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圏ガクの夏休み!!
失ったものと手に入れたもの
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「全員じゃねーよ。オレは関係ない」
「ちょっと! どこ行く気よ!」
「お前の家だ。せっかくの祭り、どうせなら大勢で騒いだ方が楽しいだろ。お前の兄貴も引っ張って来てやる」
相手が全く引かないせいで、取っ組み合いも辞さないと獰猛な目をした妹に対抗して、オレは由々式の家へ向かって歩き出す。正直、広場を出てから、どっちを向いて進めばいいのかすら分からない状態だが、妙に腹が立っておさまらず、制止も振り切り広場を横切るよう大股で歩く。
「お母さん! この人、頭おかしいよ!」
「カズちゃん、どうしたの。夷川君は見つかったの?」
すると走って先回りしやがった妹が、由々式のおばさんを連れて立ちはだかった。
「お兄ちゃん連れ出すって言ってるの! 家に乗り込んでくる気だよ!」
山賊か強盗のような言われようだな。オレは友だちを遊びに誘おうとしているだけなのに。
威嚇し合うオレらの間に立ってくれたおばさんは、後は自分が話すからと言って、まずは妹を引かせた。そして、困った顔で笑いオレを人気のない場所へと誘った。
「ごめんなさいね、ビックリしたでしょう。あの子は誠の妹で和子と言います。タバコ屋さんで、落とし物を拾ったらしくて、それが夷川君のじゃないかって言ってたから、あなたの特徴を教えてしまったの」
タバコ屋の後始末に関しては、感謝しているので、落とし物を受け取った旨を伝えると「よかったわぁ」と笑ってくれた。
「オレ、別に家に乗り込んで悪さしようってんじゃなくて、由々式が祭りに来てないみたいだから、誘いに行こうかなって思っただけなんです」
妹の言い方をそのまま受け取られると、確実に風呂掃除どころではないので、しっかりと弁明しておいた。
「誠を誘ってくれようとしてたのね。ありがとう」
穏やかに納得を示すよう頷いてくれたおばさんは、けれど少し困ったような顔を見せる。
「それなのにごめんなさいね。誠ね、今ちょうど旅行で家をあけているの。大事な用事があるとか言ってね、自分で切符まで買って……何をしているのか分からないけど、東京に出掛けてるのよ」
えらい優雅な生活してんなぁ、あの野郎。内心が顔に出ないよう気を付け、改めて頭を下げた。
「そうとは知らず、強引に家にまで押しかけようとして……妹さんを怖がらせてしまって、すいませんでした」
「和ちゃんは誠の事となると、ちょっと取り乱しちゃうから、夷川君こそ驚いたでしょう」
おばさんの言葉に、妹の過剰な兄への嫌悪を思い出し、オレは流れでなんとなく疑問を口に出す。
「由々式、何かしたんですか?」
すぐ近くに家があるのに、全寮制の、いや圏ガクにいる理由、それを尋ねるとおばさんの和やかだった表情が悲しそうに曇ってしまった。
「すいません、忘れて下さい。また、本人に聞きます」
おばさんの辛そうな顔を見ているのは、心苦しくて即座に撤回する。それでも、おばさんの表情は晴れない。
「あの……圏ガクでは、一年の時に同室になった奴の事を身内って呼ぶんです。寝るのも食うのも怒られるのも一緒で……その分、仲間意識が強いって言うか、知り合ってから、まだ日は浅いけどオレにとっては親友……みたいな感じに思ってて。だから、別に何聞いてもビビらないっつーか、変わらないんで。だから、また祭りがあったら誘いに行きます」
何か言葉を探しているふうだったおばさんに、オレはどうしてか言葉を重ねた。どれも本心とは言え、改まって言うのは恥ずかしい台詞ばかりで、どうして自分がそんな事を言っているのか分からなかったが、おばさんの和やかな表情が戻って来て、その理由を得心した。
