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壊れた祝福者
不幸の歯車を回す存在
しおりを挟む食事はまだうまく取れないから、セイアが此処に来て俺に点滴をする。
点滴は時間がかかるのと、少しだけ冷たい感じになるのがちょっと気になるけど、液体を飲み込んだ時の気持ち悪さに比べたら遥かにマシだからそれで良かった。
リアンはまぁ、何と言うかピリピリしている。
よほど俺を他者に触らせたくないらしい。
いや、本当、俺があの状態になってどれくらい時間が経ってるんだ?
「――」
「……セイ、ア。ニュクス、が私、の、部屋、に、来て、目、を、覚ま、すまで、どれ、程、時間、が、かか、った?」
「リアン殿下、五ヶ月ほどです」
五ヶ月か……この間のが半年……あ、もうとっくに一年経過してるな、此処来てから。
まぁ、そのほとんど、俺は他の連中的に「目を覚まさない」って状態だったけどな。
「――終わりました」
セイアはそう言って、俺の腕から針みたいなのを抜いて、消毒してから術で刺した箇所の痕を消して、使用した道具全部片づける。
少しして足音が二つ、気配も二つ消えた事から、マイラも出て行ったのだろう。
するとリアンがベッドの上にいる俺に近づいてきて、ベッドに乗っかって、俺を抱きしめる。
「ニュクス……ニュクス……私の、ニュクス……」
俺がまぁ、ある意味「目覚めない」五ヶ月間の間、あとその前の半年、多分俺のアレが原因で、最初の頃よりはマシになったけど「歪んだ」んだろうな、と何となく思った。
ああ、やっぱり俺、周りに悪影響与えるとか、不幸にする存在だわ。
死にてぇ。
『まだ、いうの? そんなこと』
うるせぇな。
『――でも、すこしこわいのはわかる』
怖い?
ああ……そうか、今までとも違うし、昔とも違うリアンが、俺は――怖いのか。
見れば手にあの宝石を持っている。
色が変わり、中に小さな薔薇の花がある綺麗な宝石。
「これは、ニュクス、君だけの、もの」
そう言って俺の手に握らせる、何度も、何度も。
手が動かなくて、俺が握ることもできなくても、何度も、何度も、落としては握らせ、また落としては握らせ、それを繰り返す。
無意味な行為を、幾度も繰り返す。
俺は、手を動かせたとしても、あの宝石を握る気はもうない。
あの宝石を自分の意思で手にする気はない。
俺にそんな価値はない。
『なんで、そんなこと、いうんだよ』
事実なんだから仕方ない。
それに昔から言うだろ「初恋は実らない」ってさ。
『そんなのいいわけじゃないか』
もう、いいだろ。
俺はもうそろそろ終わりにしたい。
『死にたくないくせに』
うるせぇ。
相変わらず頭の中で「子どもの俺」は俺の思ってる事に文句をつけてくる。
生きるのが辛い、「恋」していた相手を傷つけた事実が辛い、生まれてきたという事自体が憎い、自分が憎くてたまらない。
死にたいと思っても、俺の命は俺の手の中ではなく、マイラ達や、リアンの手の中にある。
舌を噛むという死に方もあるらしいが、残念ながら俺は口は動かせるが自分の舌を噛むほどの力はない。
つまり、俺は自死もできない。
放置されたら死ねるけど、リアンはそれをしないだろう。
今思えば、ずっと俺に触ってたのはリアンなのだろう。
握らせてたのはあの宝石。
リアンの俺に対する依存の形が壊れたものが歪に修復された、そんな状態なんだろう。
歪みや壊れているのを家族に見せたくなくて隠していた俺。
立場から隠し、そして凌辱された時最後の支えにしていたリアン。
だから、取り返しのつかなくなった俺。
結果として歪んでしまったリアン。
ああ、全部、俺の所為だ。
本当、何で俺生きてるんだろう、死ねばいいのに。
「――」
殺してほしい、俺は不幸にしかできない、誰かを不幸にしたり、歪ませたり、苦しめたり、悲しませたりするしかできない、だから殺して欲しい。
「嫌だ、私は、君を、殺し、たく、ない。死なせ、たく、ない」
リアンの言葉、なんで俺の言葉分かるんだろう?
前声でなくなった時は……思った事を文字にしてくれる板のおかげで会話してたけど、今はどうして、俺のに反応してるんだろう。
「嫌、だ。もう、君、と離れ、たく、ない。傍に、いて、くれ、ニュクス、お願い、だ」
抱きしめられてるから顔が見えない。
なぁ、リアン愛想つかしてくれよ。
俺の事なんか嫌いだって言ってくれよ、いらないって言ってくれよ。
そしたら――
『なんでじぶんが、されたくないことをねがうんだよ!! おかしいだろ!!』
あー五月蠅い。
だから、だよ。
そしたら、多分俺は完全に「壊れる」からだよ。
もう二度と、治らない。
治せない。
そのまま、死なないようにしておけばいい。
そうしたら、世界は滅びない。
リアンも相応しい存在と結ばれる。
めでたしめでたし、だろ?
『どこがだよ!! おれしあわせになってない!! おれだってしあわせになりたい!!』
五月蠅い。
俺は幸せになったらいけないんだよ。
俺が居なかったらまた別の問題あったらしいけど、俺が産まれたから。
母さんと義父さんは、俺の家族は命を狙われ続けて逃げ続けていた。
そんな家族を俺は傷つけた。
リアンは俺と出会った事で、結果今歪んだ。
みんな、俺の所為で、不幸になってる。
俺はいないほうがいい存在なんだよ。
ついでにあの腐れ外道の血も引いてる、そんな血は途絶えた方が良い。
「――」
リアン、お願いだよ、嫌いっていってくれよ。
俺はそれで楽になれる。
「どう、して……そんな、願い、ばかり、言う、んだ? 嫌、だ。私は君を、愛して、いる、お願い、だ。離れ、ないで、ずっと、傍、に、居て」
何で通じるのか分からないけど、願いは聞いてくれないのか。
もう、俺いなくていいだろ?
「――」
他に相応しい存在がいるからさ、だから俺の事なんて綺麗さっぱり忘れてくれよ。
ただの子どもとの戯れのような約束、子どもの頃の初恋が終わるだけ。
だから、終わりにしてくれよ。
「――嫌だ」
聞いてくれよ、俺の願い。
なぁ、リアン。
押し倒される、あの宝石が枕元の横に転がる。
服を破く音が聞こえる。
あぁ、そうだ、こんな扱いが俺にはお似合いだ。
他者の都合をぶつけられて、自分ではどうにもできない「人形」の役割。
何故か知らないけど視界が滲む、目から涙が流れた。
何でだろう?
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