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 体中の血が冷えた気がした。
 せい?精?

 シュルト様の言葉が理解できない。
 いや、理解したくないのだ。

「そんな」

 慌てて自分の腹を押さえる。

 あの日の記憶はおぼろげだ。酷い抱かれ方をしたのはわかったが、最後にどうなったのかと聞かれればはっきりしない。
 中に出されると子供ができるというのは知っている。だが元々そういう行為の知識はあやふやだ。

 友人たちの間で流行っていたロマンス小説では「夢のような時間だった」とぼかされており、私はシュルト様と二人でそういう事をする日が来るのだと夢想した事はあった。

 しかし私の身に起こったことは夢どころか悪夢だ。
 荒波に流されるような激しい行為と、己を失う様な激情。

「あっっ!!」

 シュルト様の言葉に呆然としていた私は、尻を掴んでいるシュルトさまの手がスカートの中に入り込んだことに気が付き悲鳴を上げた。

「やっ、なん、なんで」

 逃げようとシュルト様の胸を押すがびくともしない。それどころか身体で押されて壁際に追いやられてしまう。
 ぴたりと制服越しにくっついた壁はひんやりしている。

 前に回ってきたシュルト様の手は私の抵抗や混乱など気にも留めず、スカートの中でいやらしく動く。
 下着の上から私の敏感な部分を撫でまわし、長い指が下着をずり下げるようにして私の素肌に攻め入ってきた。

「や、やぁぁっぁつ」
「濡れているではないか」
「ちが、やっ、あああん」

 甘ったるい声が出てしまう。
 シュルト様の指が突起や割れ目を執拗に撫でたりと弄り回し、まだ少しだけ腫れている私の入り口に届いた。

「んぅ、、あああっ、だめ、やっ」

 散々に弄ばれた記憶も新しい私の身体は、与えられる刺激に弱く、すぐに息が上がってしまう。
 どうしてこんなに簡単に私は堕とされてしまうのだろう。
 今すぐ逃げ出したいのに、膝が震えてもう立っているのがやっとだ。

「びっしょりだな」
「いわ、いわなぃでぇ」
「ほら、もう2本も飲み込んだぞ」
「ひゃうんっ!!」

 ぐりっと内側から抉るように動いた指が柔らかくて薄い皮膚を無遠慮にいたぶる。
 腰や膝が仕事を放棄して、私はそのままずるずると床に座り込んでしまった。
 ぬちゅ、と抜けていく指の感触が生々しく、座り込んだ私の目の前にあるぬるぬると光るその指先を見ていられず、視線を逸らした。

「俺の子を産みたくはないのか?」

 シュルト様の言葉が降ってくる。
 感情の読めない平坦な声に、怒っているのか呆れているのかもわからなかった。顔を見るのすら怖い。

 私は無言のままに首を振る。

 否定ではない。今の私にあるのは混乱だ。

「ま、まだ卒業していないの、に」

 在学中に妊娠などという前例はあったのだろうか。入学せずに若くして結婚し母になる令嬢もいないわけではない。
 しかし私はせめてシュルト様の妻として恥ずかしくないように学園で勉学や社交術を学びたかった。
 彼と結婚すれば当然子供を持つとは考えていた。だが今すぐ欲しいかと聞かれても自信が無い。

「そうか。俺がどんなに止めても入りたがった学園生活を手放すのは嫌か」
「…………」

 学園に入りたかったのはシュルト様の姿を見たかったからだ。
 彼が卒業してしまえば正直未練はない。けれど、身体をいじくられた衝撃と混乱で私の口は言葉を紡いではくれない。

「ならこれをやろう」
「え……」

 差し出されたのは紫色の丸薬だ。小さなハート形のケースに入っている。

「中に出して3日以内に飲めば妊娠を防げる薬だ。まだ子供が欲しくないと言うなら与えよう」

 からからとケースの中で音を立てるそれは、確かに今の私に必要な物だろう。

「くれるのですか……?」
「欲しいか?だが、タダでというわけにはいかない。欲しいのならば今すぐ下着を脱いで足を開け」
「なっ、なにを」
「簡単な話だ。俺に抱かれればこの薬をやろうと言っている」
「そんな」

 言っている事がめちゃくちゃだ。
 無理矢理ひどい事をしておいて、子供を産みたくないなら薬を飲めと脅し、薬が欲しければ抱かれろという。

「どうする?」

 カラン、と薬が音を立てた。
 頭の中が真っ白になって、彼を一途に思っていた恋心が割れた気がした。
 バラバラになったその破片が心の中に降り積もる。

「…………わかりました」

 シュルト様は結局私の事なんて玩具だとでも思っている。
 あんな薬を持っているのならば、私以外にもそういう相手がいるのかもしれない。
 私が婚約破棄だと言い出したから、こんな手酷い扱いをしたのだ。

 シュルト様にとってみればお飾りでも彼のプライドの為には私は彼のものでなくてはならない。
 悲しい、つらい、苦しい。
 それでも、恋に染まった私の人生からシュルト様という病は簡単には消えてくれない。

 自分で下着に手をかける。
 引き下ろす瞬間、一瞬だけ、迷いが生じるが、もう今更だと一気に脱ぎ捨てた。

「ほら、自分で足を開いて、そうだ、ちゃんとみせろ。まだしっかりと傷が残っているな」

 埃っぽい床に座って下着だけを取りさらった下半身を彼に晒す。太股にくっきりと残る歯型や引っ掻き傷すら丸見えだろう。
 自分から足を開くという屈辱的な姿が恥ずかしくて悔しくて、私はぎゅっと目を閉じてシュルト様の視線に耐える。
 がちゃがちゃと金具の音がして、シュルト様がベルトを緩めたのがわかる。
 肌に触れる温度に彼の身体が覆いかぶさったのが伝わってくる。
 腰を掴んだ手は大きく、私の身体は彼によって抱え上げられ、入口に熱くて硬いその熱が押し当てられた。
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