王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。(完結)

薄明 喰

文字の大きさ
105 / 422
第2章

まさかの出会い

しおりを挟む
僕がクラスメイトから命を狙われて半年。


学園に入学してからのあれこれの騒ぎが嘘のように穏やかな学生生活を送っている。


ヤックルが奥さんの領地に行ってしまってから、お家で行っていた剣術の訓練をヨハネスにお願いしている。
訓練ではヨハネスも木刀を握って僕に教えないといけない為、始めは『守護対象に刃を向けるなど…』と渋っていたけれど、渋っていたくせに指導は割とスパルタだった。

ヤックルほどではないし、適度に休憩も与えてくれるが訓練中はどんどん駄目だしをされて容赦なく僕を負かしてくる。



自分の弱点を知ることができるので、それでいいのだけど偶には僕にも勝つ喜びを感じさせてくれてもいいと思う。






魔法の方ではノヴァがあの悪鬼事件のことで再び忙しくなってしまったので、月いちでオリヴァーに重力魔法をより扱えるように訓練をつけてもらっている。

他の魔法については、剣術ほど訓練をつける必要がないとのとーさまの判断で学校で習う範囲で十分なのだそうだ。





そんな風に恵まれた環境下でのんびりと成長していた僕は今、非常に困っている。


今日は体の基礎体力を付けるために学校の裏にある勇竜ゆうりゅうの寝床と呼ばれる山の中を走り回っていた。

テトラ君と一緒に走っていたのだけど、不意に気になる声が頭に響いてテトラ君に先に行くように告げて道を声の導く方へ外れてみた。




そこで出会ったのがまさかの怪我を負った真っ黒なドラゴン。


まだ子供なのか体の大きさはそこまで大きくはなかった。

といっても僕よりも大分でかいのだけど。





「ルナイス様。」

シュタッと近くに現れたコルダにほっと息を吐き出してとりあえずポーションを貰う。

ポーションをもってドラゴンに近づこうとするとコルダに止められ、ドラゴンはグルっと牙をチラつかせてきた。





弱っているとは言え相手はドラゴン。

しっぽでバシンとされただけで僕の内蔵は破裂して死んでしまう。


それにしても声が聞こえるからって何の迷いもなく此処に来たけど、声の正体はこのドラゴンだろうか?
耳から聞こえたっていうよりも頭の中に響いてきた感覚だった…。




「…コルダ。僕が此処にくるまでに何か聞こえたりした?」


「いいえ。なにも。」



もしかしてぇっと思ってコルダに尋ねれば、やっぱり首を横に振られた。


テトラ君も聞こえてない感じだったし…もし聞こえる人間に条件があるのなら、これはあまり知られない方がいいことな気がする。



コルダには言っても大丈夫だと思うけど、そこはこれからの僕の言動を見て察してくれるのが一番いいな。








うむぅっとしばらく顎に手を当てて考えている間もドラゴンは低い唸り声を上げて、僕達を威嚇している。

考えがまとまって一歩近づいた僕をコルダは凝視しているけど、今度は止めたりしてこない。


ドラゴンは近づいた僕に更に唸り声を大きくした。






「…これは、ポーションです。君のその傷を治す為に使いたいです。」

ぎり…ぎり僕が手を伸ばして、ドラゴンが首を伸ばせばポーションのにおいを嗅げる位置までじりじりと近づいてそう言葉にしてみた。

ドラゴンは滅多に人前に姿を現さないし、力、魔力が強いだけでなく高い知性も持っていると図鑑で見た。


だから僕の言葉を目の前のドラゴンは理解できるのではないかと思っている。



プルプルと腕を震わせながらポーションを差し出す僕をコルダとドラゴンがじっと見ている。






どれくらい一人と一体に見られながら震えていただろうか…。


僕の腕が限界を迎えようとした頃、ドラゴンの唸り声が止んでドラゴンが首を伸ばし恐る恐るポーションのにおいを嗅いでチェックをしてくれた。

そうして毒物でないかの確認が終わったドラゴンはドスンと首を地につけ、僕に傷口が見えやすいような体制をとった。



「…傷に使っていいですか?」


『…頼む。』




恐る恐る尋ねると頭の中に再び声が響いた。

やっぱり此処に来るまでに聞こえてきた声はこの子のものだったんだなっと納得し、ゆっくりと血が流れ出ているドラゴンの左前足に近づく。



すぐ傍で、コルダが万が一に備えているのが視界の端で伺える。








ゆっくり、ゆっくり近づいて傷口に辿り着いた僕は、とりあえずチョロッと傷口にポーションを垂らしてみた。


ドラゴンがピクリと反応するとコルダもピクリと反応する。



ドラゴンの様子を観察して、大丈夫そうだなっと思ったので再び先ほどよりも多くポーションを傷口へ。



またドラゴンがピクリと反応し、コルダもピクリと反応した。







ついついそんな一人と一体が面白くてわざとチョロッとずつ垂らすこと5回目でポーションを全て使い切った。






しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...