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第六章 【二つの世界】
6-24 剣技
しおりを挟む「貴様……なぜ俺のことを……」
ステイビルは口元を布で隠し、フードをかぶってその姿を悟られないようにしていた。
この暴漢たちに襲われた時、決して名を言わぬようにソイに命じていた。
だが、相手は既に襲撃している相手を”ステイビル”と認識している状態で襲ってきていたのだ。
「へへへ。アンタが誰だろうとしったこっちゃないんでね、こっちは。頼まれた仕事はきっちりと……ってね。恨むんなら俺以外の奴を恨むんだな!」
「……誰かに頼まれたのか?」
「そんなこと話すわけねーだろ?聞けばあんたは、もう王子様でも何でもないんだってな……でも一般人より金を持っているってことで、それをいただきに来たってわけだな」
「なるほどな……お前も金と欲に騙された者の一人か……ならば、その覚悟はできているようだな」
そういうと、ステイビルは剣を両手で持ち剣先を下にして構える。
ステイビルを中心とした、周りの温度が下がっていく感覚を感じる。
少なくとも対峙していたボスらしき男は、ステイビルの圧力と視線によってそう感じていた。
(や……やばい!?これは今までの獲物とは……違う!?)
「……どうした、ようやく自分の行動の愚かさを心で理解したようだな。今までお前たちが奪った命の数々に対し、それを詫びる必要はない。その者たちと同じように、初めて知る”恐怖”の中で息絶えるがいい」
ボスの視界から、ステイビルは姿を消したように見えた。
――ボテ
その隣で、何か重いものが床に落ちる音がした。
男はその方向に顔を向けると、剣を構えたままの部下の首が胴体から離れていた。
男は今まで部下の者がやられても、なんとも思わなかった。
最悪、自分の盾のような存在だと認識していた。
だが、この部下は恐怖の対象となった。
今までは、やられたとしても剣や矢で突き刺されたり、剣や斧で切られて血が止まらずに死んでいくことがほとんどだった。
部下の者たちも、少しは自分の命を守るために自信のある武器を使っている。
実力差があったとしてもほんの僅かであり、大抵は数で押し切ればどんなものにも命まで奪われることはなかった。
ボスの男が恐怖を感じる中、ステイビルは次々と部下を切り付けていく。
その剣を振るうたびに、身体の一部……中には胴体が腰から半分に切り落とされている者もいた。
肋骨や大腿骨など骨によって守られている部分ではなく、膝、膝や腰など関節の間を全て切り落としていった。
ステイビルの剣は、それでも刃こぼれや人の組織によって切れ味が落ちることなく切り付けていった。
ボスは身体の一部が地面に落ちる音がする度そちらの方へ顔を向けるが、そこには既にステイビルの姿は見えない。
そして最後の一人を切り落とした後、ボスは後ろ側に人の気配を感じた。
その首元には、あんなに切りつけた後でも冷たい刃が垂直に当てられていた。
「さて……何か言いたいことがあるなら最後に聞いてやってもいいが?」
「な……なんでも話す!?だ……だから命だけは!?」
――チ
ステイビルはほんの僅かだけ剣を横にずらした、その後には一筋の赤い血がにじみ出て流れていく。
「まずはお前の話しの”内容”次第だな。言いたいことがあるなら一度だけ許可する……話せ」
ボスは”一度だけ”という言葉を聞き、これは誤魔化したり駆け引きに持ち込んだりできない状況だと判断した。
「い、言うとも!……あなたを襲うように頼んだ奴は……!?」
男の言葉はそこで止まり、その続きが語られることはなかった。
男の額には、直径一センチほどの鉄の矢が刺さっていた。
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