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番外編〜高所恐怖症の田中くん〜

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「ちょっと待って!何でエレベーター外見えんの!」

そんな大きな声が響く。

「無理無理無理。絶対、無理!」
断固拒否している高橋くん。いや、田中くん。

「まじで無理なんだけど!!」

 取引先に来た訳だけど、何か、いつも冷静な田中くんが、そんな感じなのが新鮮。
 余裕がない田中くんも良いな。そんなことを考えながら、エレベーターが止まらなければ良いなんて考えていた。

 取引のことよりも、今、余裕がない田中くんをずっと見てたい。その気持ちが勝っている。

 後日、取引先との打ち合わせも上手くいった記念に、田中くんとお出かけすることに。余裕がない田中くんを見たすぎて、外が見えるエレベーターを探した私は、かなり性格が悪い。

「何で、こんなに高いとこなん?」
あー、かわいい。普通嫌がることしないと分かってるのに、今日だけ、許して欲しい。

 田中くんの目を手で覆う。そして、怖がる少し震えている唇に、必死に背伸びをして唇を重ねる。

「え?」
これ、やってみたかったんだよね。高橋くんが、ドラマでしてたの見て憧れてたから。高橋くんがしたことを、高橋くんによく似た田中くんにできるなんて。

 やばい。嬉しすぎる。
「つくし先輩が、これ、してくれるなら高いとこも悪くないかも。」
覆っていた手を取られて、綺麗な顔が覗く。
「次は、ちゃんと俺のこと見てしてくれても良いよ?」
意地悪く、笑った田中くん。
「さっきまで、余裕なかったじゃん。」
「もう、外とか高さとかどうでも良くなった。つくし先輩しか見えない。」
 そう言って、掬うように顎を持ち上げられて、唇が重なる。

 結局、田中くんには勝てない。
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