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本編
第五話(修正済み) どうして私?
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「ごめんね。こんなことになっちゃってさ」
アベル公爵は私をバルコニーに連れ出すと、開口一番にそう言った。
夜の風が頬を撫でる。公爵の片方の目にかかっていた髪が揺れ、黒い瞳が顕になる。珍しくも美しいその瞳は月の影を映して、まるで黒い宝石のようで、私の目は奪われる。
「えぇ……まぁ……私を庇って下さったんですよね。優しいですね、公爵は」
「うんまぁそれもあるけど……君を妻に迎え入れたいのは本心だよ」
「へ?」
突然のことに思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
――公爵が私を?
アベル公爵はこの国でもきっての美形で、平民貴族問わず誰に対しても基本的には温厚で、優しい人柄から女性からの人気は高い。噂では異国の姫君や令嬢からも縁談の話が来ているという程だ。
――そんな彼がどうして私に?
「どうして私なんですか……? 私じゃなくても、公爵なら他にお相手なんていくらでも……」
「えっと、自分で言うのも変だけど僕を慕ってくれる女性は少なくない。けれども、彼女達の思いに答えるには僕は力不足だった。かといって立場が立場だから独り身で居ることも許されなかった。だから、婚約者のいない手頃な令嬢を探していたんだ――僕を慕っていない令嬢をね」
そう言ってアベル公爵はニヒルに笑った。別に私に惹かれたのだと言ってもらえると思っていたわけではない。そこまで自惚れてはいなかった。
アベル公爵の物言いは傍から見れば酷く傲慢だろう。自分が美しく、自分に恋焦がれる相手が多くいる事を理解して、その上でその相手を選ばない、というのだから。
それでも、私には彼が傲慢には見えなかった。彼の瞳は光とともに影を映していた。
それは、幸せを感じながらも今の生活に疲れ切っているようで、少し既視感を感じた。似ているんだ、鏡で見る私の目に。
「それで、私が適任という訳ですか……」
「うん。君は特段僕のことを――というより、誰のことも慕っていないように思える。君なら僕のお飾りの妻に相応しいと思う。もちろん、君が嫌なら無理強いはしないよ。適当な理由を付けて君との話はなかったことにしよう」
誰のことも、か。否定する言葉が見つからなかった。私はアランのことを愛していなかった。かと言って他に慕っている殿方がいた訳でもない。家族だって好きではなかった。どうやら私は他人のことに無頓着らしい。新しい私の発見だ。
「そのお話、お受けしたいのですが――条件があります」
「ふむ……何かな? 僕に叶えられる範囲なら何だってするよ」
私は無礼を承知で切り出したが思ったより好感触だった。せめてアランと家族に意趣返しはさせてもらおう。
「それは――」
私はアベル公爵ににっこりと微笑みながら話した。
アベル公爵は私をバルコニーに連れ出すと、開口一番にそう言った。
夜の風が頬を撫でる。公爵の片方の目にかかっていた髪が揺れ、黒い瞳が顕になる。珍しくも美しいその瞳は月の影を映して、まるで黒い宝石のようで、私の目は奪われる。
「えぇ……まぁ……私を庇って下さったんですよね。優しいですね、公爵は」
「うんまぁそれもあるけど……君を妻に迎え入れたいのは本心だよ」
「へ?」
突然のことに思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
――公爵が私を?
アベル公爵はこの国でもきっての美形で、平民貴族問わず誰に対しても基本的には温厚で、優しい人柄から女性からの人気は高い。噂では異国の姫君や令嬢からも縁談の話が来ているという程だ。
――そんな彼がどうして私に?
「どうして私なんですか……? 私じゃなくても、公爵なら他にお相手なんていくらでも……」
「えっと、自分で言うのも変だけど僕を慕ってくれる女性は少なくない。けれども、彼女達の思いに答えるには僕は力不足だった。かといって立場が立場だから独り身で居ることも許されなかった。だから、婚約者のいない手頃な令嬢を探していたんだ――僕を慕っていない令嬢をね」
そう言ってアベル公爵はニヒルに笑った。別に私に惹かれたのだと言ってもらえると思っていたわけではない。そこまで自惚れてはいなかった。
アベル公爵の物言いは傍から見れば酷く傲慢だろう。自分が美しく、自分に恋焦がれる相手が多くいる事を理解して、その上でその相手を選ばない、というのだから。
それでも、私には彼が傲慢には見えなかった。彼の瞳は光とともに影を映していた。
それは、幸せを感じながらも今の生活に疲れ切っているようで、少し既視感を感じた。似ているんだ、鏡で見る私の目に。
「それで、私が適任という訳ですか……」
「うん。君は特段僕のことを――というより、誰のことも慕っていないように思える。君なら僕のお飾りの妻に相応しいと思う。もちろん、君が嫌なら無理強いはしないよ。適当な理由を付けて君との話はなかったことにしよう」
誰のことも、か。否定する言葉が見つからなかった。私はアランのことを愛していなかった。かと言って他に慕っている殿方がいた訳でもない。家族だって好きではなかった。どうやら私は他人のことに無頓着らしい。新しい私の発見だ。
「そのお話、お受けしたいのですが――条件があります」
「ふむ……何かな? 僕に叶えられる範囲なら何だってするよ」
私は無礼を承知で切り出したが思ったより好感触だった。せめてアランと家族に意趣返しはさせてもらおう。
「それは――」
私はアベル公爵ににっこりと微笑みながら話した。
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