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第二部
165.エスコート
しおりを挟むエトワールは魔法学校だが、生徒の大半が貴族のため、お茶会での作法やダンスの仕方を学ぶ授業がある。
今回の舞踏会は今までの授業で習ったことを活かして楽しむというもので、正直に言ってしまえば生徒たちに与えられたご褒美だ。
ドレス等々は各自で用意する必要があるが、会場に用意された料理は好きなように食べていいし、今日のために呼び寄せた音楽団が奏でる曲に合わせて踊ってもいい……と、かなり自由な舞踏会となっている。
「私は先に会場入りしておくね、ユリアーナ」
「ん、分かった。楽しんできて、シャノン」
「うんっ」
そう言うと、シャノンはカルムと共に会場へと入って行った。
基本的に舞踏会の会場に入るときには男女のペアになる。
婚約者がいる場合はその人と一緒に入るのがマナーというものだ。
―――シャノンとカルムは婚約しているわけではないみたいだけど……。
もはやあのふたりは婚約者のようなものである。
「あたしも先に行ってるよ、ユリユリ」
「ノエル先輩」
「エトワールの舞踏会で出るお料理って、すごくおいしいんだよね~。なくなる前に食べないと」
ノエル先輩らしい。
私も早く食べたいなぁ。
「……あれ? カレン、行かないの?」
「ユリアーナ様……。このような舞踏会の場合、男女のペアで入場するのが基本ですよね?」
「そうだね」
カレンは平民で、婚約者はいない。
なので今回のパーティーには婚約者のいない男性と入場すべきなのだが……。
「婚約者のいない男性なら、まだまだたくさんいると思うけど……?」
「そう簡単に言わないでください。舞踏会に一緒に入場するということは、婚約の可能性もあるということなのです」
―――カレンがどれだけ素敵な人で将来を共にしたいと思えても、身分の壁があるから誰もエスコートをしてくれない、というわけか。
カレンをエスコートすれば、婚約の可能性を周囲に示唆することになる。
それは貴族にとって大きなダメージだ。
身分の低い平民と結婚すれば、自分の家が落ちぶれていると思われてしまうからである。
貴族社会において身分は重要。
平民と結婚だなんてありえない、という考えが一般だ。
だから身分差の恋に多いのは駆け落ちなのである。
「それに……」
「ん?」
「私には、す、好きな人がいる、ので」
―――あぁ。ルミエールにいるとか言う宵の君だっけ?
そうだよなぁ。
好きな人がいるのに別の男性にエスコートしてもらうってのは、恋する乙女的にノーだよね。
となると……。
「他校に婚約者がいる人を探すしかないですね」
エスコートなしでひとりで会場入りするのは少し目立つ。
訳アリさんを探したほうがよさそうだ。
でもそんな人、当日の今に見つかるのか⋯⋯?
「私でよければ一緒に行くか、カレン?」
「! フォルツァ先輩⋯⋯!」
「フォルツァ先輩って婚約者、いましたよね?」
前にノエル先輩に「フォルツァはコルディエ男爵家の長男で、婚約者いるよ~」と教えてもらった。
「たしかに私には婚約者がいるが、彼女はルミエールの生徒でね。だから、カレンでよければ、私にエスコートさせてほしい。いつもならノエルと一緒に行くのだが⋯⋯あいつはすでに食べ物に目を奪われてひとりで行ってしまった」
そう言えば、ノエル先輩はひとりで入って行ったな。
周りの目を全く気にしないノエル先輩だからできることとも言える。
―――でも、フォルツァ先輩は『いつもなら』って言ってたな。となると、ノエル先輩がひとりで会場入りしたのはあえてのことなのか⋯⋯?
