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第六章 【二つの世界】
6-112 離脱
しおりを挟むルーシーは自分の身体が地面に打ち付けられ、今までに体験したことのないであろう痛みに対して息を止めて身構えた。
ルーシーの意識はいま、真っ暗な闇の中に沈んでいる。
人間本来の防御本能が働いたため、ルーシーは気を失い世界から全ての感覚を切り離された。
――どのくらいの時間が経ったのだろうか
ルーシーの脳が再び活動を初め、この世界の感覚を拾い始めた。
現時点でこの身体に痛みはなく、フワフワとした浮いた感覚が伝わってくる。
そのことからルーシーは、ここは”人が終わりを迎えた場所”ではないかという判断にたどり着いた。
身体を強く打ち付けたことによる痛みを感じることがなかったのは幸運だったと思った瞬間……その浮遊した感覚は終りを迎える。
ルーシーの身体は、再び重力に抗うことができずに落ち始めた。
「――!?」
ルーシーは驚きのあまり閉じていた目を開くと、そこには青い空が入ってきた。
建物などの障害物などなく、ただ青い空がそこに広がっていた。
(……そ、ら?)
――ドン!
そのタイミングで予想しなかった、衝撃が背中に走る。
背中から伝わる感覚から推測するに、それは何か鱗のような硬いものが背中にぶつかってきたのだと判断した……すぐさまその判断を否定する。
(いや、空中でぶつかるものなどあるはずがない……)
ルーシーは視線を横に向けると、脇に翼が広がりそこに風を受けて被膜が揺らぎながら空を滑空している。
それでも、その速度によって生じている風は一切感じていない。
それはきっと、見覚えのある存在の力によって守られているからだと気付いた。
「……大丈夫かい?ルーシー」
「あ、サヤ……さま」
「……ルーシー!!」
無事であるルーシーの姿を確認して、フランムがパートナーの胸の中に飛び込んだ。
「フランム……まさか、あなたが?」
サヤは、フランムが何かを告げるよりも先に、ルーシーに言葉を告げる。
「そうなんだけど、とりあえず帰ろうか?そこからゆっくり話をした方がいいと思うよ」
「はい、お願いします」
ルーシーはもう一度自分のパートナーに再開できた喜びを噛み締めながら、頭の奥から湧き上がる不安を抑え込むようにしていた。
兵士たちのざわめきは、ルーシーが姿を消した今も収まらない。
ルーシーが窓から飛び降りた落下地点であった現場で、何が起きたのかを検証していた。
その様子を見ていない隊長の声は、その者たちが口をそろえて告げる内容がどうしても信じがたかった。
その様子を見ていた者たちは口をそろえて言う、”ルーシーが空に引き上げられていった”のだと。
その直後、モイスが上空を通過し、ルーシーはその姿を消した。
「……くっ、大竜神はそのような力まで持っているというのか!?」
隊長は今更ながら敵対宣言をされた相手の恐ろしさを奥歯でギリギリと噛みしめていた。
横から心配した部下が、隊長に声をかける。
「隊長……」
「ん?……あぁ、何でもない。わかった、このことは王に報告しよう。ルーシーを取り押さえるように言われたのは、キャスメル王だからな」
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