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壊れた祝福者

逆転

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 何日経過したかさっぱり分からないが、なんだろう、完璧にぶっ壊れるような状態なのに俺は壊れないままでいる。
 あの夢は毎回見て、死にたくなる。
 なのに子どもの俺の声が「嫌だ」と泣き喚くのが聞こえる。

 ぶっ壊れてるし、おかしくなってるのに、なんでこういうところだけアレなんだよマジで!!

 正常なのか、異常なのか、よく分からない。
 死にたいって俺の願望とそれを「嫌だ」と駄々こねる子どもの俺。
 最初は何とかうるせぇ黙れとか思うことで抑えつけれた「子ども頃の俺」は、今じゃあ手が付けられなくなった。

『リアンに連れて行ってほしかった』
『愛してほしかった』
『リアンの傍にいたい』
『リアン何処』

 泣き喚く泣き喚く。
 五月蠅いし、黙らないし、黙れとか思うと余計喚きだす。
 ただ、誰かが触れてると喚き声はすとんと消える。
 まぁ、つまりだ――俺が何か液体注入されているらしい時間、すっげぇ五月蠅い。

 それが一日に三回もだ。

 この声聞きたくないから本当、死ぬかどうにかしたい、マジで。
 ああ、また五月蠅くなった。
 死にたいと思うと更に喚き声が酷くなるんだよ……!
 暗闇で触られてる感触とかそれくらいしか分からないだけの方がマシだ!!
 この声が五月蠅くて俺はもう嫌だ!!

『うそつき!!』

 ああ、もう、うるせぇ!!

『本当は死にたくなんかないくせに!!』

 本当に黙れ!!


 ああ……本当に、キツイ……
 何で「子ども頃の俺」に色々言われなきゃならないんだ……
 今までとは違う意味できつすぎるぞこれは……
 この状態、どうにかして欲しい……

 うん……俺の方から何とかしようとしたけど、声は出ない、だから思ってるだけ。
 体が動かない、指一本動かせない。

 ああ、クソ、少しでもいい、誰でもいいから俺のこの状態を終わらせてくれ!!


 だ れ か


 口が動いたような気がした。
 すると、口を触っていた手が、するりと口から離れた。


「――ニュクス、起きて」


 声が聞こえたと同時に、唇に、何か指とは違う感触を感じた。

 ドクン、と音が鳴った。

『好きなひとにくちづけされたら、ねむってるやつはおきなきゃいけないんだぞ』

 うるせぇよ。




 光りが眩しくて、「痛い」と感じた。


 久しぶりに見た、リアンの部屋の天井。
 あと、リアンの顔。
 不安げな表情をしているが、最初あった頃とか、俺がかなりぶっ壊れて酷いことしてた頃とかと比べると、明らかに良くなっているのが何となくだけど分かった。

「――」

 あ、駄目だ、声でねぇ、またか畜生。

 体を動かそうとするが――ほんの少し体を起こせたがすぐさまぼすんとベッドに倒れこんだ。
 ずっと体を動かさないと動かせなくなるというのを思い出した、前もあったがコレ前以上に酷いわ本当。
 そういや、半年眠ってる……というかアイツと会話してて、目を覚まして、またすぐ意識失って、それから……どれくらいたったんだこれ?
「ニュクス、無理を、しないで、いい」
 少しばかり、昔のリアンに、ほんの少しだけ戻ったような気がした。
 だからと言って甘えられねぇけどな。
 そんな資格ねぇし。

『まだそんなこと言ってる』

 うるせぇよ、本当。
 起きても五月蠅いとか本当勘弁してくれよ。
 あーそれにしても俺どれだけ動けないつーかアレな状態だったんだ?
 あ、扉の開く音がした。
「リアン様、お食事を――」
「……邪魔を、しない、で、くれ。ニュクス、がようやく、起きて、くれた、のだ」
 あ、この声マイラか。
 うーん、そういう風に冷たく言わなくてもいいんじゃないか?
「申し訳ございませんリアン様」
「――」
 ああ、やっぱ声でねぇや。
「……ああ、すまな、い。そう、だな、そういう、ふう、に言わなくても、良かったな」
 あれ、もしかして聞こえてる……わけないか、ただの気のせいだよな。

