上 下
169 / 187
失い得るもの

しおりを挟む
 自分でも頭では分かっていたことだった。
 けれど改めてアキラの口から聞かされることによって、ユウトは急激に心が軽くなるのを感じた。 

「うん、そうだった。俺は今日ここへ、お前を『女』にする為に来たんだよな……もう大丈夫だ、ありがとうアキラ」

 その言葉と笑顔に、アキラもほっと胸をなで下ろした。

 自分を見つめるユウトの瞳。
 そこにアキラは、先程とは違う『女』の姿をした自分を見た。

 これから自分は、何があってもこの姿で生きていかなければならない。
 それがユウトと生きていく上での、自分に課した条件。

 ふと、アキラの顔から笑みが消えた。

「どうした……?」

「ねえユウト……女になる前に、オレの弱音も聞いてくれる?」

「当たり前だ、もちろん聞くよ」

 すると唐突に、アキラはユウトの胸へぎゅっと顔を埋めてきた。
 その身体は、カタカタと小刻みに震えている。

「オレ、本当はすごく怖い……不安で仕方がないんだよ。だって『女』は弱い……嫌と言う程自覚させられた」

『女』になってからの、これまで自分に起こった様々な出来事。
 それを思い出す度に身震いが止まらない。
 こんな世の中で『女』であることを選ぶのは、危険極まりない行為だと言えるのかもしれない。

 それでも、アキラにとってユウトは自分の全てだった。
 ユウトがいなければ、決して選ぶことの無かった選択だ。

「でも……この先の世界がどんな暗闇の中だとしても、ユウトさえ傍にいてくれればそれでいい。それだけでオレは、きっと迷わないし何も怖くないって……だから――」

 そんな言葉を遮って、ユウトはたまらずにアキラを抱き締めた。

「俺がお前を守る。絶対に迷わせない。だから、これから先も二人で……ずっと一緒にいよう、アキラ」

 真っ直ぐな態度で語ったユウトの台詞に、アキラの顔は真っ赤になった。
 そんなアキラの胸の高鳴りは、ユウトにも伝わっていた。

 ま、守るとかって恥ずかしすぎる……
 だって、これじゃあまるで……

「なにそれ、プロポーズみたいじゃん……」

 アキラはもごもごと口ごもるように言った。

「ん? 何だって?」

「っ……だ、だから、今のって何かちょっと……プ、プロポーズみたいだったかも……て」

 ユウトは一瞬キョトンとしたが、

「ああ……そっか。そうかもな」 
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

貴方色に染まる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:682

甘い婚約~王子様は婚約者を甘やかしたい~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,057pt お気に入り:392

国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:911

殿下、毒殺はお断りいたします

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:159

【完結】聖女の罠で処刑寸前の悪女を助けて溺愛する

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:290

処理中です...