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第六章 【二つの世界】
6-64 モイスとキャスメル
しおりを挟む最初は見張り台のような者でしか認識できなかった、雲と同化した点のような存在。
警告によって広場に警備兵たちが集まり、そのような能力を持たない者でもその存在が確認できるようになってきた。
当然、町の中の民らもその姿を見つけ始め、いつもの町が一変する。
その反応は様々で、その存在が信じられずに否定する者、今まで見たことのない巨大なシルエットに恐れる者、自らが祈りを捧げている対象の神が降臨し、祈り喜ぶ者などの姿が見られる。
そして町の中に大きな影が、羽を広げたまま滑るように通り過ぎていく。
モイスは王宮の上空まで到達すると二度三度、城の敷地上を旋回する。
広い中庭には多くの人が集まっているのが見え、ほとんどの者が片膝を付いて頭を下げている。
ただ一人を除いて……
モイスは羽を羽ばたかせながら、ゆっくりと垂直に下降していく。
羽は羽ばたかせているが風は巻き起こらず、周囲や到着を待つ者たちには何の被害もない。
そして地面に足を付けると、モイスは大きな羽をたたんで首を曲げて上から人間たちを見下ろした。
多くの人間は頭を下げているが、その先頭にいる一人の人間。
その者は威厳を保ちつつ、モイスに敬意を払いながらゆっくりとモイスの傍に歩み寄ってきた。
「これは、モイス様……本日はいかがなされましたでしょうか?」
『お前は……キャスメルだったか』
「わたくし如きの名前を覚えていただきありがとうございます……モイス様。して、今日はどのようなことでこちらまでわざわざこちらまでお越しになられたのですか?」
モイスは、キャスメルの言葉使いに対し少しだけ引っ掛かる感覚があった。
言葉では遜ってはいるが、その態度からは全くその言葉通りの感情は受け取れなかった。
今までの出会った王の中でも、このキャスメルは癖が強いとモイスは判断した。
『……ここに来た理由が聞きたいのだったか?』
モイスはとぼけて、キャスメルの言葉に返す。
だが相手も、その言葉に対して何の感情も動かさずに平然とした態度をとり続けていた。
それに対してモイスも、自分の立場が上だということを知らしめるため、その行動に対して何の反応を示さずに言葉だけ返す。
『フン……今日はお前たちに伝えたいことがあり、わざわざ来てやったのだ』
「おぉ!?それはありがとうございます!……して、どのようなお言葉を私どもに頂戴できるのでしょうか?」
その言葉に、当然ながらモイスという巨大な存在から叡智を授かるという感情は全く感じられない。
むしろ、見下している気配が先ほどよりも強くなってきている気すら感じられる。
そのことを不快に思いながら、モイスは用意していた内容をキャスメルに告げる。
『これよりワシは、グラキース山に住むドワーフとエルフの味方をする……それと』
「……それと?」
モイスの内容を聞いても、キャスメルの表情は変わらない。
だが、少しだけ声の色が変わったことをモイスは見逃さなかった。
『それと……お前の兄弟であるステイビルにも力を貸すと決めたぞ』
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