込んだ調度品や知る人ぞ知る画家の名品が飾られており品のあるインテリアとなっています。
これは『商人が派手に着飾ってはお客様が離れてしまう。しかし質素過ぎてもその商人は舐められてしまう』というプランのお父上の方針であるということでした。

さて、そんなグラン商会にお呼ばれしましたシニフェ様と私の前には、プランとそのお父様であるグラン商会会頭もといグラン伯爵が深々と頭を下げていらっしゃいました。
「グラン伯爵?何故そんなに頭を下げてるんだ?」
「シニフェ坊ちゃん、エノーム坊ちゃん、この度はご足労いただきましてありがとうございます!いつもプランがお世話になっておりまして」
「いや、お世話になってるのは俺の方だから…」
大柄で顔が厳めしいグラン伯爵の勢いにシニフェ様が控えめにそう仰ると、プランがため息をつきました。
「お父様~、シニフェ様がドン引きされてます。さっさと本題に入って下さい~」
その言葉にグラン伯爵は恐縮しながら、今日招待した理由を話し始められました。


「と、言う訳でして。誠に勝手なお願いなのですが、よろしければベグマン公爵家にあるという噂の鏡についておしえていただけないでしょうか?」
グラン伯爵の話は、自分の顧客の中に魔王関連のグッズの好事家がおり、その人物から何か良い品がないかとせっつかれていて非常に困っていたところにプランから鏡の話を耳にし、それを手に入れたいので協力をしていただけないかという相談でした。
1番困っている点は、ベグマン公爵とグラン商会は取引実績がないため、先方が売りたいという話を出している訳でもないのに、売ってくれとは提案できないことでした。
グラン商会は程悪徳業者ではないので、穏便に取引できるよう鏡について教えて欲しいということでした。

「ねぇシニフェ様、どうでしょう?父の話では、その好事家さんは神殿関係のお仕事もしているので下手に封印を解いてしまう事もないようですし、ベグマン公爵への支払いの件を考えてもこれ以上ない相手かと思うんです」
プランもそう言ってフォローをしています。シニフェ様の話では、借金の担保として侯爵家に鏡を渡したそうですから、その買取先がグラン伯爵家になっても変わりはないと思います。
しかし、シニフェ様は何かを悩んでいらっしゃるように口を噤んでいらっしゃいます。

そこで私は、この場を借りて自分が懸念していることを伝えることにしました。
「最悪の想定の話ですが、もしその鏡と闇の魔法を使える人間にしか反応しないがあるのだとしたら、侯爵が鏡を手に入れた瞬間に取り憑かれる可能性も有り得ます。そうしたらそれはシニフェ様にも及ぶ可能性が高くないでしょうか?それでしたらそもそも、遭遇しないようにするのが一番だと思います」
私の言葉に対してもシニフェ様は眉間に皺を寄せて、悩むように唸っていらっしゃいます。
そうしてしばらくの間広い部屋の中で、時計の秒針がコチコチと響いておりました。

「そんな危ないもの神殿関係の仕事をしてると言っても、他人に渡して大丈夫なのか?それが気になってるんだ。鏡を手に入れる方法はいくらでもある、ベグマン公爵がお父様に話を持ちかけた際にグラン伯爵を紹介するようにお父様に伝えておけば良いし、ベグマン公爵が借金をしている相手ーーアヴァルっていたはずなんだけどそいつ経由に話をしても良い」
アヴァル、初めて聞くお名前です。シニフェ様は細かいところを覚えていないとおっしゃっていたのに、おかしいですね。
私がそう思っていることに気がつかず、シニフェ様は続けられます。
「でも、そうして遠くの人に渡してしまうと、万が一中身が、魔王が出て来てしまったら英雄が近くにいないと大変な事になるんじゃないのか?ここなら、クーラッジュいるし」
「いえいえ、シニフェ坊ちゃん。好事家の方はそこいらのマニアではないんですよ。なんせ魔力の高い一族、エルフの末裔ですから、我々人間が持つよりも100倍安全とも言えますよ」
「「「エルフ!?」」」

グラン伯爵の言葉に3人が揃って聞き返しました。ちらりとプランの方を見ますと、プランもお会いした事がなかったようで、初耳だと漏らしていました。
更にグラン伯爵は続けます。
「そうです!それほど気になるようでしたら、丁度その方はグランメション侯爵の領土に住んでおります。私から連絡をいれますので、お会いしてはいかがでしょう?エルデールなので少々遠いいですが、冬期休暇に行けば問題ないでしょうし、私どもの方で旅程等諸々の準備はさせていただきますんで!」
「「「エルデール!!」」」
再び3人でグラン伯爵の言葉に鸚鵡返しをしてしまいました。
巡り合わせなのか、仕組まれているとさえ思えてしまう偶然に、やはりエルデールには行くべきなのだと決意いたしました。
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