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第9話

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「もう少し歩いたところに、馬を用意してございます」

「ありがとう、ターナー」

 これで、伯爵家まで歩いて行かずに済む。彼の用意周到さには頭が上がらない。これまでも、何度も彼に助けられた。
 私たちは夜道を歩きながら、改めて作戦会議を始める。これから会いに向かう、シガー伯爵についてだ。

「シガー伯爵のご令嬢、ルリア様はエリーゼ様の根回しにより、無実の罪で殺されました…。表向きは自殺となっていますが、実質的に手を下したのは公爵の手の者でしょう。おそらく原因は…」

「ええ。エリーゼがルリアさんの陰口を公爵に吹き込んだ。それを知ったルリアさんがエリーゼに抗議して、逆恨みしたエリーゼは公爵に泣きつき、逆上した公爵によって事件が引き起こされた、と」

 彼は無言でうなずき、私に同意した。

「シガー伯爵もまた、公爵とエリーゼを恨んでいるはず。公爵家を失墜させるために、あらゆる情報を集めていると思うの」

「はい。私もそう思っております」

 会って話してみないことにはまだはっきりはしないけれど、伯爵が何か掴んでいるのなら、私たちもまた彼の力になることができるはず。

「問題は、伯爵が私たちを信用してくださるかどうか、でございますね」

「ええ」

 やはり、それが問題だ。いくら私たちが彼に協力したいと申し出ても、彼から見れば私たちは娘の仇の婚約者とその使用人だ。容易に信用してもらえるとは思えない…。

「…なにかお考えが?」

 私の顔を見たターナーが、私にそう聞いた。どうやら考えが顔に出てしまっていたらしい。実は私の頭には、一つの交渉術が浮かんでいた。

「私たちの顔は伯爵も知ってる。婚約の時の周辺貴族への挨拶の時に会ったからね。公爵との婚約が無しになって、あなたと一緒に公爵を失墜させたいと言っても、信じてもらえないかもしれない」

 ターナーは、その通りですといった表情だ。

「だから、1人の証人についてきてもらうの。他でもない、婚約の破棄が決まったと伯爵に納得させられるだけの人にね♪」

「そんな方、どちらに?」

 ターナーがそう言ったところで、私たちは馬を待たせていた場所につき、馬に跨る。その時、私たちの馬のものではない足音が聞こえてくる。

「まさか…あれは…」

「ええ、そのまさか」

 他でもない、公爵本人に証人になってもらおうじゃないか。
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