「ありがとう、夷川君。これからも誠と仲良くしてあげてね」
おばさんの顔を見ていると、少し胸が苦しくなる。
それは、オレが決別したもの、そのもので。
きっと、オレが望んでいたもの、そのもので。
このままでは感傷に浸ってしまうと、オレは「はい」と短く答えて、勢いで来た道を戻る。最後の一滴まで絞り出したと思っていたのに、まだ滲もうとする目元を擦り、先輩の姿を探した。
戻って来たベンチに先輩の姿はない。何も言わず動いてしまったから、オレを探しているのかもしれない。そう思うと気持ちが焦り、走り出そうとしたのだが「セイシュン」とオレを呼ぶ声が背後から聞こえた。
「せん…………」
込み上げてきたモノを受け止めて欲しくて、その腕に飛び込む気満々で振り返ったオレは、感極まった事すら引っ込ます現実にしばし沈黙する。
先輩の両手は綿菓子やりんご飴チョコバナナなど、オレが並ぶの恥ずかしいと言ってパスした屋台の制覇を物語る戦果を握りしめ、これでもかと夏祭りを満喫中で、オレの飛び込む隙など一つもなかった。残念ではあるが、まあ、そっちはいいだろう。そっちはいいが……
「なんか……足に付いてるけど、それ、何?」
先輩の右足にしがみついたガキは、オレにしか見えていない訳じゃあないよなと、確認するように指摘してみる。
「ん、子供だ。もう一人とはぐれたらしい。迷子だな」
小吉さんのとうもろこしをやったガキが、先輩の足にしがみついて、しかもよく見れば先輩の足の上に乗りながら、嬉しそうにチョコバナナを頬張っている。チョコレートでベタベタになった口元を先輩の服で拭くように、頬擦りしながら。
「ガキなんか拾ってくんな! 元の場所に戻してこい!」
犬猫じゃねぇんだぞ、ちっさいからって人間を拾うなと、先輩に食ってかかってしまう。
「いや、拾った訳じゃないぞ。なんか知らない間に足にくっついてたんだ」
オナモミかよ! 真剣な顔して、何言い出すんだ。あとオナモミに餌やんじゃねーよ!
「コイツと一緒にいた兄貴が心配して探し回ってるだろ、絶対。元の場所か、本部のテントに連れてくぞ」
苛々しながらガキを引っぺがそうとすると、生意気にも先輩の足に縋りつきながら、嫌々と首を振りやがった。
「おっちゃん、たかいたかいして」
オレには愚図りながら、先輩には甘えた声を出す図々しいガキに、大人げないと自覚しながらも声を張り上げる。
「とうもろこしはやっても、コレはやらねぇからな! 先輩はオレのだ! あと『おっちゃん』言うな!」
ポカンと口を開けながらオレを見つめてくるガキを前にして、子供に嫉妬して怒鳴りつける自分のあまりの情けなさに、心折れて膝をついてしまいそうになった直前、ガキの名前らしい単語を叫びながら、もう一人のガキがオレと先輩の間に飛び込み、弟の方を無理矢理ひっぺがした。
かなりパニクっているらしく兄は弟の手を必死で引っ張り『ごめんなさい』をろれつの回っていない怪しい舌で壊れた玩具みたいに連呼しながら、逃げようと走り出した。
目的は達成した訳だが、心の折れたオレは手放しでは喜べず、ドッと疲れた気持ちで溜め息を吐こうとして、突然何かに襲われ体が揺れる。
「うわッ!」
足の裏に確かにあった地面の感触が、突然消え失せた。足下にポッカリ落とし穴が出来たのかと錯覚し、声を上げてバタバタと宙を掻く。
けれど、そんなマンガみたいな事は現実では起こらない訳で、オレの体は落下するのではなく、脇の下に自分の重さを実感しながら浮き上がる。グンと高くなった視界から夏祭りを俯瞰し、状況を把握した。
「ちょッ! なにすんだ!」
いきなりオレを広場に向かって掲げる先輩の意図が分からず、バタバタしながらも抗議の声を上げる。てか、大の男を軽々と持ち上げるって、馬鹿力にも程があるだろ!
