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愛人ロクサーヌ

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 「またいらしたんですか?」

 馬車を降り、静かにしてもらおうと話しかける。

 「あんた、まだこのお邸にいたの!? ここは私とライナス様のお邸よ!! さっさと出て行ってよ!」

 この方は頭がおかしいのでしょうか?

 「この前も言いましたよね? この邸は、私のお父様のものです。決して、ライナス様のものにはなりません。」

 「嘘つき! ライナス様から離れたくなくて、そんな事を言っているのね!?」

 何を言っても分かってもらえない。
 どうしたらいいのでしょうか?

 「レイチェルはもう、ライナスとはなんの関係もない。俺の妻に、変な言いがかりをつけないでもらえるかな?」

 「俺の妻……だと!?」

 いつから居たのか、ライナス様が立っていました。

 「ライナス様!! やっとお会い出来ました!」

 ロクサーヌがライナスの元へ駆け寄る。

 「誰だお前?」

 ……ライナス様は愛人を覚えていないのですか?

 「私です! ロクサーヌです! ライナス様が愛するロクサーヌです!!」

 「お前など知らんし、愛してなどいない。俺が愛しているのは、レイチェルだけだ!」

 この展開、先程お茶会で見ましたけど?

 ライナスは愛人を誰一人覚えてはいなかった。というより、皆レイチェルだと思って抱いていた。
 もちろん、違う事は分かっていたし、愛人だという認識もあったが、レイチェルには緊張して手を出せないストレスを、他の女性をレイチェルだと思い愛する事で満足していた。
 ライナスが覚えている女性は、愛するレイチェルだけ。レイチェルと離婚し、邸を追い出された後は、実家に戻っていた。父コーエン侯爵に、レイチェルと復縁出来るように力を貸して欲しいと頼んでいたが、コーエン侯爵に諦めろと言われてしまったのだった。それでも諦めきれないライナスは、レイチェルを訪ねて来た。
 愛人達はライナスが全く会いに来なくなった事で、レイチェルにライナスと別れろと乗り込んできた。他の愛人達は、すでに離婚していると聞いて納得して帰ったが、ロクサーヌだけはいつまでもライナスに執着し、レイチェルがライナスを隠していると思っていた。


 「どうしてですか!? 私はライナス様の為ならなんだって出来ます! レイチェル様は、他の男の妻になるとかほざいてるんですよ!?」

 ロクサーヌさんは、私の言うことは理解出来ないのに、ライナス様の言うことは理解出来るのですね。

 「ライナス、この邸は誰のものだ?」

 「この邸? テイラー侯爵のものだが?」

 「という事です、ロクサーヌさん。だから、もう二度とここに来ないでくださいね?」

 「いいわ。私はライナス様さえ居てくれれば、何もいらないもの!」

 ロクサーヌがライナスへと手を伸ばした瞬間、

 「ライナス様だわ!」
 「ライナス様!! 私達を騙したのね!?」
 「どうして会いに来てくださらなかったのですか!?」

 なぜか愛人達が集まって来ました。
 ……私とライナス様の結婚は無効になったので、愛人ではないですね。まあ、離婚が成立した時から、もう愛人ではないのですが。
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