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Lesson4 重なる二人の想い出
STEP⑩ JK社長の気まぐれ
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街で雀が鳴き、道路を通る車もまばらだ。
事務所の中は限りなく無音だった。本日は日曜日。事務所は休みだ。まどろむ朝日が窓から差し込む。
静寂が鍵の開いた音にかき消された。開いたドアから入る小さな人影。ツインテールの髪が歩くたびに揺れる。大きな瞳の視線は事務所の中を彷徨う。
青野さんの姿は見当たらない。青野さんのデスクにはペンタブと作業途中のページが開かれたままのPCがあるだけ。ここにいないとしたら……。
私は左のドアに入る。ドアを開けて真っすぐ行き、突き当たりの右にはパーテーションで四角に区切られた応接室の入り口がある。右に視線を振ると通路がある。その突き当たりにまた扉がある。私は扉のレバーハンドルを下に動かしてドアを開けた。
ドアを開けた瞬間、絵具の充満した匂いがふわっと鼻孔を擽る。部屋の床には青いビニールシートが敷いてある。床が絵具で汚れないようにしているのだ。そのおかげでビニールシートはカラフルに絵具が付いている。この部屋に入ってすぐ右には長机があり、色々な絵具や筆が置いてある。
そして、中央にある一枚の絵。それは画架に支えられた画板の上に飾られていた。
絵は花冠。緑の葉と白の紫陽花が交互にあてがわれ、冠を形成していた。冠の骨は茎で作り、茎には蔓が巻きついている。
これが、青野さんが描きたかった絵……。
私はクスッと笑ってしまった。
青野さんには似合わない作品だ。でも……。
「うーん……」
ビニールシートがガサガサと鳴る。部屋の隅で大きな画用紙を繋げてミノムシみたいに包まっている青野さんがいた。寝息を立てている。どうやら寝袋などは用意していなかったらしい。不法侵入しているホームレスだなと思ってしまった。私は青野さんの近くでしゃがみ、寝そべっている青野さんの体を揺らした。
ユサユサ。
全然起きない……。
ユサユサ。
「う~ん……」
青野さんは少し体を動かして唸るだけで起きようとしない。
……。ユサユサユサユサ!!
「もう、なんだよ海香ちゃ……」
「ほう。元カノの名前ですか?」
「え? ……うおぉおおおーーーー!!?」
青野さんは驚きながら腕を上げて、壁に背中を張りつける。こう大げさに反応してもらえるとやっぱり青野さんはいじり甲斐があると思ってしまう。
☆
俺は起こしてきたのが海香ちゃんだと思っていたんだが、ロリータツインテールお嬢様の声がして目を開けたら、社長の顔があった。俺の家に社長が来て、モーニングコールを直接してくる状況に整理がつかず、俺は飛び起きた。
「なんで社長がいるんですか!?」
「なんでって、自分が経営してる事務所にいつ来たっていいじゃないですか」
社長は不満そうな顔で反論する。
「ってあれ? 俺なんでこんな所に……」
俺はてっきり自分の家にいると思っていた。
「私は誰とか言わないでくださいよ?」
社長は俺の戸惑いっぷりを頭がおかしくなった人みたいな目で見てくる。
「あ、社長……」
「なんですか?」
俺は床に膝をついている社長を舐め回すように下から見ていく。茶色のフリルのスカートはサスペンダー付きで、白黒ボーダーの長袖という服装だった。
いつも制服なので、少し雰囲気が違う。
「やっぱり服装もアレなんですね」
「はい? どういう意味ですか?」
「いやだからロリ、ぶへっ!?」
社長のロリパンチが俺の鼻に炸裂。
「そういえば赤い絵具切らしてたんですよねぇー。もっと出さないといけませんね」
社長の小さい手でもなかなかの威力だ。勉強だけでなく、運動もできるらしい。そして、威力のあるパンチを喰らった俺の鼻からは赤い花のエキスが垂れていた。