「え、セイシュンもして欲しいんだろ……ここから回したりした方がいいか?」
人の返事も聞かず、その場でグルグルと回転しやがるので、オレの体は寄りつく者を打ち払う凶器と化し、迷惑の権化に成り果てる。
「違うッ! そういう意味で言ったんじゃあない! いい加減に下ろせぇ!」
全力で声を張り上げ、足と手を振り回して、ようやく先輩の手からオレの体はずり落ちた。今度は本当に落下したのだが、着地したのは地面ではなく、先輩の足の甲を思い切り踏み付け、その胸の中に背中からキャッチされる。
周りの視線が生ぬるくて、恥ずかしさで死ねそうだった。結果的に先輩に抱きすくめられながら、羞恥と至福の狭間で身悶えていると、偶々だろうが近くを通りかかった稲継先輩に物凄い顔で睨まれた。
「けちー! けちー!」
女神が隣にいない事で苛々しているに違いないと、見て見ぬ振りを決め込もうとしたら、さっき走り去ったはずの方向からガキの大声が響いてくる。大人げなさが再燃してそちらを向けば、ガキが騒いで指さすオレらへ周囲の人の視線が全て誘導されていた。
「先輩、は、恥ずかしいから、早く離せよ!」
さすがにコレには降参だった。離せ離せと暴れて地面に下ろしてもらい、視線を振り切ろうと先輩の腕を掴んで走り出す。
「ちょっと待ってくれ、セイシュン。甘いのが全部置きっぱなしだ」
一秒でも早く離脱したいのに、先輩は岩のように足を止める。振り返れば、オレを持ち上げるのに邪魔だったらしい屋台の品々が、地面に丁寧に置かれていた。
「食い物を地べたに置くなよ!」
袋に入っている綿菓子は平気だろうが、他は大丈夫かとオレも一緒に回収する。
「その心配はないぞ。全部、ちゃんと袋に入っているからな」
何故か誇らしげに拾い上げたチョコバナナを見せつけてくる先輩の手を掴み直し、人気のない場所へと走る。もう我慢の限界だった。
「ちょっと! どこ行く気よ!」
「お前の家だ。せっかくの祭り、どうせなら大勢で騒いだ方が楽しいだろ。お前の兄貴も引っ張って来てやる」
相手が全く引かないせいで、取っ組み合いも辞さないと獰猛な目をした妹に対抗して、オレは由々式の家へ向かって歩き出す。正直、広場を出てから、どっちを向いて進めばいいのかすら分からない状態だが、妙に腹が立っておさまらず、制止も振り切り広場を横切るよう大股で歩く。
「お母さん! この人、頭おかしいよ!」
「カズちゃん、どうしたの。夷川君は見つかったの?」
すると走って先回りしやがった妹が、由々式のおばさんを連れて立ちはだかった。
「お兄ちゃん連れ出すって言ってるの! 家に乗り込んでくる気だよ!」
山賊か強盗のような言われようだな。オレは友だちを遊びに誘おうとしているだけなのに。
威嚇し合うオレらの間に立ってくれたおばさんは、後は自分が話すからと言って、まずは妹を引かせた。そして、困った顔で笑いオレを人気のない場所へと誘った。
「ごめんなさいね、ビックリしたでしょう。あの子は誠の妹で和子と言います。タバコ屋さんで、落とし物を拾ったらしくて、それが夷川君のじゃないかって言ってたから、あなたの特徴を教えてしまったの」
タバコ屋の後始末に関しては、感謝しているので、落とし物を受け取った旨を伝えると「よかったわぁ」と笑ってくれた。
「オレ、別に家に乗り込んで悪さしようってんじゃなくて、由々式が祭りに来てないみたいだから、誘いに行こうかなって思っただけなんです」
妹の言い方をそのまま受け取られると、確実に風呂掃除どころではないので、しっかりと弁明しておいた。
「誠を誘ってくれようとしてたのね。ありがとう」
穏やかに納得を示すよう頷いてくれたおばさんは、けれど少し困ったような顔を見せる。