 まぁ、いいか。

 なぁ、動けるようになったら、俺ここから追い出してくれないか?
 散々傷つけてきたような俺に、アンタの傍にいる資格なんてないだろ?
「――」
 口は動くけど声はでない。
 けれども、リアンは前みたいな、非常に不安定な状態になった。
「嫌だ、嫌だ、嫌、だ!! お願い、だ、ニュクス、私、から、離れ、ないで、くれ。傍、にいて、くれ、嫌、だ。君が、いない、のは、嫌、だ!!」
 縋り付いてくる。
 嫌だ嫌だと、俺の「言葉」を拒否する。


 まぁ、此処に来て最初にやらかしたのはリアンの方だけど、まぁそれ以上に酷いことしたの俺だしな。
 まぁ、やらかしたのが原因で俺の隠してたのが出てきて、んで色々あって俺は最後の誰にも知られないように厳重に「鍵」をかけていた「昔」を思い出して、この様だしな。

 そりゃそうだ、今まで受けてめてくれる奴と会えなくなるんだ。
 そのことを「忘れる」か「封印」しないと、吐き出せない苦しみに耐えられなくなる。
 だから、子どもの俺は「鍵」をかけた。
 家族に、知られないように。
 家族に、負担をかけないように。
 自分が傷つかないよう「鍵」をかけた。
 そしてもらった物――あの宝石の事、宝箱に入れたが、今まで開けたりした宝箱を、俺はその宝石を入れてから一度もあけていない。
 思い出さないように、宝箱もあけない様に無意識にそうしてたんだろう。
 ああ、そうだな、誰かがあの箱に触ったら、俺は普段俺を殺そうとしてきた連中以外には見せない位、感情的になって箱に触るなと怒鳴ってた。

 それくらい、大事で、同時に思い出さないように、無意識にそうしてた。

 壊れたリアンを支える事は今の俺にはできないし、壊れているのが表に完全に出てる俺を、俺自身がどうにかすることはできない。
 壊れてるのが心だけならいいんだけど、体の方も現在ボロボロだからなぁ、声はでねぇし、ロクに動けねぇし。
 本当、どうしようもない。


 とりあえず、俺が目を覚ましたので、少しずつ体を慣れさせようと、スープ見たいな液体のがだされた。
 何も食べてないのが長期間続いたから、普通の食事だと胃袋が無理、という事でこういうのになった、まぁ栄養面はちゃんと補ってるらしいが。
 それをマイラが俺に食べさせようとしたら、リアンが酷く彼女を威嚇した。

 予想としては、どうやら他の者が俺に触るが酷く「嫌」なのだろうと思った。
 自分に他の者が触るのはどうやら、前と違って我慢できるのか、慣れたのか分からないが、今度は俺に誰かが触るのが非常に「嫌」なのだろう。
 まぁ、まだ相変わらず調理された食事は食えないらしいが。


 食事を終えたらしいリアンが口を布で拭ってから、俺を抱き起す。
「すま、ない、また、せた、ね。ほら、お願い、だか、ら、口を、あけ、て」
 薄い琥珀色の液体をすくったスプーンを俺の口に近づける。
 何とか口を開けると、口の中に薄い味の液体が入ってくる。
 非常に薄いので何と言えばいいのか分からない、美味いとは言えない。
 が、普通の食事はまだできないのだ、仕方ない。
 俺は液体を飲み込んだ。

 あ、無理。

 気持ちが悪くなった、吐き気が少しばかりある。
「――」
 ああ、もう、本当声がでないのって不便だな、できた事ができなくなるって言うのは本当やってられない。
「マイラ、ニュクス、は無理、らしい。……嫌、だが、点滴、の、用意、を」
「畏まりました」
 マイラが出ていくと、リアンはスプーンを置いて、俺を大事そうに抱きしめる。
「……あの、時、連れて、いけば、よかった、傍に、おけ、ばよか、った」
 あの時、ああ俺が子どもの時か。
「君、の、家族、も、なん、とか、せっと、く、して、つれて、くれ、ば、君、は、こんな、ふう、になら、なか、った、のに」
 無理だろ、流石にリアンの国を頼るというのも、母さん達は考えない。

 変えられない過去、治っていっているように見え、だけど何処か歪んでいく。
 変えられない事実、壊れてるのが表面化して、最後の大事なものも触れなくなって、死にたくても死なせてもらえなくて。

 他の連中の言う「普通」や「正常」から大きくずれた、俺達。

 ああ、何でこんなに「悲しい」んだ――





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