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幼馴染が解らない〜愛梨視点〜
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
~愛梨視点~
「………はぁ~」
「どうしたの姫田さん?元気ないようだけど?」
「え?う、ううん、大丈夫だよ、石田くん」
愛梨は苦々しく首を横に振った。
昨日、雄治に気持ちを伝えられてからというもの、愛梨は酷く落ち込んでいる。
雄治に恋人が出来た時とは比べ物にならない程に気落ちし、あの出来事の後は何をするにも無気力で全く身が入らなかった。
現在は恋人の石田とデート中だ。
今日が休日というのもあり、二人は喫茶店でコーヒーを飲みながら昼食を食べている。
雄治はあまりコーヒーが好きでは無かったが、愛梨がこの店を気に入ってるので頻繁に付き合っていた。
雄治が男子三人にコーヒー券を渡した理由もそれだ……愛梨と縁を切った以上、雄治が苦手なこの店を訪れることはもうないのだ。
そして愛梨の心情はデート等してる場合ではなかった。
今直ぐ帰りたい。どうやれば雄治との関係を改善出来るか、それを集中して考えたかった。
でも石田と出掛けるのは前もって決まっていた事だ。今更それをキャンセルには出来ない。ただでさえ昨日も一緒に帰る約束を反故にしているのだ。
流石に、立て続けで彼氏との予定をキャンセルするのはマズイと思い、気は乗らないが愛梨は約束通りデートに来ている。
……この気遣いを雄治に対しても行えていれば、彼と関係がここまで拗れる事もなかった筈なのに……
幼馴染という関係や、雄治の何でも許してくれる日頃の態度が愛梨を増長させていたのだ。
ここから雄治と関係を改善させるのは至難の技だろう。少なくとも愛梨には厳しい。
何故ならあんな事を言われた後ですら、自身の過ちに気が付いて居ないのだから……
「………やっぱり元気ないみたいだけど……本当に大丈夫?今日はもう帰ろうか?」
「……ううん、大丈夫。ちょっと雄ちゃんの事で悩んでて……」
「……雄ちゃん、ね」
雄治の話題を出され石田は顔を顰める。
しかし、愛梨は気付きもしない。
こういう所は雄治以外が相手でも変わらなかった。
「そういえば、姫田さん……いつも会う度に幼馴染さんの話をしているよね?」
「……え?そんな事ないと思うけど?」
「そ、そうかな?」
(そんなことあるんだけどね……朝の挨拶を交わしても、二言目には雄ちゃん……挙げ句の果てに、彼を僕に紹介したいだって?ふざけているのかな?)
──愛梨と付き合う前、石田は雄治との関係を前もって聞いていた。
石田はかなりモテる。中には彼氏が居るのに告白し、それを知らずに付き合い、面倒なトラブルに巻き込まれた経験が石田にはあったからだ。
故に雄治との関係を聞いていたが、その時、愛梨はハッキリこう言った。
『雄ちゃんとは幼馴染だよ!』
……それならばと、石田から告白した訳だが……予想に反して会う度その幼馴染の話をされてしまっている。
(幼馴染でも相手は男子なのだから、少しは気を遣って貰いたいんだが……)
雄治と二人きりで会う事を許したが、あんなのは建前に過ぎず内心は穏やかではなかった。
愛梨が頼んだコーヒーは無くなり掛けてる。
石田も二杯目を注文したところだ。
それだけの時間、互いに面と向かって話をしているにも関わらず愛梨は溜息を吐いて上の空だ。
ずっと幼馴染の事で悩み続ける彼女に嫌気がさし、石田は思わず口にする。
「ちょっと、もう一回確認するけど……彼とは本当に、ただの幼馴染なんだよね?」
「………ただの幼馴染……?」
「ん!?な、何か気に障っただろうか?」
彼女から放たれた並々ならぬ気配を感じ、石田に動揺が走る。
明らかに怒っているのは明白だった……しかし、石田には何が気に障ったのか分からない。
「ただの幼馴染ってなに?雄ちゃんとは十年以上も一緒に居るんだよ?だからもう家族みたいなモノなのっ!それなのにただの幼馴染なんて言い方酷くない?」
「ご、ごめん……ただ、ずっと幼馴染さんの事を気にしてるみたいだったからさ……酷い言い方して悪かったよ」
「あっ……!わ、私こそごめん!……でも、雄ちゃんとの関係は認めてくれた訳なんだし、あんまり酷いこと言われるのは流石に……ね?」
「うん……分かった」
──ただの幼馴染と言った事の何がそんなに悪いのか、石田にはさっぱり理解出来なかった。
その後、喫茶店を出て結局解散となった。
本来なら一緒に映画を見に行こうと誘うつもりだった石田だが、そんな気分ではなくなってしまっていた。
──────
「雄ちゃんの家……」
愛梨は雄治の家の前に来ていた。
そしてインターホンを鳴らそうとしたところで思い直して止める。昨日みたいに罵倒されるのが恐ろしいのだ。
そのあと、愛梨は雄治の家の周辺をグルグル周った。
この行動には特に意味はない。ただ雄治の家を色んな角度から見て居たかった。
「……あっ」
何十周かした所で、窓から顔を覗かせた雄治と【偶然】目が合う。それに運命を感じながらも、愛梨は雄治に対して嬉しそうに手を振った。
──ピシャンッ!
