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12 事情

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「……元の世界に、帰りたくない事情でも?」

「私は積極的に、元の世界に帰りたいとは思いません。この世界のように、危険な魔物は居ないけど……なんだか情報に溢れているせいか、刺激的なことや辛いことが多過ぎて……心がついて行かないことがあるんです。この世界に来て、気持ちが穏やかでどれだけの無駄に囲まれていたか目が覚めました。私はこういう生活をしたかったのかもって」

 手放せなかったスマホは電池が切れて、すぐに使えなくなった。あれほどまでに更新が気になっていた複数のSNSから解放されて、今は驚くくらい気持ちが楽になった。

 こういう中世ヨーロッパのような世界の方が向いているのかなって思うし……あと、魔法が存在するから多分向こうの世界より便利なことも多い。

 なにより、やっぱり間近で見ているジュリアスが素敵。

「聖女様は……この世界に、永住しても良いと?」

「良いです。私と結婚してくれます?」

「そうですね。先ほど聞いた聖女様のご事情を踏まえて、前向きに考えておきます」

 まさかの付き合う前のプロポーズにも動じず、ジュリアスは肩を竦めて頷いた。

「現在、どっち寄りです? 私のこと良いなって、少しでも思います?」

 あー……乙女ゲームみたいに、ジュリアスの好感度見えたらなあぁ!! 上がったり下がったりも、リアルタイムで見られたら良いのに。

「……聖女様は、なんだか恋に積極的なんですね。今まで、そんな風には見えませんでした」

 あまりにも突然強引に迫りすぎたせいか苦笑したジュリアスに、私は何度か頷いた。

「だって、私はこれまでの人生で告白すべきところで何も言えなくて後悔したこと、何度かあるんです! どっちにしてもいずれ後悔するなら、自分の言いたいことを言うべきかなって思いました」

「……今までは、何も言えなかった……と?」

「そうです。だから、ここでジュリアスに振られても、私は言いたいけど言わなかったという後悔はしなくて良くなるんです。それに振られても異世界から帰るだけなので、もう顔を合わせることもないですし……」

 そういった意味で、私のジュリアスへの告白はデメリットが少ない。とは言っても彼は、私の恋心を馬鹿にするような人には見えないけど……どこだかの、エセルバードとは違って。

「確かに後悔は……しない方が良いですね……」

 ジュリアスはそれから物憂げになんだか考え込み、私はそんな彼を観察するので精一杯になってしまった。
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