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第8章 運命の時 呪いの儀式

7章までのあらすじ

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 半年前。後に「神魔戦役」(※1)と呼ばれる戦いを終焉に導き、英雄と呼ばれる様になったのが本作の主人公2人「伊佐凪竜一」と「ルミナ=AZ1」。

 新年を僅か先に控えた冬の決戦から半年ほど経過した翌年6月下旬。地球近傍に停泊する旗艦アマテラスで治療と訓練を並行していた伊佐凪竜一が久方ぶりに地球の土を踏んだその時、地球に一筋の流星が落下する。

 流星の正体は「大雷」と呼ばれる可変型の機体、搭乗していたのは連合の頂点、「運命傅く幸運の星」という未知の能力を用いてカガセオ連合という旗艦アマテラスも所属する銀河連合を纏める「フォルトゥナ=デウス・マキナ」。

 少女と共に惑星を跨いだ逃避行を続ける最中、何度も受ける不可解な襲撃に不穏な空気を感じ取った伊佐凪竜一だったが、逃避行の最期にフォルトゥナ姫から拒絶される形で1人地球に取り残された。しかし、それでも少女を救う事を諦めない彼は伝手を頼り、地球唯一の宇宙空港から旗艦アマテラスへと戻ったが、直後に遭遇した「守護者」の総代「アイアース」と交戦、疲労を差し引いてもなお圧倒する実力の前に敗北を喫する。

 もう1人の英雄ルミナにも受難が訪れる。守護者の横暴によりフォルトゥナ姫誘拐犯に仕立て上げられた伊佐凪竜一の捕縛を命じられた彼女は、余りにも強引な命令への違和感から独自に行動を起こした。しかし目論見は守護者側に露見、苦境へと立たされる。

 苦難は尚も続く。艦長職を罷免された直後に謎の敵から襲撃を受け、更に市民からも見放されていると知る。敵襲から逃げ続けた彼女が最後に頼ったのは実の祖母、「ザルヴァートル財団」現総帥「アクィラ=ザルヴァートル」。しかし、長い長い空白を経て漸く心を通わせた直後、彼女の目の前で祖母は殺害され、あろうことかその罪を擦りつけられた。
 
 逃走の末に仲間達と合流したルミナは、重犯罪者拘束施設「黄泉」に幽閉された伊佐凪竜一の救出作戦に加わる。「婚姻の儀」で起こる何かに対抗する為、かつての敵であった白川水希に惑星ファイヤーウッドからの助っ人アックスと共に作戦を決行するが、計画は漏洩していた。待ち伏せていた守護者達により伊佐凪竜一は1人で旗艦アマテラスの逃走を余儀なくされた。

 帰還途中、ザルヴァートル財団最高戦力「セラフ」と戦闘となったルミナだが、その様子が恣意的に報道された事で旗艦内での支持を完全に失った。苦境に立たされ続ける彼女は計画を漏洩した裏切者を探す事を優先、且つての主治医だったコノハナと断定した。が、自白を引き出した直後に口封じされた挙句、またしてもその罪を着せられた。
 
 7章~

 伊佐凪竜一は旗艦内を逃走する中で様々な事実を知る。リコリス=ラジアータと名乗る女から"幸運の星"を宿す姫が抱える苦悩を、クシナダからは星の脆弱性と姫の命が狙われているという事実を。先々で襲撃され続けようが、それでも彼は諦めずクシナダと共に運命の時まで逃げ続ける。

 もう1人の英雄、ルミナの苦難も終わらない。殺人犯の汚名を着せられ旗艦を逃げ回る彼女も襲撃される。襲撃犯は半年前の戦いで死亡したと思われていた地球人、伊佐凪に殺された筈の男。知る者が殆どいない筈の隠れ家を狙われた彼女は襲撃を退けると再び当て所ない逃亡へと身を投げた。

 そのルミナを補佐するタケルは別行動中、不審な人の動きを調査する為に第76観光区域へと赴く。しかし罠だった。彼と共に幾人かの助っ人が同区域に参じたものの、結果として市民は虐殺された挙句に広域殲滅破壊兵器を落とされ消息不明となる。

 何もかもが敵の掌の上。事態が好転しないまま、遂に夜が明ける。


 ※※※

 (※1)神魔戦役:物語開始より約半年前、地球と宇宙|(旗艦アマテラス)で起きた戦い。

 全ては現在時間より遡る事500年前、一隻の宇宙船が現在の日本のG県と呼ばれる地域に落着した出来事に端を発する。戦いを仕掛けたのは旗艦アマテラス側。その理由は、表向き500年前に宇宙船と共に地球へと辿り着いたツクヨミという最新鋭の式守シキガミ|(※人造人間)の介入により、地球の通信技術だけが異常に突出する歪な現状を看過できないというもの。

 行方が分からなかったツクヨミの居場所をどうやって特定したのか、何故奪おうとするのか、真っ当な理由の裏に疑惑の影を感じる者がいたが、当時旗艦アマテラスを実効支配していたアラハバキは強引に地球との戦端を開いた。

 一方、ツクヨミを擁する地球最大の超巨大企業「清雅セイガ」は旗艦アマテラス側の指示である「ツクヨミの返還」と「通信技術の廃棄、ないし劣化品による代替」を許容できず、様々な奸計を巡らせた末に地球全体を巻き込む形で旗艦アマテラスと戦う事を決断した。

 両者の激突は圧倒的な文明の差を理由に旗艦アマテラス側の一方的な勝利になると誰もが予想した。しかし、予想に反し清雅側が終始優勢を維持した。この日の為にあらゆる準備と犠牲を惜しまなかった清雅が開発した地球にのみ存在する未知の粒子「ホムラ」をエネルギー源とする清雅の兵器は凄まじく、驕りと油断に塗れた旗艦側は敗北間際まで追い込まれた。

 ところが勝利を確信するや清雅の動きに大きな変化が生まれた。清雅の神たるツクヨミが立案した計画に沿う形で進行していた戦いの最終目的は停戦交渉。が、清雅は突如として地球と旗艦の双方に牙を剥いた。

 神の意に背いてまで戦いの継続を願ったのは清雅一族の長、「清雅源蔵」。男の願いはツクヨミを故郷である宇宙に帰し、同時に地球を見捨てる事。神の為に神の命に背く男の指示を受けた清雅は戦いを継続する中、戦禍の拡大を止める為に行動を起こしたのが、伊佐凪竜一と彼の手助けを受けながら清雅のお膝元であるG県を逃げ回っていたルミナ=AZ1。しかし清雅源蔵の圧倒的な力のに敗北、瀕死の重傷を負う。

 唯一の懸念を排除した清雅源蔵は止まらず、敬愛する神の声を無視する形で最後の切り札「オロチ」を起動する。最早誰にもこの現実を覆せず、敗北が生む絶望が全てを覆い尽くそうとしたその時、奇跡が発現する。

 瀕死となった伊佐凪竜一とルミナが覚醒した。闇の底からの声により「ホムラ」の真の姿と呼び名、ツクヨミと共に極秘裏に移送されていた神代三剣の一振り「ハバキリ」の力を解放、その身に宿した2人は誰一人として止められなかった清雅源蔵の前に立ちはだかる。

 暴走した清雅源蔵の意志を反映するかの如く、街も、人も、全てを分解吸収しながら肥大を続ける切り札を眺める以外に何もできない地球と旗艦が見守る中、英雄は命と引き換えに清雅源蔵を討ち、戦いを終結させた。
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