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「お別れなんだ、話したいこと、話し足りないこともあるだろう。少し時間を与えるから伝えたいことがあるなら今のうちだよ」

 黒服の男は椅子から腰を上げると後ろを向きました。
 少年は少女の両肩を優しく掴むと、しっかりと少女の目をみて言いました。

「少しのお別れだけど、必ず迎えに行くからそれまで待っていてほしい」

「お別れ……? 私、お兄ちゃんとお別れするの?」

「うん、ほんの少しだけ。だから待っていてくれないか?」

「うん、わかった。……待ってる」

 2人はお互いに少し言葉を交わしたあと、少年は男に言いました。

「儀式について教えてほしい」

「儀式について……ね。いいよ、教えよう。その儀式とは…… 『オオカミ退治』のことだよ」

「オオカミ…たいじ……」

「そう、オオカミ退治。君も両親、祖父母から一度は聞いたことあるだろう? キミが住んでいるこの街にはオオカミが出るんだ。夏の終わりの夜に。だから夜は森に入ってはいけない。夜に外に出るとオオカミに食べられるぞ、ってね」

 男は続けて言いました。

「もしかして、キミはそれを知っていて、今日森へ入ったのかい? そしてキミたちが初めて出会ったあの場所で星をみた、と?」

「サナに綺麗な星を見せてあげたくて……」

 少年はこくりと頷きました。

「そうか……よかったね~オオカミに出会わなくて。出会ってたら、バクッと食べられて身体をぐちゃぐちゃにされてたかもね~」

 男の言葉に2人は震えました。

「そこで星姫様のご登場だ。夏の夜に降る流れ星に星姫様が願い事をする。そして自らの肉体をオオカミに捧げることで、オオカミは人間を襲わずに眠りにつく。そうやって毎年オオカミを抑えてきたんだ。これがとても重要なことなのは理解できるかな」

「じ、じゃあ、儀式をしたらもうサナと一生会えないってこと?」

「そういうことになるね」

「イヤだ。絶対イヤだ!」

「なら、キミにできることは一つ。自分でオオカミを退治することだ」

「っ…………」

「とにかくそういうことだから、星姫様は連れて行くよ。……あ、そうそう。儀式は明日の夜、キミ達がさっきまで星空を見ていたあの場所で行われるから。楽しみにしているよ、少年」

 この言葉を残して、星の使徒はサナを連れてどこかへ行ってしまいました。
 少年とってこの日の夜はとても短く感じました。
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