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第六章 【二つの世界】
6-123 嘘
しおりを挟む「……ルーシー、支度をしなさい。王都に戻ります」
その言葉を聞いた父親の顔は、ほんの数日間だったがこの村で優しく接してもらったときの安らかな目ではなく王都にいるときのギトギトとした欲にまみれた目に戻っていた。、
「ど……どうしてですか!?戻ってしまったら、我々はキャスメル様から……!?」
「大丈夫だ、その心配はない。こうして使者の方を送っていただけたのだからな」
父親の後ろに立つ人物が、ルーシーに対して頭を下げて挨拶をする。
再び顔を上げると、作り笑顔でルーシーに声をかけた。
「そうですよ……ルーシー様。私はあなた方をお迎えに参りました、もちろんキャスメル王の命令です」
「あ、もしかして……あなたが”ソイ”?」
「おや?私のことをご存じとは……これはこれは光栄ですな。”元”王宮精霊使い長のルーシー様にまで知られているとは」
「”元”?……どういうこと?」
ルーシーは、なんとなく判っていた。
いまとなってはルーシーは、王国を裏切った身で裏切者の身分である。
その者が国の重要な役目を任される地位に、いつまでもいられるはずがないことを。
それでもルーシーはそのことが事実であることを聞かなければならないと判断した。
近年、セイラム家が豊かな生活を送れていたのは、ルーシーが王選の精霊使いに選ばれ、さらには精霊使い長まで任命されていたから。
その任が解かれてしまった場合、例え王国に戻ったとしても今までのような生活は遅れない可能性が充分にある。
それどころか、戻った後には見せしめに辛い目に合わされることも……
ルーシーのその問い掛けに対して、答えが返ってきたのはソイではなく父親の方だった。
「お前も判っているだろうが、お前は王国を裏切ったのだ。だが、キャスメル王はお前が亜人たちやこの村の住人、サヤやハルナなどから”脅されて”このような行動をとったのだろうと言って下さったのだ!……あぁ、本当にお優しい方だ。もちろんやってしまったことの罪は取り消すことはできん……お前は国を守る王宮精霊使い長だったのだ……だが、その任が解けたとしても、今までの功績を称えてくださり、王宮精霊使いとしての籍を用意してくださったのだぞ!これ以上の恩赦はあるまいぞ、さぁ急いで支度をするのだ、我々はもう準備は整っておる!」
「お待ちください……お父様。ソイ……アナタに一つ、聞いておきたいことがあります」
「なんでしょう、ルーシー様?」
「我々が王国に戻った後……この村に手を出さないと誓ってくれますか?」
「え?……あぁ、もちろんですよ。大丈夫です、お約束しましょう」
ルーシーはその言葉を聞き、しばし目を閉じて深呼吸をした。
「それでは、そろそろ移動する準備をしていただきませんと……この村の者たちに気付かれてしまいますので」
「お父様……」
「なんだ、ルーシー?急いでいるのだ、早くしなさい!」
「……”逆さ貼り付け”になる覚悟はおありですか?」
「……な!?なにを……」
驚く父親の声に、ルーシーは冷たい声でその先の言葉を遮った。
「ソイ、あなたは嘘を付いていわね。私の精霊が、この村の周囲に火薬が入った袋が隠されているのを見つけたわ。あなたはこの村を焼き払うつもりね」
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