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 「セム、お待たせ」

 「あ、アデル」

 寮を出ると、アデルがいつものごとく待っていた。

 ……この制服姿も見納めか。

 そう思うとじっくり見ておきたい気もする。

 俺がアデルを上から下まで舐めるように見ていると、「ちょっと恥ずかしいかな……」と言われた。

 「あ、ごめん。今日が最後だと思うと、見ておきたくて……」

 「そんなの、言ってくれればいつでも着てあげるよ」

 ふふっと笑う表情は、出会った頃にはない優しさが滲み出ている。

 思わずきゅんとしていると、「そういえば、準備は大丈夫?」と聞かれた。

 「うん、寮に荷物は置いてきたし、あとは取ってくるだけ」

 「よかった。じゃあ行こっか」

 「うん」

 卒業式は午前中に終わる。じゃああと数時間後には領事館か……と考えながら、俺とアデルは大広間に向かった。





 大広間では椅子が並べられ、一人一人証書を受け取っていく。先生と握手する人、振り返って手を振る人、涙ぐんで受け取る人。三者三様の卒業式をぼーっと見ていたら、聞いたことのある名前が呼ばれた。

 「ソフィー・フィッセル」

 「はい」

 あ、と思って前に出ていくソフィーを見つめる。てっきり俺は晴れやかな顔をしていると思っていたのに、意外にもソフィーは硬い表情をしていた。

 ……婚約破棄をすると言ってから、ソフィーには一度も会っていない。

 アデルが嫌がったというのもあるし、俺もアデルに誤解を招くような行為をしたくなかった。

 でも今までお世話になったし、一度ちゃんと挨拶したほうがいいかな……

 そう思ったけれど、『いやいや、ちょっと待て』と冷静な自分が語りかける。

 きっと俺とソフィーが二人で会ったらルーカスも嫌がるし、誰も得しない。なら絶対にやめておくべきだ。

 俺はちょっとだけソフィーに申し訳なく思いながらも、改めて挨拶をするのはやめておくことにした。

 ……はずだったんだけれど。

                                      
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