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―邂逅編―

深夜のもののけが僕を悩ます

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 西暦2000年1月2日、午前2時――

 真っ暗な空間が広がり、つけっぱなしになっていたテレビからは、試験放送の”ピー”という音がけたたましく鳴り響いていた。
 僕は慌てて部屋の照明をつけて耳障りなテレビを消した。僕は、宵闇の訪れとともに眠りに落ち、丑三つ時の深夜に目を覚ましたようだ。

 ――ふと、窓の外から何か異様な気配を感じて振り返った。おかしい、窓の外に何かいたぞ……。間違いない。僕は確かに見たのだ、おぞましい姿をした人外の存在を! 僕は、心霊やお化けの類が死ぬほど苦手だ。

 僕は恐ろしくなってベッドに潜り込んだ。常識的に考えて布団一枚など人外の存在の前には何の役にも立たないのだろうけど、少なくとも見なくて済むという安心感を得られる。それが大きいのだ。
 そして、僕は、布団に包まりながらもヤギ男の最期を何故か想像していた。頭の中で、『ヤギ男の首が飛んできたかもしれない』という恐ろしい妄想が膨らんでゆく……。死神の鎌がヤギ男の首を刈り取ったのだから、そのヤギ男の首が飛んでも何ら不思議ではない、という憶測は非科学的ではあるが、今ではそれも現実的な考えなのだ、という結論に至った。

 ――そんなどうでもいいことを考えながら妄想や憶測が頭の中で飛び交い、そのうちウトウトし始め、そのまま眠りこけてしまった――

 ――目が覚め、布団から顔を出すと、夜が明けていた。
 時計の針は午前8時を指している。なんだか体が鉛のように重たい……まさか未明に現れたヤギ男の首が憑依したのか……?
 そもそも、窓の外で見たような気がしたあれがヤギ男の首だったのかも定かではないし、本当に窓の外になにか居たのかも怪しい。
 記憶とは曖昧なものだ。昔から幽霊の正体見たり枯れ尾花という言葉もあるくらいだ。とにかく、疲労からくる倦怠感だろう。僕はそう思うことにした。

 ――まずは携帯電話をチェックするも、愛唯からの連絡はない。

 ため息をつきながらそのまま部屋を出た。階段を降り、リビングに入る。
「おはよう、調子はどうだ?」
 父親が話しかけてくる。
「昨日、色々あったからか、なんだか体調がすぐれない……」
 僕は父親にそう返した。
「母さんから聞いたけど、昨夜は体調悪そうだったっていうから少し心配したよ。ほら、お前の友達の銀太君、彼も入院だっていうし」
「え? 銀太、入院したんだ?」
 僕は彼の容体がそこまで悪化していたのかと驚いた。
「おはよう、さとり。昨夜、銀太君のお家から連絡が来たの……心配よね」
 キッチンで朝食の準備をしていた母親がリビングに入ってきた。
「銀太……信じられないよ」
 僕は大きなショックを受けていた。
「そうだな」
「そうよね」
 二人は僕の気持ちに理解を示してくれた。

 ――その後、しばしの沈黙が訪れた。
 沈黙の中、母親が用意してくれた朝食を家族で食べる。終始無言だ。
「ごちそうさま、少し出かけてくる」
 沈黙を破った父は、そう言ってから食べ終わった食器を流し台に置き、そのままリビングを後にした。

 リビングのテレビでは朝から正月特番が流れている――しかし、何かがおかしい。昨日のヤギ男の事件がなぜニュースになっていないのだろう? あれだけの出来事であれば、すぐ話題になってもおかしくないはずだ。
 情報が統制されているのか? 或いは、事件そのものがもみ消されている? 僕が考えても答えは出なかった……。
 ただ、一言で言うならば――異常である。

 僕は部屋に戻り、携帯電話をチェックした。相変わらず愛唯からの連絡はないが、藍里からは昨日の日付でメールが届いていた。
 僕が昨夜、寝落ちしていた時間帯にメールが届いていたようだ。
『冬休みの間でご都合の良い日がありましたら教えてください。明日とかでも大丈夫ですので!』
 藍里からのメール内容を見て、僕は慌ててメールの返事を打ち込み始めた。
『お返事遅くなりました。今日は予定、何もないです』
 僕がそう送ると、間もなく藍里からの返事が届いた。
『本当ですか!? それなら、今日、お会いできませんか? あの、お礼をしたいので。 何かご希望とかありますか? なんでも遠慮なく言ってください!』

 ――僕はその内容にありとあらゆる想像や妄想をできうる限りに張り巡らせた。それは”なんでも”ありということなのだろうか?
 しかし、僕は気付いてしまった、これは罠だ。僕は試されているのだ。愛唯との関係が拗れている今、悪魔の誘惑に負ければ僕の信念は脆くも崩れ去り、今後、僕の愛唯に対する気持ちは偽物となるだろう。それに無理難題を提案した時点で、藍里との関係もなかったことになるだろう。そうして迎える僕の最期は罪悪感に苛まれ、孤独の絶望の闇のなかで惨めに朽ちていくのだろう。
 もっとも、僕自身にそんな大それたことを言えるほどの勇気もユーモアもないので考えるだけ無駄であった。
 僕はくだらない考えを捨て去る。

『それじゃあ、電気街に行きませんか? これから一緒に』
 最初は無難な答えを返したと思ったが、女の子を電気街に誘うだなんてあまりにも無謀だった。送ってからかなり後悔した。
『わかりました! 実は私も一度、電気街には行ってみたかったので!』
 藍里は潔く了承してくれた。僕はひねくれた考えから、藍里の『行きたい』というのは本心からではないだろうと少し勘ぐった。
 実際、僕自身がそんなに行きたい場所というわけでもなかった。”自作パソコンのパーツを見る”という大義名分があり、彼女を電気街に誘った理由に困らない、という安易な考えだ。
 とにかく、僕らは連絡を取り合って、待ち合わせの時間と場所を決めた。
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