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第6章 運命の時は近い

230話 秘密

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「今の話でか?いや、もしや……イクシィ、整形用ナノマシンをサクヤに依頼したのか?」

 分かったのかと、そう木霊した声にタケルが推測を重ねた。

『そ、そうです。何処も怪しいとか無理だと突っぱねられて、ダメ元で依頼したらすんなり引き受け入れてくれたと言っていました』

 盲点。確か医療機関から断られたのは情報漏洩防止の為に作戦に関する一切を伏せていたからで、断られるなんて当たり前の話。浮かれていたが、しかし藁にも縋る思いだった当時にそんな考えが過る筈もなく、元凶などとは考えもしなかった。

「つまり、医療機関ソコから情報が漏れていたと?」

「漏れてたって、オイオイ。タダの病院だろ?」

「本来なら。だが私達の治療を専属で行う関係でスサノヲを含む複数部門と繋がっている。それどころか、特兵研が開発する新型義肢、武装の開発と実験、何故か黒点観測部門まで参加する各種検査とか、後はスサノヲとの訓練スケジュールに至る最終決定権まで握っている」

 彼女の言葉通り、冷静に考えればサクヤに集まる情報密度と重要度は桁違いに高い。それ以外だと英雄の体内に隠された神の核部分の摘出もサクヤの意向が絡んでいた。英雄に関するあらゆる事項という限定的な条件とは言え、その英雄は今や旗艦に必要不可欠な存在であり、あらゆる部門に少なからぬ影響力を及ぼす。よって、英雄の治療を担当するサクヤの権限と情報収集能力は現状において医療機関と言う枠を遥かに超えている。

「疑うなら普通は身内からってのがセオリーだが、まさかそんな場所からか!?」

 アックスは語気を強めた。が、別に誰かを責めている訳ではない。動揺、次いで迂闊。たかが医療機関が超越的な権限を持つという平時ならばあり得ない状況は正しく盲点で、誰も気に留めなかった。特に献身的で、我が身をすり減らしながら治療に当たったの主治医のコノハナを間近で見ていたスサノヲ達ならば尚の事だ。

「少なくとも救出作戦はサクヤから漏れたと考えて良い。計画の全容を知っているのは私とタケル、イスルギ、クシナダ、タガミの5人だけで他は与えられた各役割しか知らなかった。中途半端な対応、特に人数の少なさから考えれば私達の中にはいないし、入れ替え準備の担当はクシナダとタガミだけ。となると"犯人は整形用ナノマシンを使用するという程度しか知らず、守護者はその情報から複数の事態を想定した布陣を敷いた"と言う事になる」

「だけどさぁ、入れ替えんなら本人との接触は必須だろ?だったら面会許可しなけりゃそれで止められるんじゃねぇか?」

「あるいは、"黄泉で死んでもらう"よりも彼の逃走を大々的に報道、危険性を煽った上で殺す計画に切り替えたのでは?反響を考えればその方が合理的です」

「一理ある。しかし、結果として守護者側は計画を完全に把握していなかった。もし計画を完璧に把握していたなら真っ先に隠れ家を襲撃する筈。救出に出るであろうルミナを殺した方が確実に作戦を止められるし、合理的と言うならば偽の情報を流すだけで十分で、その方がリスクもコストも遥かに低イ。しかし何よりも同士討ちで手駒と時間を消耗した説明がつかなイ。実際、後手に回った現実から判断すればルミナの予測通り、陽動の可能性まで考慮して人手を分散したと考えるのが妥当だ」

「うーん、俺ァやっぱりソレだけでは弱いと思うがね?」

 全員の話を要約したタケルの言葉にアックスは渋い表情を浮かべた。危険な裏世界を生き抜いてきた経験か、確たる証拠もない内に行動すれば仲間からの信頼を失うに止まらず敵対する可能性をよく理解しているからこその発言だろう。

 確かにこの話は荒唐無稽で理論としては飛躍しているのだが、一方でそう考えれば納得がいく点が含まれているのも事実。とは言え、アックスの反論もまた間違ってはいない。現状で情報提供者がサクヤに居るという結論を裏付ける証拠は何処にもなく、全て推論でしかない。

「そうでもない」

「えぇ。多分、そうだと思います」

 が、ルミナと白川水希が仲良く彼の意見を否定した。てっきり同意が得られるものだと思っていたのだろうアックスは正しく鳩が豆鉄砲を食ったような表情へと変わった。

「え?え?何だよオイ?お前等だけで納得してないで俺にも教えてくれよ?」

「つまり、ここ最近活発になったデモ活動がサクヤから始まったと考えている訳です」

「ミズキさん、もう少し分かりやすく」

「では俺が説明しよう。敵は何らかの手段で大規模な人数を操る事でデモを扇動したと思われる。だが完璧でも無イし過去と比較すれば程遠イとは言え、復興の進展により強固な監視体制に戻りつつある旗艦内で堂々と他人を洗脳出来る高レベルのナノマシンを精製する事も、あまつさえそれを他人の身体に入れるなど不可能だ。だが……」

「あぁッ!!そうかッ!!そう言う事かよ、つまり治療にかこつけてって事か!!」

「もう少し説明したかったのだが……そうだ。そしておあつらえ向きにサクヤでは医療用ナノマシンを精製する施設と資材、駄目押しに且つての反乱時に山県令子が使用したナノマシンのサンプルデータまで揃ってイる」

「そうね。確かに彼女が使用しているナノマシンのデータを提出しました。特兵研を含む幾つかの研究機関と医療機関に……あの時は彼女が作るナノマシンを無効化するナノマシンを精製して貰ったんですけど、でもそれが裏切り者を炙り出す決め手になるとはね」

 全ての情報を纏め、俯瞰すれば自然と裏切者がサクヤにいるという絵図が浮かび上がる。誰も、端からソコからなどあり得ないと無意識的に除外していた場所。正に千載一遇だ。

「そうなると最初に接触した人物が犯人では?口振りから察するにたらい回しの末という訳ではなさそうですから。イクシィさん、知っていますか?」

『いいえ、直接交渉したタガミにしか分かりません。立て込んでいるようですので折り返し連絡させます』

「ありがとう」

 集められた情報から裏切者の正体に近づいた。しかも、もう少しでそこに手が届く位置にまでに。そう遠くない内にタガミから連絡があり、そうすれば整形用ナノマシンを依頼した相手が特定出来る。理由は不明だが、その何者かは最低でも2つの情報を流している。今回の計画、そして伊佐凪竜一の体内に隠されたツクヨミの摘出。半年前に死亡したと思われた山県大地が人型をしていなかったツクヨミの正体を看破出来た理由は、その情報を知っていたからだ。そうでなければ有り得ない。だが、それは詰まり伊佐凪竜一とルミナに関する情報が敵に筒抜けとなっている事実を意味する。

 秘密がある。この中の誰も知らない、いや知られてはならない秘密。私が心底心配しているのは彼らの肉体に関する重要な。幸いにも秘密を知るのは黒点観測部門だけで、更に幸いかな善意と好意からこの情報をサクヤにさえ隠している。が、この状況で何時まで持つか。アレは、もしアレが暴露されでもしたら破滅しかねない。更に運が悪い事に、今はソレを流す絶好の好機でもある。

 を知るにはまだ早すぎる。だから今の私には祈る事しか出来ない、どうか、せめて明日が終わるまでは、と。

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※231104 台詞の一部を修正しました。
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