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第6章 運命の時は近い
232話 私が内通者
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『結論から言わせて頂きたい。今朝のデモ行動は間違いなく誰かが扇動しています』
「信じても良イのだろうな?」
『勿論』
ルミナに先んじる形でヤハタと言葉を交わすタケルの視線は極めて厳しく、露骨なまでの不信を隠そうともしない。寧ろそう言った姿勢を見せることでヤハタを牽制している様子さえ感じ、事実タケルの言動をルミナも咎めない。理由がどうであれその為の行いは許容し難く、
「根拠を聞きたい」
『立場も境遇も様々な何人もの若者と接触して確認を取りましたが、全員が一様に口を揃えてこう言いました、"デモに参加するだけで金が貰える"と。この手の運動は世間に訴求する為に数を集めるのが最も効果的です。根拠が何も無かった訳ではありません。デモとは様々な団体が様々な思惑で合流し、各々が好き放題に叫ぶのは歴史が証明していて、だから決して1つの主張だけを声高に叫ぶ訳ではありません。なのに、今回に限り不気味なまでに主張が一貫していた。英雄を排除し、神を復活させろ、と』
「つまり、誰かが大多数の市民を思考を誘導する為に意図的にデモを起こしたと?」
『はい。金銭を口実に、特に困窮する若者に付け入り操っている何者かが存在するのは疑いようありません。本心から神の時代へ回帰する事を望まない、其処に利益を見出した何者かが存在する。これが実際に彼らと接触して辿り着いた結論です。1つ、資料を用意しました。これ程の規模です、例え足元を見たとしても報酬の総額は莫大。となれば相応以上の立場の人物が複数結託している筈。プールした資金をある程度自由に使える大企業重役クラス、あるいはストレートに富裕層。ソレを踏まえ、ここ2年の状況から怪しそうな人物をリストアップしました。役に立つか分かりませんが』
「感謝する」
『いえ、礼には及びません。では私は次の場所へ向かいます』
ヤハタはそう言うと監視役を伴い画面から姿を消し、ルミナ達も目的地に向け出発した。一連のやり取りは遡ること3時間前。まだ天が夜の闇に覆われる前、タガミからの連絡に一行が行先を決めた直後の事だ。
※※※
医療機関サクヤ――
「お待たせしました」
星が天一面を覆う夜空に女の声が静かに響いた。ルミナとタケルは一瞥すらせず、逆にコノハナは狼狽える。
「指名手配中に続いて誰が来たかと思えばその服、地球人……いえ、元清雅社員かしら?こんな事をしてどうなるか分からない程バカなの?」
声の主に向けた精一杯の悪態の先には白川水希の姿。ルミナとタケルだけではなく、何故か彼女も医療機関に同行したようだ。
「私はともかく、この2人が理由もなく馬鹿げた真似しませんよ。もしあなたが潔白で、嫌疑を晴らしたいと思うならば協力した方が賢明です」
「そんな、証拠なんてあると思うの!?それに疑うならアナタの方がッ!!」
コノハナは語気を荒げるが白川水希は動揺せず、それどころか"議論するつもりはない"とバッサリと切り捨て……
「貴女が担当した患者に使用したナノマシンに関する情報一切を見せて下さい。こう見えても私、ナノマシンに関してはある程度の知識があります。地球製を改造したとなれば尚の事。実は私もナノマシン調整を行っていましたので。だからそれがどんな用途で、どんな効果を引き起こすのか分かります」
そう重ねた。白川水希の堂々とした言にコノハナの表情から余裕が一気に消え、露骨な焦りの色が滲み出す。が、ブラフ。白川水希はそこまでの知識は持ち合わせていない。神魔戦役の際に主戦力として参加していたのだ、余計な知識を入れる余裕などある訳が無い。
しかしコノハナがその事実を知る筈もなく、またルミナとタケルが当然とばかりに無言を貫く姿勢が後押し、焦り始めた彼女の表情は更に崩れる。確かにコノハナが知り得る情報は相当に多いのだが、流石に地球人の一個人が持つ知見の範囲まで分かる筈もなく。嘘かも知れない。だがもし本当ならばと考える焦りが表出する。そんな様を見たルミナ達は彼女が裏切り者であると確信した。
「嘘よ。だってそんな話聞い……」