「それなのにごめんなさいね。誠ね、今ちょうど旅行で家をあけているの。大事な用事があるとか言ってね、自分で切符まで買って……何をしているのか分からないけど、東京に出掛けてるのよ」
えらい優雅な生活してんなぁ、あの野郎。内心が顔に出ないよう気を付け、改めて頭を下げた。
「そうとは知らず、強引に家にまで押しかけようとして……妹さんを怖がらせてしまって、すいませんでした」
「和ちゃんは誠の事となると、ちょっと取り乱しちゃうから、夷川君こそ驚いたでしょう」
おばさんの言葉に、妹の過剰な兄への嫌悪を思い出し、オレは流れでなんとなく疑問を口に出す。
「由々式、何かしたんですか?」
すぐ近くに家があるのに、全寮制の、いや圏ガクにいる理由、それを尋ねるとおばさんの和やかだった表情が悲しそうに曇ってしまった。
「すいません、忘れて下さい。また、本人に聞きます」
おばさんの辛そうな顔を見ているのは、心苦しくて即座に撤回する。それでも、おばさんの表情は晴れない。
「あの……圏ガクでは、一年の時に同室になった奴の事を身内って呼ぶんです。寝るのも食うのも怒られるのも一緒で……その分、仲間意識が強いって言うか、知り合ってから、まだ日は浅いけどオレにとっては親友……みたいな感じに思ってて。だから、別に何聞いてもビビらないっつーか、変わらないんで。だから、また祭りがあったら誘いに行きます」
何か言葉を探しているふうだったおばさんに、オレはどうしてか言葉を重ねた。どれも本心とは言え、改まって言うのは恥ずかしい台詞ばかりで、どうして自分がそんな事を言っているのか分からなかったが、おばさんの和やかな表情が戻って来て、その理由を得心した。
「ありがとう、夷川君。これからも誠と仲良くしてあげてね」
おばさんの顔を見ていると、少し胸が苦しくなる。
それは、オレが決別したもの、そのもので。
きっと、オレが望んでいたもの、そのもので。
このままでは感傷に浸ってしまうと、オレは「はい」と短く答えて、勢いで来た道を戻る。最後の一滴まで絞り出したと思っていたのに、まだ滲もうとする目元を擦り、先輩の姿を探した。
戻って来たベンチに先輩の姿はない。何も言わず動いてしまったから、オレを探しているのかもしれない。そう思うと気持ちが焦り、走り出そうとしたのだが「セイシュン」とオレを呼ぶ声が背後から聞こえた。
「せん…………」
込み上げてきたモノを受け止めて欲しくて、その腕に飛び込む気満々で振り返ったオレは、感極まった事すら引っ込ます現実にしばし沈黙する。
先輩の両手は綿菓子やりんご飴チョコバナナなど、オレが並ぶの恥ずかしいと言ってパスした屋台の制覇を物語る戦果を握りしめ、これでもかと夏祭りを満喫中で、オレの飛び込む隙など一つもなかった。残念ではあるが、まあ、そっちはいいだろう。そっちはいいが……
「なんか……足に付いてるけど、それ、何?」
先輩の右足にしがみついたガキは、オレにしか見えていない訳じゃあないよなと、確認するように指摘してみる。
「ん、子供だ。もう一人とはぐれたらしい。迷子だな」
小吉さんのとうもろこしをやったガキが、先輩の足にしがみついて、しかもよく見れば先輩の足の上に乗りながら、嬉しそうにチョコバナナを頬張っている。チョコレートでベタベタになった口元を先輩の服で拭くように、頬擦りしながら。
「ガキなんか拾ってくんな! 元の場所に戻してこい!」
犬猫じゃねぇんだぞ、ちっさいからって人間を拾うなと、先輩に食ってかかってしまう。
「いや、拾った訳じゃないぞ。なんか知らない間に足にくっついてたんだ」
オナモミかよ! 真剣な顔して、何言い出すんだ。あとオナモミに餌やんじゃねーよ!
