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39 キス
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「あのっ……エセルバードは? あの人はどうなったんですか?」
「ああ。殿下なら、もう旅立ちましたよ……陛下も魔物との戦いでの振る舞いをご立腹で」
そうでしょう! そうじゃないと、この国滅ぶと思うからそれはそれで良かった!
「エセルバードと会わなくて良いと思うと、本当に嬉しいです。けど……なんだか、勝ち逃げみたいですごく嫌です」
これは私の正直な気持ちだった。
だって、エセルバードって結局ジュリアスに全部おんぶに抱っこで本当に子どもだった。
唯一の救いはというと、もう二度と関わらなくて良いってことくらい?
私は気に入らないことを示すために、むうっと嫌な顔をしたけどジュリアスはそんな私を見て苦笑した。
「いえ。実は由真のおかげで、僕の汚名は晴らされてエセルバード殿下は実は……婿入りの話もなくなり、離宮へと追放されたんです」
「……え? 私のおかげ?」
私のしたことって言えば、ジュリアスを若返らせて……恋仲になって……あ。折れた聖剣は元通りにしたよ。それは頑張ったかも。
けど、それ以外で見当たらない……。
「ええ。由真は僕のためにこの世界に来てくれたんではないかと言うくらい……何もかも、救ってくれました」
「ジュリアス……もし、そうだったら嬉しいけど、なんでそんな事になったのか、簡単に教えてくれる?」
私は謎だらけの今の状況が本当に良くわからなかった。
だって、ジュリアスがエセルバードとその子を庇って司祭を殺害した罪をどういう風に私が晴らしたのかわからない。
「そうですよね……では、今から見せます」
「見せる……? え!」
私はジュリアスが指輪をしている右手を上げて、ふわりとその上に半透明の存在が浮き出てとても驚いた。
なんて言うか、言うならばランプの精のような……煙のような質感の、緑色の髭姿の男性。
「呼んだのか」
「ええ……いつも、ありがとうございます」
ジュリアスは礼儀正しく髭姿の男性に礼をして、口をあんぐりと開けたままだった私に振り返り苦笑した。
「えっ? ……え? ジュリアス? ここここ……これって?」
「そうなんです。エセルバード殿下は、私のせいで聖剣が折れて……魔物退治に支障が出たと報告したところにこの方が……ええ。指輪の精霊だそうです。由真」
「私のあげた、指輪の精霊……? 嘘でしょう。嘘みたい。けど、ジュリアスを護ってくれてありがとうございます……」
「礼には及ばぬ。しかし、あの小僧……嘘ばかりつきおって……儂が剣を折ったのも、あいつが明確な敵意があったからだ! それをいけしゃあしゃあと自分は悪くない。このジュリアスが悪いと……精霊は嘘がつけぬから、あやつの父親も信じたわ」
……あー……もうなんだか色々ありすぎてびっくりしたけど、この指輪の精霊さんがジュリアスのことをエセルバードの嘘からも護ってくれたんだ。
なんて強い護りの力なの。あのお店の店主さんにもお礼しに行かなきゃ。
そして、指輪の精霊は私への説明の役目を終えて満足そうな表情で居なくなった。
事態を把握した私が言葉を出せるようになるまで、しばしの時を要した。
「えっ……えっと、良かったけど……驚きすぎて、本当になんて言って良いかわからない」
「僕もそう思います……けど、ありがとう。由真。君がいなかったら、何もかもそのままだった」
真面目なジュリアスは、今まで自分さえ我慢すれば良いって思って居たのかもしれない。
うん。それは防げて良かったと思うけど……まさか斜め上過ぎるこんな解決策があったなんて、本当に驚き。
「……あ!」
「どうかしました?」
「私……私とキスをすると、そのたびに若返るのならキス出来なくなっちゃうと思ってたけど、これで何回もキスしても大丈夫かな?」
「どうでしょう? 試してみます?」
そう言って楽しそうな表情をしたジュリアスの顔が近付いて来たので、私は何も言わずに瞼を閉じた。
Fin
「ああ。殿下なら、もう旅立ちましたよ……陛下も魔物との戦いでの振る舞いをご立腹で」
そうでしょう! そうじゃないと、この国滅ぶと思うからそれはそれで良かった!