愛梨に気付いた雄治は窓のドアを勢いよく閉めた。
顔を見るのも嫌だったのだ。好きの反対は無関心だと言う人間も多いが、雄治の場合は違う。
ただただ嫌いになった。雄治は愛梨が憎い。鬱陶しい。存在を感じるだけでイライラする……そんな相手なのだ。
「まだダメなのね……どうしてあんなに怒ってるんだろう?」
──愛梨は30分ほど雄治の部屋の窓を見つめてから家に帰った。
………
家に帰っても愛梨は雄治の事を考える。
今も昔もそれは変わらない。ただ最近、その頻度が急激に増えただけ。
「雄ちゃん……恋人関係なんて、そう長く続かないんだよ?今まで体験した事のないドキドキを楽しみたいから石田君と一緒に居るだけなのに……私がずっと石田君と一緒に居るって勘違いしちゃってるなぁ」
愛梨にとって今回の出来事は不幸な行き違いに過ぎない。石田よりも雄治の方が大切だと伝えればそれで良いと思ってる……それでも雄治が納得しないのなら、最悪、石田と別れるのもやむなしだと考えた。
「それに雄ちゃんは幼馴染だし、家族だし、私の身体の一部……今更、恋人なんて関係には落とせないよ……」
関係性をランクダウンさせる告白なんて受け入れる訳ないじゃない……それなのに雄ちゃん酷いよっ。
雄ちゃんの事は大切な家族だと思ってる……それはもう家族なんだから、一緒に居てドキドキしないのは当たり前なんだよね。
それなのに、何も分かってないんだから……
……でも、ちょっと言葉足らずだったかも……そこは反省して、明日ちゃんと説明しなくちゃねっ!
私達が家族なんだって事を解らせないとっ!
──愛梨は寝る前にもう一度雄治の家へ向かった。
そして彼の部屋の窓を眺める。さっきみたいな【偶然】が訪れるのを信じて……
……しかし、今回は一時間近く待っても偶然の機会が訪れなかったので仕方なく家に帰る事にした。
「はぁ~……」
「───あのー、お嬢さん?ちょっと良いかな?」
「あっ、お巡りさん、こんばんは……どうしました?」
「いや、こんな時間に何してるの?」
「はい、雄ちゃんの様子を見に行ってました。歩いて直ぐの場所なので……目の前にあるのが私の家なんですよ」
「雄ちゃん?いやまぁ御近所なら良いんだけど……でも気をつけないと、融通の利かない警官だったら補導されてるよ?」
「はい、気を付けます」
「それに、この辺で不審者が彷徨いてるって通報もあったしね」
「ふ、不審者ですかっ!?」
「うん、何でも、同じ家をジッと見詰めてるんだとさ。完全にストーカーだよね」
「ええ……それは完全にストーカーですね……」
「困ったもんだよ。だから今は家が近くても出歩くのは危ないよ?」
「はい、気を付けます。早く捕まると良いですね!」
「うん、おじちゃん頑張るからね!おやすみ!」
「はい、おやすみなさい」
──ストーカーだなんて……怖いなぁ……
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