二面性(リバーシブル)女との恋愛は期間限定

國灯闇一

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Lesson4 重なる二人の想い出

STEP⑲ 終わってない

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 私は一人、待機室にある椅子に座っていた。
 あぁ……最悪だ。
 私は自分のやったことの重大さに今頃気づいてしまった。どうしてこんなことをしてしまったのか分からない。待機室に入ってやっと我に返った。その時にはもう遅かった。
 私が後悔に浸っている間に、待機室のドアが開かれた。入ってきたのは蘭子と未久、新垣君、袴田君、伊佐山君の高校時代の同級生達だった。
「大丈夫? 佳織」
「うん」
 私は力なく応える。
「どうかしたのか?」
 袴田君の問いに、私はどう返事するか迷った。
「式は中止だってさ」

 見兼ねた伊佐山君が別の話を振ってくれた。
「そっか……。みんな、本当にごめん」
「ううん。いいよ」
 蘭子が笑みを浮かべて応えてくれる。
「ほんと私、どうかしてるね。来てくれた人達にまで、迷惑かけて……」
 私はセットされた前髪を乱し、片手で片目を覆う。未久が私のそばでしゃがむ。
「まだ、結婚したくない?」
 私は手をだらりと下げて、ウエディングドレスのスカートをぎゅっと掴む。
「わがままだって分かってるの。でもこのまま、何もなかったようになるのかなって考えたら、すごく怖くなって……」
「えっと……一体なんの話?」
 新垣君からうっすらと疑問が投げかけられた。
「新垣ってそういうの苦手だもんな」
「え!? 楊枝君分かってるの?」
 新垣君は焦り顔で袴田君に尋ねる。
「まあ、なんとなく」
「ダーリン静かに」
「はい……」
 蘭子が新垣君を叱りつける。
「ふふっ」
 私は新垣夫婦のやり取りに思わず吹きだしてしまった。
「笑う元気があるなら大丈夫そうだな」
 伊佐山君はそう言って笑みを浮かべた。
「うん」

「で、これからどうする?」
 袴田君がみんなの顔を見ながら問いかける。
「まずは相手方の親御さんに説明しないといけないんじゃないかしら?」
 未久が真剣な顔つきで神妙に言う。失態の責任が私に重くのしかかってくる。
「そっちは問題ありませんよ」
 私はドアに視線を振った。帝が待機室に入ってきた。
「帝……」
 帝は私の顔を見た途端、スッと笑みを浮かべた。
「そんな顔しなくていいから」
「問題ないってどういうことですか?」
 蘭子が問いかける。
「俺から後日説明すると言っておきました。他の招待客にも帰ってもらいました」
「帝、私……」
 私は立ち上がってちゃんと説明しようと思ったけど、言い訳がましい言葉だけが浮かんでしまう。どんな理由を並べても、私が帝を裏切ったことに変わりはなかった。
「分かってるよ」
 帝は優しくそう言った。
「青野さんのことだろ?」
 困ったような笑みで帝が言った。
「え!? 青野君が原因!?」
「ダーリンシャラップ!」
「……」
 蘭子に睨まれ、新垣君が委縮する。
「本当に、ごめんなさい」
 私は謝罪しか口に出せなかった。
 帝は首を横に振る。
「謝るのは俺の方だ」
「え?」
「佳織の気持ちを考えず、式の準備を進めてしまった。ごめん」
 帝は眉尻を下げて謝る。
「帝……。これだけは分かってほしい。私は、帝のことが嫌いになったわけじゃない。ただ、あの人はきっと、何も知らないから……」
「うん、行っておいで。俺はいつでも、君が帰ってくるのを待ってる」
「本当にごめんなさい」
 私は深々と頭を下げた。

「顔を上げて、佳織」
 帝にそっと肩を持たれ、優しく背筋を伸ばされた。私の頬に涙が伝う。帝は私に笑いかける。
「そんな顔をされたら、彼が困るだろ?」
 帝は私の涙をそっと指で拭った。帝は私の左手を持ち、薬指にめていた指輪を外した。
「帝?」
「今の君は縣佳織じゃない。館花佳織だ。ちゃんと君を見てもらわなきゃね」
 帝はポケットから左手のロングレースの手袋を私に渡す。
「それじゃ、俺はもう少し場を収めてくるから。こっちは任せて」
「帝。……ありがとう」
「頑張って……」
 帝は最後にそう告げて待機室を出た。

「ヒュウ~。カックイイ~」
 伊佐山君が茶化すように帝を見送った。
「それじゃ、やることは決まったね」
 蘭子は清々しくそう言った。
「ああ」
「そうね」
 未久と袴田君が笑って頷く。
「じゃあ今から行くよ! 佳織!」
「え!? 今から!?」
 私は蘭子からの予想外の提案に驚く。
「私、後日にしようと思ってたんだけど……」
「今すぐの方がいいよ。青野君絶対びっくりするから」
 未久は私の手を取る。
「ウエディングドレスも着たまま行くよ」
 蘭子が追い打ちをかけてくる。
「えっ、なんで!?」
「きょっちが佳織のウエディングドレス姿見たいって言ってたから、その恰好かっこうで目の前に現れたら効果抜群だよ~」
 蘭子は不敵な笑みで促す。
「……」
 私は想像してしまい、体が熱くなってくる。
 青野君にこの姿を見られて、なんて言われるんだろうとか。突然ウエディングドレス姿で現れて、引かれたらどうしようとか。褒められても、どう返したらいいか分からない。というか、何も言えなくなってしまいそうな気がする。今の状態じゃ、きっとそうなる。
「佳織、顔赤いよ?」
「赤くなってなんかないから!!」
 私はムキになって未久に反論した。
「善は急げ! 行くよ、佳織!」
 蘭子が私の手を引っ張っていく。
「蘭子!? 待って!!」
 私は蘭子と未久に引っ張られるまま、待機室を走って出た。
「青野君、仕事中だって!!」
「そんなの知らなーい!」
 私は動揺しながらもスカートの裾を少し上げて、転ばないようにして走る。私を引っ張って前を走る未久と蘭子の姿が、高校の時の記憶を甦らせる。


 ――――――――。


 通学路は急な坂のある高校だった。駅から続く一本道。その道は黒ではなく、石ころが埋め込まれた白い道だった。道路の白線は黒線へと逆転している変わった道だ。真新しいお店や家が多く、近隣住人はあの道をホワイトロードと呼んでいた。夕日があの道を照らすと、暖かな道へと様変わりする。
 夕暮れに染まるあの道を、三人でよく帰った。部活に入ってない未久と私は、放課後の教室で恋愛話や流行の話などをして過ごし、下校時刻になってから蘭子と合流して一緒に帰る。あの頃はそれが当たり前で。坂の上からただどこまでも続く地平線を眼前にはしゃいでいた。
 どんな世界でも、どんな場所でも、きっと私達は大丈夫だって、思っていた気がする。大人になっても私達はずっと友達で、何かあった時は必ず真っ先に手を差しだす。お互いをそう信じていたように思う。


 私の右手に繋がれた蘭子と未久の重なり合う手を見た。それが、私に勇気をくれた。二人の握っている手に、少しだけ力を入れた。
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