CoSMoS ∞ MaCHiNa ≠ ReBiRTH

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―邂逅編―

ダンテ登場!

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 暗がりには、ぼんやりとした明かりが灯っている。その奥には大きな玉座。そして、玉座の前にひれ伏すようにして、黒装束の人物たちが群がっている……が、銀太はいない。

 しばらくすると、部屋の奥から白いマントを羽織った女性らしき人物が現れた。隣には巨人のような男だ。
 見た感じ、真っ黒に染め上げた中世のフルプレートのような装いだ。白マントの女性が玉座に腰掛け、その横にフルプレートの男が立った。
 そして、奥からぞろぞろとキラキラしたフードとマントに身を包んだ怪しい人物たちが現れ、玉座の前まで進み、玉座を背にして黒装束集団の前に並んだ。
 ――その数13人。
 すると、最後尾にいた人物がフードとマントを脱いだ。

 ――彼は、黒い色の身動きしやすそうな上下と装飾のついたベルト、そして、赤黒いマントを纏って髪を逆立てた痛々しい格好をした少年だった。
 だが、それは、紛れもなく銀太だ。

「さとり、なぜ来た!? なぜ来てしまったんだ!」
 しばらくの沈黙の後、それを破って銀太が芝居がかった叫びをあげた。周りの人間たちは微動だにせず、ただ、銀太だけが悲しそうな顔をしてこちらを見ている。
 僕は、『お前、なんでそんな痛々しい格好をしているんだ!?』という心の声を胸の内にそっとしまい込んだ。

「銀太!」
 僕がそう言うと銀太は軽く首を横に振り――
「もはや違う。俺の名は、ダンテだ!」
 銀太は真顔でそう叫んだ。
 何かの芝居や演技なのだろうか? 僕は、銀太の拍車のかかった演技に笑いをこらえるので精いっぱいだった。
 ふと、横を見ると藍里は僕の腕をぎゅっと掴み、怯えながらもその光景をじっと見ていた。冷静に考えても見れば、僕も藍里と同じように怯えているのかもしれない。きっと、常軌を逸したこの状況で、僕の感覚がおかしくなっているのだろう。


 ――それは照明などではなく、銀太の掲げた右腕から噴き出す炎の明るさだ。
 まるで、血の色のようなどす黒いその炎は、僕たちにありとあらゆる負の感情を植え付けてくる。
「さとり、俺たちの邪魔はするな……そして、もう二度と首を突っ込むな、絶対に! いいか? 今後、お前が、俺たちの邪魔をすることがあれば、その時は容赦なく――この俺、ダンテが、お前とその愛する者たちを残らず排除する!」
 銀太……いや、ダンテがそう告げると部屋の中が真っ暗になった。
 その状況で僕は死の恐怖におののいた。藍里の恐怖も僕の腕を通し、激しい心臓の鼓動として伝わってくる。
 
 ――静寂。
 時の流れが極端に遅くなっているようにも感じられる。

 どれくらい経っただろう?数分かもしれないし、数十分だったかもしれない。
 後ろの扉が開き、ドアの隙間から光が漏れてきた。僕は藍里の手を強く握りしめて僅かに開いたドアを全開にし、必死で階段を上り、店の外に向かった。
「ありがとうございました~」
 小太りの店員は何食わぬ顔で声をかけて僕らを見送った。
 藍里は震えている。僕も震えている。

 手をつないだまま、逃げるように店内から出た僕と藍里は、大通り目指して路地を駆け抜けた。
「巻き込んでしまって、ごめん……」
 僕は、藍里にそう伝えた。
「いえ、私、鳳城さんが一緒で心強かったです。もし、私一人だったら耐えられなかった」
 藍里は泣きそうになっていた。僕のせいだ、僕が電気街になんて誘わなかったら……こんなことには――

 僕は、そんな気持ちになりながらも、ふと、時計を見る。
 随分と時間が経過していた。僕たちは一時間近く銀太を追いかけていたことになる。おそらくは、店の中に居た時間も体感よりずっと長かったのかもしれない。
 僕たちは、気分を落ち着かせるために近くのカフェに入り、案内されるまま席に着いてコーヒーを注文した。
 すると、少しだけ藍里に笑顔が戻った。
「実は、ここのお店のコーヒーが美味しいって雑誌に載っていました。私、コーヒーの味って苦くてよくわからないのですけど、こうして飲んでみると、なんだか、すごく、落ち着きます……」
 藍里は涙目になりながらそう言った。
 僕は、そんな彼女に軽く微笑んだ。

 それにしても、銀太にいったい何があったのだろう。
 きっと、銀太にも事情があって、銀太なりに、僕を助けてくれたに違いない。そうだと、思いたい。

 こんなことがあると、愛唯が心配だ。愛唯――
 僕はいたたまれない気持ちに陥り、ついに携帯電話をポケットから引っ張り出した。
『大丈夫? 何かトラブルに巻き込まれたりしてない?』
 僕は今か今かと返信を待つ。
『大丈夫。何もないよ』
 間もなく、愛唯からのメールが届いた。
 なんだろう? 僕は心配しすぎだったのか? 愛唯から連絡があったことがすごく嬉しいはずなのに、なぜか虚しく感じる。
『昨日はごめんね。昨日に引き続き色々あって愛唯のことが心配になって。でも、無事でよかった』
 僕は複雑な気分のまま、返事を送り、携帯電話をポケットにしまい込んだ。

 藍里は相変わらず上の空だ。僕もきっと似たようなものだろう……お互いに気まずい時間を過ごしているのだろう。
 僕は何気なく藍里のことを考えてみた。陽気さを兼ね備えた淑女とでもいうのだろうか、不思議な魅力のある可愛らしい女の子で、服のセンスは独特だけど、すごく似合っていると思う。藍里の身長は愛唯よりもやや低めだろうか?

 藍里と一緒に電気街を散策する……本来であれば、それだけでも喜ぶべきシチュエーションのはずなのだ。
 それなのに、愛唯のことばかり考えてしまって……本当に嫌な奴だな、僕は――
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