彼女はそう口走った。全てを言い終わっていないが恐らく、"聞いていない"とでも続くのだろう。が、それ以上を話せない。
「神魔戦役の実行犯である白川水希を含む清雅社員の情報は極めて厳重に管理され、開示請求に加え理由の審査から請求者の調査まで必須となる。そうしなければ命を狙われる可能性があるからな。故に並大抵の理由では閲覧する事が出来ず、また守秘義務も発生する」
うっかり、焦り、口を滑らせたコノハナにタケルが詰め寄る。彼の言葉通り、白川水希含めた神魔戦役における地球側の戦犯に関する情報一切は秘匿される。ソレは例外的に彼女でさえおいそれと調べることが出来ないほどに厳重なのだ。半年前の被害者側であり、間違って復讐などさせない為の措置に彼女は足を掬われた。
「医療機関が元清雅社員の情報を求めた理由は何だ?どう説明したのだ?誰から聞イたのだ?」
「それは、それは……」
タケルから畳みかけられたコノハナは言い淀む。もはや確定的だろうと、そう思える光景だった。激しい動揺に加え呼吸も荒くなり、虚ろな視点は冷淡に睨む3人の顔の間を交互に彷徨う。が、やがて大きな溜息を満天の星が輝く夜空に吐き出すと……
「そっか……ハァ、何か嫌な予感したのよね」
そう力なく呟きながらフラフラと近くのベンチに腰かけた。溜息と共に俯く彼女の視線は次に足元を泳ぎ、赤い髪がそれに釣られる様に揺れる。
「それは認めたと判断して良イか?」
「そう、そうね。アナタ達の想像通りよ……私が内通者、ココで知る情報は全部守護者に渡したわ。油断してたわけじゃないけど、でも良く分かったわね?」
「信じたくはなかった、あれ程私達の治療に献身的に尽くしてくれたのに、なのにどうして?」
コノハナをとても信頼していたルミナの顔は涙こそ流さないが悲壮に満ち満ちていて、そう語った彼女の視線もまた吸い寄せられるように地面へと向かった。伊佐凪竜一を除けば恐らくルミナの心に一番近づいたのは彼女だろう。それ程に誠実で、清廉で、献身的だった。
「恐らく、献身的な介護は自らを疑いの目から遠ざける為の演技でしょうね」
「答えて欲しイ、どうして守護者に情報を渡した?いや質問を変える。貴女と守護者の接点は何だ?」
「フフッ、聞きたい?逃げられないからよ」
表を上げたコノハナはタケルの問いに反応した。が、誰一人として意味を理解できず……
「その回答は情報を渡した理由か?何からだ?アナタはスサノヲが警護しているのだ。なのに、それでも尚、安全ではなイと言うのか?」
精神的動揺が大きいのか、黙って両者のやり取りを見守るルミナに代わりタケルが更に踏み込む。
「えぇ、そうよ」
「質問の回答になってイなイ。守護者との接点は?確かにアナタならば重要な情報を容易く手に入れられる。だが来艦したばかりの守護者達がソレを知るのは困難だ。何故守護者達はアナタに接触できたのだ?仲介役は誰だ?」
埒が明かないとタケルは質問を変える。諦めて素直に回答するかと思えば、しかし口から出る言葉は曖昧で要領を得ない。業を煮やしたタケルが強く詰め寄るが、対するコノハナの態度は相も変わらず。夕焼けの赤が消え黒い闇に浸食された夜空の如く、彼女の心は闇の中に落ち込んでいるようだ。まるで、絶望に支配されているような、そんな気がした。
「誰も彼も甘すぎるのよ。どうして旗艦が安全だと言えるの。無駄なのよ、何もかもが悪魔の如き神の掌の上なのよ」
やがて、彼女は絞り出すように呟いた。その表情を見れば恐怖から焦りを経て絶望へと至っている様な生気の無い顔色をしていた。私の予想が正しく、彼女の心の内はまるで今の空の様に暗く冷たい闇に侵食されている。だけどその理由が分からない。彼女は何に絶望しているのか、させられたのか。
「抽象的過ぎて具体性に欠ける、もっとはっきりと答え……」
「誰だッ!!」
タケルは淡々とコノハナに尋問を続けていたのだが、しかしその言葉を遮りルミナが叫んだ。私を含むその場の全員が突然の叫び声に声の方向を振り向けば、彼女は下ろした銃口を夜の闇の奥向けていた。
バンッ――
が、僅かに遅く。ルミナが夜の闇の向こうに何者かの気配を感じ取ったと同時、彼女が銃を構え引き金を引くよりも先に発砲音が鳴り響いた。闇の中にほんの一瞬、マズルフラッシュが浮かび、直ぐに消えた。まるで今の彼女達の現状を現わしている様に。闇に生まれた希望は、何らも照らさず瞬く間に闇の中へと消失した。