「コイツと一緒にいた兄貴が心配して探し回ってるだろ、絶対。元の場所か、本部のテントに連れてくぞ」
苛々しながらガキを引っぺがそうとすると、生意気にも先輩の足に縋りつきながら、嫌々と首を振りやがった。
「おっちゃん、たかいたかいして」
オレには愚図りながら、先輩には甘えた声を出す図々しいガキに、大人げないと自覚しながらも声を張り上げる。
「とうもろこしはやっても、コレはやらねぇからな! 先輩はオレのだ! あと『おっちゃん』言うな!」
ポカンと口を開けながらオレを見つめてくるガキを前にして、子供に嫉妬して怒鳴りつける自分のあまりの情けなさに、心折れて膝をついてしまいそうになった直前、ガキの名前らしい単語を叫びながら、もう一人のガキがオレと先輩の間に飛び込み、弟の方を無理矢理ひっぺがした。
かなりパニクっているらしく兄は弟の手を必死で引っ張り『ごめんなさい』をろれつの回っていない怪しい舌で壊れた玩具みたいに連呼しながら、逃げようと走り出した。
目的は達成した訳だが、心の折れたオレは手放しでは喜べず、ドッと疲れた気持ちで溜め息を吐こうとして、突然何かに襲われ体が揺れる。
「うわッ!」
足の裏に確かにあった地面の感触が、突然消え失せた。足下にポッカリ落とし穴が出来たのかと錯覚し、声を上げてバタバタと宙を掻く。
けれど、そんなマンガみたいな事は現実では起こらない訳で、オレの体は落下するのではなく、脇の下に自分の重さを実感しながら浮き上がる。グンと高くなった視界から夏祭りを俯瞰し、状況を把握した。
「ちょッ! なにすんだ!」
いきなりオレを広場に向かって掲げる先輩の意図が分からず、バタバタしながらも抗議の声を上げる。てか、大の男を軽々と持ち上げるって、馬鹿力にも程があるだろ!
「え、セイシュンもして欲しいんだろ……ここから回したりした方がいいか?」
人の返事も聞かず、その場でグルグルと回転しやがるので、オレの体は寄りつく者を打ち払う凶器と化し、迷惑の権化に成り果てる。
「違うッ! そういう意味で言ったんじゃあない! いい加減に下ろせぇ!」
全力で声を張り上げ、足と手を振り回して、ようやく先輩の手からオレの体はずり落ちた。今度は本当に落下したのだが、着地したのは地面ではなく、先輩の足の甲を思い切り踏み付け、その胸の中に背中からキャッチされる。
周りの視線が生ぬるくて、恥ずかしさで死ねそうだった。結果的に先輩に抱きすくめられながら、羞恥と至福の狭間で身悶えていると、偶々だろうが近くを通りかかった稲継先輩に物凄い顔で睨まれた。
「けちー! けちー!」
女神が隣にいない事で苛々しているに違いないと、見て見ぬ振りを決め込もうとしたら、さっき走り去ったはずの方向からガキの大声が響いてくる。大人げなさが再燃してそちらを向けば、ガキが騒いで指さすオレらへ周囲の人の視線が全て誘導されていた。
「先輩、は、恥ずかしいから、早く離せよ!」
さすがにコレには降参だった。離せ離せと暴れて地面に下ろしてもらい、視線を振り切ろうと先輩の腕を掴んで走り出す。
「ちょっと待ってくれ、セイシュン。甘いのが全部置きっぱなしだ」
一秒でも早く離脱したいのに、先輩は岩のように足を止める。振り返れば、オレを持ち上げるのに邪魔だったらしい屋台の品々が、地面に丁寧に置かれていた。
「食い物を地べたに置くなよ!」
袋に入っている綿菓子は平気だろうが、他は大丈夫かとオレも一緒に回収する。
「その心配はないぞ。全部、ちゃんと袋に入っているからな」
何故か誇らしげに拾い上げたチョコバナナを見せつけてくる先輩の手を掴み直し、人気のない場所へと走る。もう我慢の限界だった。
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