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Ⅳ章――――二人きりの海
22 夢の帰り道
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胸を満たす感動的な光景を目に焼きつけた朝を迎えたその後、張り切って今日も生き延びますか! と全体的にしょっぱい味の朝食を取っていた。
朝食のおかずは、やはりマリンフェアリーの話だった。
あの後、空気がなくなりそうだったので、俺たちは海上へ浮上することにした。マリンフェアリーも海上を目指していたようで、帰り道も光に囲まれながら泳いでいた。
マリンフェアリーは太陽光をおもいっきり浴びれる深さまでくると、発光をやめてただのクラゲになってしまった。
こんなクラゲは聞いたことも見たこともない。こういう時、お助けアイテム『スマホ』でもあれば合点承知の助と、スマホが答えっぽいものを表示してくれるが、おそらくロッカーの中だろう。
スマホがなくても案外すごせるというか、スマホを気にする余裕がなかったというか。そう考えると、今の俺はまだ余裕を持てているのかもしれない。
まあ、そんなことはさておき。実を言うと、魔法が解けたクラゲと共に海面へ向かっていたその途中にも、クラゲに驚かされた。
ようやく海面が見えたって時、視界の端に何やら目立つ大きな物を目にし、何気なく視線を振った。まさか、あんなものが横を通るとは思っていなかったのもあって、俺は口に含んでいた空気を吐き出してしまった。
大きな白い傘をふわんふわんとさせながら、浮上していくクラゲ。これもマリンフェアリー……なわけがない。小さなクラゲが急に巨大化するなんて、どこのファンタジーだよ!
水族館に行ったことのある人は、一度くらい大きなクラゲを見たことがあるかもしれない。または、気まぐれに目にした大きなクラゲを見たことがあると、手を挙げてくれる人もいるだろう。
それを三倍ほど巨大化してくれ。デカすぎだ。ここだけの話、大きすぎてチビりそうだった。情けないと思うか? よーく考えてみ? 泳いでいたらぬっと巨大なクラゲが視界の端から出てくんだぜ? 怖くね……?
俺たちは示し合わせたわけでもなく、動きを止めた。キャンプで立てるテントくらいの傘のひだが上下に揺れるたび、何か鈍い音が聞こえそうなほど迫力があった。
俺たちはその大きな青白いクラゲに目を奪われていたからわかったのだが、海の塵のように漂っていた小さなクラゲを傘の中に回収しているように見えた。
クラゲは優雅に泳ぎを披露しつつ、小さなクラゲを回収しながら俺たちから離れていった。
なんとなく思ったことだが、もしかしてアレはあの小さなクラゲの親だったのかもしれない。そして、あの光は、あのクラゲが産まれた時にだけ見られる現象なんじゃないか。
伝説級の光景に出くわして興奮しているから、そんな飛躍した考えを持ってしまったのかもしれない。だけどそれくらい、あの光景は神秘的に見えたんだ。
海の桃源郷話でゆったりと談笑をしていたその最中、警笛の音が聞こえた。
一回、二回、三回。遥か海の彼方へ届きそうなほど、長い警笛音が鳴り響く。
「これって……」
「船だ! それもかなり近い!」
折谷は岩の抜け目へ走り出した。俺も折谷に続いて駆け出す。
影から出た瞬間、青い海と澄んだ空が広がった。一点の曇りもなく、空と海の境界線が見通せる。一隻の船がさざ波の上を横切っている。遠くてわからないが、ただの民間船とは思えない。
「おーい‼」
「助けてくれー‼」
俺たちは船に向かって大きく手を振り、声を張り上げる。何度も、何度も。
船は少しずつ旋回し、船首がこちらへ向かおうとしていた。
「気づいたか⁉」
俺たちの目は一隻の船へ釘づけになる。数人の人影が甲板へ出てくると、人影は片手を上げ、振ってきた。
俺たちは疲労を忘れ、体を大きく使ってここにいると示すように叫んだ。
死ぬか生きるかの瀬戸際に遭うも、ここに辿りつけたのは奇跡としか言いようがない。なんの因果か。ここにはマリンフェアリーがいた。