「信じても良イのだろうな?」
『勿論』
ルミナに先んじる形でヤハタと言葉を交わすタケルの視線は極めて厳しく、露骨なまでの不信を隠そうともしない。寧ろそう言った姿勢を見せることでヤハタを牽制している様子さえ感じ、事実タケルの言動をルミナも咎めない。理由がどうであれその為の行いは許容し難く、
「根拠を聞きたい」
『立場も境遇も様々な何人もの若者と接触して確認を取りましたが、全員が一様に口を揃えてこう言いました、"デモに参加するだけで金が貰える"と。この手の運動は世間に訴求する為に数を集めるのが最も効果的です。根拠が何も無かった訳ではありません。デモとは様々な団体が様々な思惑で合流し、各々が好き放題に叫ぶのは歴史が証明していて、だから決して1つの主張だけを声高に叫ぶ訳ではありません。なのに、今回に限り不気味なまでに主張が一貫していた。英雄を排除し、神を復活させろ、と』
「つまり、誰かが大多数の市民を思考を誘導する為に意図的にデモを起こしたと?」
『はい。金銭を口実に、特に困窮する若者に付け入り操っている何者かが存在するのは疑いようありません。本心から神の時代へ回帰する事を望まない、其処に利益を見出した何者かが存在する。これが実際に彼らと接触して辿り着いた結論です。1つ、資料を用意しました。これ程の規模です、例え足元を見たとしても報酬の総額は莫大。となれば相応以上の立場の人物が複数結託している筈。プールした資金をある程度自由に使える大企業重役クラス、あるいはストレートに富裕層。ソレを踏まえ、ここ2年の状況から怪しそうな人物をリストアップしました。役に立つか分かりませんが』
「感謝する」
『いえ、礼には及びません。では私は次の場所へ向かいます』
ヤハタはそう言うと監視役を伴い画面から姿を消し、ルミナ達も目的地に向け出発した。一連のやり取りは遡ること3時間前。まだ天が夜の闇に覆われる前、タガミからの連絡に一行が行先を決めた直後の事だ。
※※※
医療機関サクヤ――
「お待たせしました」
星が天一面を覆う夜空に女の声が静かに響いた。ルミナとタケルは一瞥すらせず、逆にコノハナは狼狽える。
「指名手配中に続いて誰が来たかと思えばその服、地球人……いえ、元清雅社員かしら?こんな事をしてどうなるか分からない程バカなの?」
声の主に向けた精一杯の悪態の先には白川水希の姿。ルミナとタケルだけではなく、何故か彼女も医療機関に同行したようだ。
「私はともかく、この2人が理由もなく馬鹿げた真似しませんよ。もしあなたが潔白で、嫌疑を晴らしたいと思うならば協力した方が賢明です」
「そんな、証拠なんてあると思うの!?それに疑うならアナタの方がッ!!」
コノハナは語気を荒げるが白川水希は動揺せず、それどころか"議論するつもりはない"とバッサリと切り捨て……
「貴女が担当した患者に使用したナノマシンに関する情報一切を見せて下さい。こう見えても私、ナノマシンに関してはある程度の知識があります。地球製を改造したとなれば尚の事。実は私もナノマシン調整を行っていましたので。だからそれがどんな用途で、どんな効果を引き起こすのか分かります」
そう重ねた。白川水希の堂々とした言にコノハナの表情から余裕が一気に消え、露骨な焦りの色が滲み出す。が、ブラフ。白川水希はそこまでの知識は持ち合わせていない。神魔戦役の際に主戦力として参加していたのだ、余計な知識を入れる余裕などある訳が無い。
しかしコノハナがその事実を知る筈もなく、またルミナとタケルが当然とばかりに無言を貫く姿勢が後押し、焦り始めた彼女の表情は更に崩れる。確かにコノハナが知り得る情報は相当に多いのだが、流石に地球人の一個人が持つ知見の範囲まで分かる筈もなく。嘘かも知れない。だがもし本当ならばと考える焦りが表出する。そんな様を見たルミナ達は彼女が裏切り者であると確信した。
「嘘よ。だってそんな話聞い……」
彼女はそう口走った。全てを言い終わっていないが恐らく、"聞いていない"とでも続くのだろう。が、それ以上を話せない。