「いや、血じゃ絵具にならないでしょ」
俺は鼻を押さえながら正論を振りかざしてみる。
「油を混ぜればそれらしくなりそうじゃないですか」
目が完全に据わっている社長は拳を振り上げたままそう告げる。
「そんな絵具を使って呪いの絵でも作る気ですか? やめてくださいよ。もう言いませんから」
社長は立ち上がる。
「それで、思いだせましたか?」
「あ、はい。ここに泊まるって言いだしたんですよね」
俺は立ち上がって、絵具やら筆がズラッと並んだ机に置いてあるティッシュで鼻血を拭く。
「描きたい絵があるから三泊四日閉じこもると啖呵を切ったんです」
「いや、本当にそのつもりでしたから」
「でも、絵は仕上がってるみたいですけど?」
社長は俺から視線を逸らして、ある場所に視線を移す。俺もその視線を追った。画架に立てかけられた画板に乗っている紙に、描かれた一枚の絵。社長はその絵に近づく。
「青野さんって、こんな絵を描く人でしたっけ?」
社長はちょっと小馬鹿にした笑みを向けてくる。
「なんですかそれ」
「青野さんらしくないって言ってるんです」
心外だ。なんだか失礼なことを言いだす社長にちょっといじけてしまう。
「はあ……じゃあ社長は俺がどんな絵を描く人だと思ってたんですか?」
「そうですね……」
社長は俺の絵を見つめる。
「……ふふっ」
「……?」
社長は笑っていた。だが、俺にはその笑顔の意味が分からなかった。
「青野さん」
「なんですか?」
「青野さんがここに初めて着た時のこと、覚えてますか?」
「あんな衝撃的なことがあったら誰だって忘れられませんよ」
そう。衝撃。良く言えば天からの贈り物。悪く言えば神様の悪戯。
俺が初めてこの事務所に来た時のことが、社長の笑みの理由だろうか?
俺がこの事務所に初めて来た時というのは、今ここにいるロリータツインテールお嬢様との初めての出会いを意味していた。
事務所の中は限りなく無音だった。本日は日曜日。事務所は休みだ。まどろむ朝日が窓から差し込む。
静寂が鍵の開いた音にかき消された。開いたドアから入る小さな人影。ツインテールの髪が歩くたびに揺れる。大きな瞳の視線は事務所の中を彷徨う。
青野さんの姿は見当たらない。青野さんのデスクにはペンタブと作業途中のページが開かれたままのPCがあるだけ。ここにいないとしたら……。
私は左のドアに入る。ドアを開けて真っすぐ行き、突き当たりの右にはパーテーションで四角に区切られた応接室の入り口がある。右に視線を振ると通路がある。その突き当たりにまた扉がある。私は扉のレバーハンドルを下に動かしてドアを開けた。
ドアを開けた瞬間、絵具の充満した匂いがふわっと鼻孔を擽る。部屋の床には青いビニールシートが敷いてある。床が絵具で汚れないようにしているのだ。そのおかげでビニールシートはカラフルに絵具が付いている。この部屋に入ってすぐ右には長机があり、色々な絵具や筆が置いてある。
そして、中央にある一枚の絵。それは画架に支えられた画板の上に飾られていた。
絵は花冠。緑の葉と白の紫陽花が交互にあてがわれ、冠を形成していた。冠の骨は茎で作り、茎には蔓が巻きついている。
これが、青野さんが描きたかった絵……。
私はクスッと笑ってしまった。
青野さんには似合わない作品だ。でも……。
「うーん……」
ビニールシートがガサガサと鳴る。部屋の隅で大きな画用紙を繋げてミノムシみたいに包まっている青野さんがいた。寝息を立てている。どうやら寝袋などは用意していなかったらしい。不法侵入しているホームレスだなと思ってしまった。私は青野さんの近くでしゃがみ、寝そべっている青野さんの体を揺らした。
ユサユサ。
全然起きない……。
ユサユサ。
「う~ん……」
青野さんは少し体を動かして唸るだけで起きようとしない。
……。ユサユサユサユサ!!