伝説にある海の光は、俺たちをここへ呼んだのか。あるいは、流された俺たちを助けてくれたのか。
それはわからないが、あのクラゲたちが行った方向と、船が来た方向は同じだ。気のせいだろうか。クラゲが通った海には、光の粒を浮かべて作られた道ができているように思えた。
俺たちは白い救難艇に乗せられ、十五分かけて樫崎島に戻ってきた。
樫崎島の港が近づいてくると、たくさんの人がいた。まるで旅行者の出迎えみたいだった。
防波堤で手を振っているのは村島とヤブ、朝川だろうか。俺は疲れ切った手で振り返した。
救難艇が港につけようとした時、澪さんが駆け寄ってきた。
言葉は必要なかった。澪さんの表情を見れば、どれだけ心配していたかが見て取れる。心なしか、やつれたような気がする。
折谷はシュンとした様子で船から降り、澪さんの前にテトテト歩み寄る。俺は保安官の手を借りて船から降り、少し離れた場所で二人を見守る。
折谷は澪さんの前で止まると、か細い声で「ごめんなさい」と呟いた。
澪さんは柔らかな微笑を浮かべた。
「本当に、無事でよかった」
そう言って、澪さんは折谷の頭を撫でる。
「キオーー!!」
感動的再会を打ち破る声が俺を呼んだ。
サバイバルから帰還した俺に対し、何かのイベントに出くわしたみたいにテンションを爆上げして駆け寄ってきた。
「おうおう! キオよ。生きてたか~! 我はうれし~ぞよ~!」
ヤブは腕で目を覆い、喚き出した。
「なんだその妙な口調は? わざとらしい心配なら要らねえよ」
「突然いなくなったって聞いたから、ホームレスになることにしたのかと思ったよ」
「健全な高校生がホームレスになろう! って飛び出すヤツがいるか」
冗談めかして減らず口を叩く朝川をあしらう。
「俺たちに感謝しろよ?」
「あ?」
村島は腕を組み、不敵に笑う。
「俺たちが鍛えてやったおかげで生き残れたんだ」
「なんの話だ?」
「なーに、簡単な話だ。俺たちとのビーチ鬼ごっこが、お前の生存率を上げたんだ。ほれほれ、感謝の言葉をくれても構わんよ?」
何を言い出すかと思えば……。朝川は偉そうに感謝を要求してくる。
こいつらときたら、大変な目に遭った俺をいたわる気はないらしい。ま、これはこれで戻ってきたって感じがする。
こうして、俺たちは樫崎島へ無事に帰ってきたのだった。
朝食のおかずは、やはりマリンフェアリーの話だった。
あの後、空気がなくなりそうだったので、俺たちは海上へ浮上することにした。マリンフェアリーも海上を目指していたようで、帰り道も光に囲まれながら泳いでいた。
マリンフェアリーは太陽光をおもいっきり浴びれる深さまでくると、発光をやめてただのクラゲになってしまった。
こんなクラゲは聞いたことも見たこともない。こういう時、お助けアイテム『スマホ』でもあれば合点承知の助と、スマホが答えっぽいものを表示してくれるが、おそらくロッカーの中だろう。
スマホがなくても案外すごせるというか、スマホを気にする余裕がなかったというか。そう考えると、今の俺はまだ余裕を持てているのかもしれない。
まあ、そんなことはさておき。実を言うと、魔法が解けたクラゲと共に海面へ向かっていたその途中にも、クラゲに驚かされた。
ようやく海面が見えたって時、視界の端に何やら目立つ大きな物を目にし、何気なく視線を振った。まさか、あんなものが横を通るとは思っていなかったのもあって、俺は口に含んでいた空気を吐き出してしまった。
大きな白い傘をふわんふわんとさせながら、浮上していくクラゲ。これもマリンフェアリー……なわけがない。小さなクラゲが急に巨大化するなんて、どこのファンタジーだよ!
水族館に行ったことのある人は、一度くらい大きなクラゲを見たことがあるかもしれない。または、気まぐれに目にした大きなクラゲを見たことがあると、手を挙げてくれる人もいるだろう。
それを三倍ほど巨大化してくれ。デカすぎだ。ここだけの話、大きすぎてチビりそうだった。情けないと思うか? よーく考えてみ? 泳いでいたらぬっと巨大なクラゲが視界の端から出てくんだぜ? 怖くね……?