「神魔戦役の実行犯である白川水希を含む清雅社員の情報は極めて厳重に管理され、開示請求に加え理由の審査から請求者の調査まで必須となる。そうしなければ命を狙われる可能性があるからな。故に並大抵の理由では閲覧する事が出来ず、また守秘義務も発生する」
うっかり、焦り、口を滑らせたコノハナにタケルが詰め寄る。彼の言葉通り、白川水希含めた神魔戦役における地球側の戦犯に関する情報一切は秘匿される。ソレは例外的に彼女でさえおいそれと調べることが出来ないほどに厳重なのだ。半年前の被害者側であり、間違って復讐などさせない為の措置に彼女は足を掬われた。
「医療機関が元清雅社員の情報を求めた理由は何だ?どう説明したのだ?誰から聞イたのだ?」
「それは、それは……」
タケルから畳みかけられたコノハナは言い淀む。もはや確定的だろうと、そう思える光景だった。激しい動揺に加え呼吸も荒くなり、虚ろな視点は冷淡に睨む3人の顔の間を交互に彷徨う。が、やがて大きな溜息を満天の星が輝く夜空に吐き出すと……
「そっか……ハァ、何か嫌な予感したのよね」
そう力なく呟きながらフラフラと近くのベンチに腰かけた。溜息と共に俯く彼女の視線は次に足元を泳ぎ、赤い髪がそれに釣られる様に揺れる。
「それは認めたと判断して良イか?」
「そう、そうね。アナタ達の想像通りよ……私が内通者、ココで知る情報は全部守護者に渡したわ。油断してたわけじゃないけど、でも良く分かったわね?」
「信じたくはなかった、あれ程私達の治療に献身的に尽くしてくれたのに、なのにどうして?」
コノハナをとても信頼していたルミナの顔は涙こそ流さないが悲壮に満ち満ちていて、そう語った彼女の視線もまた吸い寄せられるように地面へと向かった。伊佐凪竜一を除けば恐らくルミナの心に一番近づいたのは彼女だろう。それ程に誠実で、清廉で、献身的だった。
「恐らく、献身的な介護は自らを疑いの目から遠ざける為の演技でしょうね」
「答えて欲しイ、どうして守護者に情報を渡した?いや質問を変える。貴女と守護者の接点は何だ?」
「フフッ、聞きたい?逃げられないからよ」
表を上げたコノハナはタケルの問いに反応した。が、誰一人として意味を理解できず……
「その回答は情報を渡した理由か?何からだ?アナタはスサノヲが警護しているのだ。なのに、それでも尚、安全ではなイと言うのか?」
精神的動揺が大きいのか、黙って両者のやり取りを見守るルミナに代わりタケルが更に踏み込む。
「えぇ、そうよ」
「質問の回答になってイなイ。守護者との接点は?確かにアナタならば重要な情報を容易く手に入れられる。だが来艦したばかりの守護者達がソレを知るのは困難だ。何故守護者達はアナタに接触できたのだ?仲介役は誰だ?」
埒が明かないとタケルは質問を変える。諦めて素直に回答するかと思えば、しかし口から出る言葉は曖昧で要領を得ない。業を煮やしたタケルが強く詰め寄るが、対するコノハナの態度は相も変わらず。夕焼けの赤が消え黒い闇に浸食された夜空の如く、彼女の心は闇の中に落ち込んでいるようだ。まるで、絶望に支配されているような、そんな気がした。
「誰も彼も甘すぎるのよ。どうして旗艦が安全だと言えるの。無駄なのよ、何もかもが悪魔の如き神の掌の上なのよ」
やがて、彼女は絞り出すように呟いた。その表情を見れば恐怖から焦りを経て絶望へと至っている様な生気の無い顔色をしていた。私の予想が正しく、彼女の心の内はまるで今の空の様に暗く冷たい闇に侵食されている。だけどその理由が分からない。彼女は何に絶望しているのか、させられたのか。
「抽象的過ぎて具体性に欠ける、もっとはっきりと答え……」
「誰だッ!!」
タケルは淡々とコノハナに尋問を続けていたのだが、しかしその言葉を遮りルミナが叫んだ。私を含むその場の全員が突然の叫び声に声の方向を振り向けば、彼女は下ろした銃口を夜の闇の奥向けていた。
バンッ――
が、僅かに遅く。ルミナが夜の闇の向こうに何者かの気配を感じ取ったと同時、彼女が銃を構え引き金を引くよりも先に発砲音が鳴り響いた。闇の中にほんの一瞬、マズルフラッシュが浮かび、直ぐに消えた。まるで今の彼女達の現状を現わしている様に。闇に生まれた希望は、何らも照らさず瞬く間に闇の中へと消失した。
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