「もう、なんだよ海香ちゃ……」
「ほう。元カノの名前ですか?」
「え? ……うおぉおおおーーーー!!?」
青野さんは驚きながら腕を上げて、壁に背中を張りつける。こう大げさに反応してもらえるとやっぱり青野さんはいじり甲斐があると思ってしまう。
☆
俺は起こしてきたのが海香ちゃんだと思っていたんだが、ロリータツインテールお嬢様の声がして目を開けたら、社長の顔があった。俺の家に社長が来て、モーニングコールを直接してくる状況に整理がつかず、俺は飛び起きた。
「なんで社長がいるんですか!?」
「なんでって、自分が経営してる事務所にいつ来たっていいじゃないですか」
社長は不満そうな顔で反論する。
「ってあれ? 俺なんでこんな所に……」
俺はてっきり自分の家にいると思っていた。
「私は誰とか言わないでくださいよ?」
社長は俺の戸惑いっぷりを頭がおかしくなった人みたいな目で見てくる。
「あ、社長……」
「なんですか?」
俺は床に膝をついている社長を舐め回すように下から見ていく。茶色のフリルのスカートはサスペンダー付きで、白黒ボーダーの長袖という服装だった。
いつも制服なので、少し雰囲気が違う。
「やっぱり服装もアレなんですね」
「はい? どういう意味ですか?」
「いやだからロリ、ぶへっ!?」
社長のロリパンチが俺の鼻に炸裂。
「そういえば赤い絵具切らしてたんですよねぇー。もっと出さないといけませんね」
社長の小さい手でもなかなかの威力だ。勉強だけでなく、運動もできるらしい。そして、威力のあるパンチを喰らった俺の鼻からは赤い花のエキスが垂れていた。
「いや、血じゃ絵具にならないでしょ」
俺は鼻を押さえながら正論を振りかざしてみる。
「油を混ぜればそれらしくなりそうじゃないですか」
目が完全に据わっている社長は拳を振り上げたままそう告げる。
「そんな絵具を使って呪いの絵でも作る気ですか? やめてくださいよ。もう言いませんから」
社長は立ち上がる。
「それで、思いだせましたか?」
「あ、はい。ここに泊まるって言いだしたんですよね」
俺は立ち上がって、絵具やら筆がズラッと並んだ机に置いてあるティッシュで鼻血を拭く。
「描きたい絵があるから三泊四日閉じこもると啖呵を切ったんです」
「いや、本当にそのつもりでしたから」
「でも、絵は仕上がってるみたいですけど?」
社長は俺から視線を逸らして、ある場所に視線を移す。俺もその視線を追った。画架に立てかけられた画板に乗っている紙に、描かれた一枚の絵。社長はその絵に近づく。
「青野さんって、こんな絵を描く人でしたっけ?」
社長はちょっと小馬鹿にした笑みを向けてくる。
「なんですかそれ」
「青野さんらしくないって言ってるんです」
心外だ。なんだか失礼なことを言いだす社長にちょっといじけてしまう。
「はあ……じゃあ社長は俺がどんな絵を描く人だと思ってたんですか?」
「そうですね……」
社長は俺の絵を見つめる。
「……ふふっ」
「……?」
社長は笑っていた。だが、俺にはその笑顔の意味が分からなかった。
「青野さん」
「なんですか?」
「青野さんがここに初めて着た時のこと、覚えてますか?」
「あんな衝撃的なことがあったら誰だって忘れられませんよ」
そう。衝撃。良く言えば天からの贈り物。悪く言えば神様の悪戯。
俺が初めてこの事務所に来た時のことが、社長の笑みの理由だろうか?
俺がこの事務所に初めて来た時というのは、今ここにいるロリータツインテールお嬢様との初めての出会いを意味していた。
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