俺たちは示し合わせたわけでもなく、動きを止めた。キャンプで立てるテントくらいの傘のひだが上下に揺れるたび、何か鈍い音が聞こえそうなほど迫力があった。
俺たちはその大きな青白いクラゲに目を奪われていたからわかったのだが、海の塵のように漂っていた小さなクラゲを傘の中に回収しているように見えた。
クラゲは優雅に泳ぎを披露しつつ、小さなクラゲを回収しながら俺たちから離れていった。
なんとなく思ったことだが、もしかしてアレはあの小さなクラゲの親だったのかもしれない。そして、あの光は、あのクラゲが産まれた時にだけ見られる現象なんじゃないか。
伝説級の光景に出くわして興奮しているから、そんな飛躍した考えを持ってしまったのかもしれない。だけどそれくらい、あの光景は神秘的に見えたんだ。
海の桃源郷話でゆったりと談笑をしていたその最中、警笛の音が聞こえた。
一回、二回、三回。遥か海の彼方へ届きそうなほど、長い警笛音が鳴り響く。
「これって……」
「船だ! それもかなり近い!」
折谷は岩の抜け目へ走り出した。俺も折谷に続いて駆け出す。
影から出た瞬間、青い海と澄んだ空が広がった。一点の曇りもなく、空と海の境界線が見通せる。一隻の船がさざ波の上を横切っている。遠くてわからないが、ただの民間船とは思えない。
「おーい‼」
「助けてくれー‼」
俺たちは船に向かって大きく手を振り、声を張り上げる。何度も、何度も。
船は少しずつ旋回し、船首がこちらへ向かおうとしていた。
「気づいたか⁉」
俺たちの目は一隻の船へ釘づけになる。数人の人影が甲板へ出てくると、人影は片手を上げ、振ってきた。
俺たちは疲労を忘れ、体を大きく使ってここにいると示すように叫んだ。
死ぬか生きるかの瀬戸際に遭うも、ここに辿りつけたのは奇跡としか言いようがない。なんの因果か。ここにはマリンフェアリーがいた。
伝説にある海の光は、俺たちをここへ呼んだのか。あるいは、流された俺たちを助けてくれたのか。
それはわからないが、あのクラゲたちが行った方向と、船が来た方向は同じだ。気のせいだろうか。クラゲが通った海には、光の粒を浮かべて作られた道ができているように思えた。
俺たちは白い救難艇に乗せられ、十五分かけて樫崎島に戻ってきた。
樫崎島の港が近づいてくると、たくさんの人がいた。まるで旅行者の出迎えみたいだった。
防波堤で手を振っているのは村島とヤブ、朝川だろうか。俺は疲れ切った手で振り返した。
救難艇が港につけようとした時、澪さんが駆け寄ってきた。
言葉は必要なかった。澪さんの表情を見れば、どれだけ心配していたかが見て取れる。心なしか、やつれたような気がする。
折谷はシュンとした様子で船から降り、澪さんの前にテトテト歩み寄る。俺は保安官の手を借りて船から降り、少し離れた場所で二人を見守る。
折谷は澪さんの前で止まると、か細い声で「ごめんなさい」と呟いた。
澪さんは柔らかな微笑を浮かべた。
「本当に、無事でよかった」
そう言って、澪さんは折谷の頭を撫でる。
「キオーー!!」
感動的再会を打ち破る声が俺を呼んだ。
サバイバルから帰還した俺に対し、何かのイベントに出くわしたみたいにテンションを爆上げして駆け寄ってきた。
「おうおう! キオよ。生きてたか~! 我はうれし~ぞよ~!」
ヤブは腕で目を覆い、喚き出した。
「なんだその妙な口調は? わざとらしい心配なら要らねえよ」
「突然いなくなったって聞いたから、ホームレスになることにしたのかと思ったよ」
「健全な高校生がホームレスになろう! って飛び出すヤツがいるか」
冗談めかして減らず口を叩く朝川をあしらう。
「俺たちに感謝しろよ?」
「あ?」
村島は腕を組み、不敵に笑う。
「俺たちが鍛えてやったおかげで生き残れたんだ」
「なんの話だ?」
「なーに、簡単な話だ。俺たちとのビーチ鬼ごっこが、お前の生存率を上げたんだ。ほれほれ、感謝の言葉をくれても構わんよ?」
何を言い出すかと思えば……。朝川は偉そうに感謝を要求してくる。
こいつらときたら、大変な目に遭った俺をいたわる気はないらしい。ま、これはこれで戻ってきたって感じがする。
こうして、俺たちは樫崎島へ無事に帰ってきたのだった。
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