「エセルバードと会わなくて良いと思うと、本当に嬉しいです。けど……なんだか、勝ち逃げみたいですごく嫌です」
これは私の正直な気持ちだった。
だって、エセルバードって結局ジュリアスに全部おんぶに抱っこで本当に子どもだった。
唯一の救いはというと、もう二度と関わらなくて良いってことくらい?
私は気に入らないことを示すために、むうっと嫌な顔をしたけどジュリアスはそんな私を見て苦笑した。
「いえ。実は由真のおかげで、僕の汚名は晴らされてエセルバード殿下は実は……婿入りの話もなくなり、離宮へと追放されたんです」
「……え? 私のおかげ?」
私のしたことって言えば、ジュリアスを若返らせて……恋仲になって……あ。折れた聖剣は元通りにしたよ。それは頑張ったかも。
けど、それ以外で見当たらない……。
「ええ。由真は僕のためにこの世界に来てくれたんではないかと言うくらい……何もかも、救ってくれました」
「ジュリアス……もし、そうだったら嬉しいけど、なんでそんな事になったのか、簡単に教えてくれる?」
私は謎だらけの今の状況が本当に良くわからなかった。
だって、ジュリアスがエセルバードとその子を庇って司祭を殺害した罪をどういう風に私が晴らしたのかわからない。
「そうですよね……では、今から見せます」
「見せる……? え!」
私はジュリアスが指輪をしている右手を上げて、ふわりとその上に半透明の存在が浮き出てとても驚いた。
なんて言うか、言うならばランプの精のような……煙のような質感の、緑色の髭姿の男性。
「呼んだのか」
「ええ……いつも、ありがとうございます」
ジュリアスは礼儀正しく髭姿の男性に礼をして、口をあんぐりと開けたままだった私に振り返り苦笑した。
「えっ? ……え? ジュリアス? ここここ……これって?」
「そうなんです。エセルバード殿下は、私のせいで聖剣が折れて……魔物退治に支障が出たと報告したところにこの方が……ええ。指輪の精霊だそうです。由真」
「私のあげた、指輪の精霊……? 嘘でしょう。嘘みたい。けど、ジュリアスを護ってくれてありがとうございます……」
「礼には及ばぬ。しかし、あの小僧……嘘ばかりつきおって……儂が剣を折ったのも、あいつが明確な敵意があったからだ! それをいけしゃあしゃあと自分は悪くない。このジュリアスが悪いと……精霊は嘘がつけぬから、あやつの父親も信じたわ」
……あー……もうなんだか色々ありすぎてびっくりしたけど、この指輪の精霊さんがジュリアスのことをエセルバードの嘘からも護ってくれたんだ。
なんて強い護りの力なの。あのお店の店主さんにもお礼しに行かなきゃ。
そして、指輪の精霊は私への説明の役目を終えて満足そうな表情で居なくなった。
事態を把握した私が言葉を出せるようになるまで、しばしの時を要した。
「えっ……えっと、良かったけど……驚きすぎて、本当になんて言って良いかわからない」
「僕もそう思います……けど、ありがとう。由真。君がいなかったら、何もかもそのままだった」
真面目なジュリアスは、今まで自分さえ我慢すれば良いって思って居たのかもしれない。
うん。それは防げて良かったと思うけど……まさか斜め上過ぎるこんな解決策があったなんて、本当に驚き。
「……あ!」
「どうかしました?」
「私……私とキスをすると、そのたびに若返るのならキス出来なくなっちゃうと思ってたけど、これで何回もキスしても大丈夫かな?」
「どうでしょう? 試してみます?」
そう言って楽しそうな表情をしたジュリアスの顔が近付いて来たので、私は何も言わずに瞼を閉じた。
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