もしかしたらカレンのことを考えてそうしたのかもしれない。
ノエル先輩って、結構人のこと見てるからな。
「フォルツァ先輩は私で構わないのですか? 婚約者の方は⋯⋯」
「彼女なら理解してくれると思うし、それに、このことに怒るならその矛先は君ではなく私に向くはずだ。大丈夫。安心してくれ」
「⋯⋯では、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか?」
「あぁ。もちろんだ」
お互いに恋愛感情がなく、また、それぞれに理由があると知った上でのエスコートなので、特に問題はないだろう。
これでひとまずは安心である。
「ユリィ」
「! エリィ姉さん、レティシア様⋯⋯」
後ろから声をかけられて振り向くと、そこにはエリィ姉さんレティシア様がいた。
「わぁ~~っ!! ふたりとも、とっても素敵ですっ!」
エリィ姉さんは淡い桃色のプリンセスラインを描いたドレスを着ていた。
肩を露出するオフショルダーのネックラインに、ボリュームのあるスカートが特徴的で、大ぶりのフリルが華やかさを加えている。
胸元やウエストの花飾りはレースでできていて、とても可愛らしい。
亜麻色の髪は三つ編みにされ、ドレスと同じレースの花飾りがいくつか髪に挿されている。
―――エリィ姉さんはまさに花の精って感じ! 最っ高に可愛いわ!!
レティシア様は深い紺色と紫色、そして淡いピンクへとグラデーションがかけられた、フリルがふんだんにあしらわれたマーメイドラインに似たドレスを着ていた。
全体に金色の星のような装飾が散りばめられていて、シフォンやチュールのような軽やかで透け感のある素材が何層にも重ねられている。
上半身は体にフィットしたビスチェタイプ。
非対称のドレープと大きなリボンがアクセントになっており、スカートは前が短く、後ろが長いアシンメトリーなデザインだ。
クロッカス色の髪は私と同じように下ろされていたが、頭部の左上には小さなお団子が作られていて、精巧な蝶の髪飾りが付けられていた。
―――レティシア様は気品のある色気だな⋯⋯。
決してノエル先輩が破廉恥だとかそういうふうに思ったわけではないが、やはり常日頃の礼儀作法を意識したレティシア様の色気というのは毅然としていて上品なものに感じる。
エリィ姉さんは基本的にふわふわしているので色気というよりは、落ち着いた優しいひだまりのような人だ。
「ありがと、ユリィ。ユリィのドレスもとっても素敵よ。よく似合ってるわ」
「アルトゥール様から贈られたドレスなのですよね? ユリアーナ様のために作られたものであることがよく分かります」
「ありがとうございます。おふたりも殿下たちから?」
「そうなの。ブライト様と選んだんだ~」
「わたくしも、ノーブル様と共に」
それはよかった。
エリィ姉さんがブライト様とドレスを見ていたのは知っていたが、レティシア様はノーブル様からドレスを贈られるか心配だと話していたから、安心した。
すると―――
「エリアーナ」
「レティシア」
―――わ~~っ!!
白の燕尾服を着たブライト様と、黒の燕尾服を着たノーブル様が現れた。
それだけではない。
なんと、ふたりは髪をオールバックにしていた。
―――ヤバい。これはヤバい。
いつもの姿でもキラキラオーラ強めなのに、今日は一段と輝いて見える。
髪型ひとつでこんなに破壊力が上がるって、どういうこと??
周りの女性陣はすでに倒れている人もいる。
分かる、分かるよ。
今回に関してはブライト様も含めてかっこよすぎる。
そして―――
「ユリアーナ様」
リン、と澄んだ氷の鈴の音が聞こえ、白薔薇の香りがふわりと舞う。
白のタキシード姿の盲目の貴人は、私を視界に捉えると嬉しそうに笑った。
――――――――――――
補足/
燕尾服とタキシードの違いについて。
燕尾服は夜の最上級正礼装(ホワイトタイ)とされています。ジャケットの後ろの裾が燕の尾のように長く、二股に分かれていて、オーケストラの指揮者や演奏者が着ているイメージのものです。
タキシードは燕尾服よりも一つ下の格の小礼装(ブラックタイ)で、燕尾服より幅広いシーンで着用されています。
今回、双子の王子は燕尾服、その他の男子生徒はタキシードにしています。燕尾服のほうが格上なので、王族とそれ以外(貴族、平民)を完全に区別するためにそうしました。王族を実際に見たことのない生徒もいるので、誰が見てもすぐに分かるようになっています。
※「王族しか燕尾服を着てはいけない」なんてルールはありません。今回、王族だけ燕尾服にしただけで、現実世界の国家レベルの式典の出席者や音楽会の演奏者は燕尾服を着ています。
著者から/
次回、裏話です。アルトゥール視点でドレス姿のユリアーナを語ってもらいます。
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