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86 oath★(2)
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「これは……確かに愛の行為だったね。素晴らしいものを見た。僕もこれで、許してあげようという気にはなったね……勇者ロミオ。君は確かに人としては、とても強い方だとは思う。だが、それは愛する人を泣かせる程の、傲慢さをも身につけたと知れ。上には上が居るものだ。見くびれば、すべてを失う……まあ、僕には何の得もないけどね。老婆心ながら。それは、伝えておくよ」
「……言われずとも……」
ロミオが顔を歪め悔しそうにそう言った時に、ミルドレッドは気がついた。周囲から、あんなに数多く存在して居た光る目がすべて消えていた。出てくる時も確かに一瞬だったから、去ってしまう時も同じだったのかもしれない。
エレクゼイドは肘掛けに肘を付いたままの姿勢で、何かを愛でるように目を細めた。
「君の恋人は、確かに可愛いね。外見だけではなく。辛い過去を持っているというだけで、それを理由に振り翳し何の関係もない人を傷つける下卑た連中も僕は数多く見てきた。だが、彼女は君が迎えに行く前にも、賢く心優しく自分というものを持っていた。だからこそ、君を救えたのか。まあ、良い。確かに楽しんだ。君たちの犯した契約違反は、これで許そう。僕は嘘はつかない」
確かにエレクゼイドは、約束は自分を縛ると言っていたはずだ。その言葉を聞いてほっと安心して息をついたミルドレッドを見て、彼はふっと微笑んだ。
「ミルドレッド。君の恋人は君が思っているより、短気で傲慢だ。良く手綱を握っておくと良い。気が向けば、また話を聞かせてくれ。今度は歓迎しよう」
そうして、彼は闇に溶けるように消えた。
視界は闇に染まり、何かを呟いたロミオが以前に出した彼の守護精霊を呼び出したのか、青く光る小さな男の子が現れた。
ドサッと間抜けな音がして、宙から落ち不満げなアランの声がした。
「絶対。全員、俺のこと忘れてたよね……? 身体動かせないって、まじ辛いんだけど。ひどい」
「よし。アラン、記憶全部消そう」
「待って! 記憶操作は、専門の魔法使いでも難しいのに! ロミオ、無理矢理はやめて!」
慌てたアランは、後ろを向いた。ロミオはとりあえず自分の服を取り、ミルドレッドに着せ掛けた。
(そうだ。アランさんも、宙に浮いたままでこの場に居たんだ)
彼の存在を完全に忘れていたミルドレッドは呆然とした後に我に返り、下着を拾い上げて身につけ始めた。
「いや。俺も目を逸らしたかったんだけど……だって、見たでしょ? 浮いて磔になってたから。それは、到底無理だし。知り合いの合体しているところは思ってたより、生々しくてつらいかも。なんか、ことある毎に思い出しそうだわ……」
「瞼が動かせるなら、目を閉じれば良かっただろ」
「あんな甘い声や、いやらしい音がしているのに、それは拷問だわ。それならもう、この先に何があろうが全部見ることを俺は選ぶ」
「自分で選んだなら、文句言うな」
息をついたロミオは自分も服を身につけつつ、ようやく無事に帰り着けると安心したようだ。仲の良いアランと、いつものように軽口を叩き始めた。
「俺もそろそろ、可愛い彼女作ろっかなー?」
「無理だろ。お前、飽きっぽいし」
「そんなことないよー。ミルドレッドさん、勘違いしないで。俺は別に、女の子を選り好みしている訳じゃない。旅の間はお互い合意の上の短い付き合いだし、その後の俺は行方不明になってたお前を探して回ってたんだよ。こんなに友情に厚い優しい俺に彼女は居ないのは、おかしいだろ」
「……お互い、合意ねえ」
含みのあるロミオの言葉に、アランは背を向けたままで大きく息をついた。
「いや……確かに何回か拗れたことはあるけど……いや。次は結婚を視野に入れて探すから……」
「そういう奴に限って、土壇場になって独身の身分が惜しくなってまだ遊んでいたいからとか言い出すんだ。背中を刺されないようにな」
「ロミオくん、ひどい……俺、お前の中でそんなひどい奴なの?」
着替えを終えたミルドレッドは、わかりやすい泣き真似をするアランが、この状況を冗談にして空気を明るくしてくれたことを感じた。彼は賢く優しい。あのクリスティーナが彼を評して言っていたことを、確かにそうだと思い出した。
「とりあえず外に出るか。あ。お前、ミルドレッドの顔見るなよ。絶対思い出すなよ」
「手を握りつつ顔見ないとか、めちゃくちゃ難しいんだけど……」
苦笑をしたアランが明後日の方向を向きつつ伸ばしてくれた手をミルドレッドが握れば、周囲の景色は一瞬で溶けた。
「……言われずとも……」
ロミオが顔を歪め悔しそうにそう言った時に、ミルドレッドは気がついた。周囲から、あんなに数多く存在して居た光る目がすべて消えていた。出てくる時も確かに一瞬だったから、去ってしまう時も同じだったのかもしれない。
エレクゼイドは肘掛けに肘を付いたままの姿勢で、何かを愛でるように目を細めた。
「君の恋人は、確かに可愛いね。外見だけではなく。辛い過去を持っているというだけで、それを理由に振り翳し何の関係もない人を傷つける下卑た連中も僕は数多く見てきた。だが、彼女は君が迎えに行く前にも、賢く心優しく自分というものを持っていた。だからこそ、君を救えたのか。まあ、良い。確かに楽しんだ。君たちの犯した契約違反は、これで許そう。僕は嘘はつかない」
確かにエレクゼイドは、約束は自分を縛ると言っていたはずだ。その言葉を聞いてほっと安心して息をついたミルドレッドを見て、彼はふっと微笑んだ。
「ミルドレッド。君の恋人は君が思っているより、短気で傲慢だ。良く手綱を握っておくと良い。気が向けば、また話を聞かせてくれ。今度は歓迎しよう」
そうして、彼は闇に溶けるように消えた。
視界は闇に染まり、何かを呟いたロミオが以前に出した彼の守護精霊を呼び出したのか、青く光る小さな男の子が現れた。
ドサッと間抜けな音がして、宙から落ち不満げなアランの声がした。
「絶対。全員、俺のこと忘れてたよね……? 身体動かせないって、まじ辛いんだけど。ひどい」
「よし。アラン、記憶全部消そう」
「待って! 記憶操作は、専門の魔法使いでも難しいのに! ロミオ、無理矢理はやめて!」
慌てたアランは、後ろを向いた。ロミオはとりあえず自分の服を取り、ミルドレッドに着せ掛けた。
(そうだ。アランさんも、宙に浮いたままでこの場に居たんだ)
彼の存在を完全に忘れていたミルドレッドは呆然とした後に我に返り、下着を拾い上げて身につけ始めた。
「いや。俺も目を逸らしたかったんだけど……だって、見たでしょ? 浮いて磔になってたから。それは、到底無理だし。知り合いの合体しているところは思ってたより、生々しくてつらいかも。なんか、ことある毎に思い出しそうだわ……」
「瞼が動かせるなら、目を閉じれば良かっただろ」
「あんな甘い声や、いやらしい音がしているのに、それは拷問だわ。それならもう、この先に何があろうが全部見ることを俺は選ぶ」
「自分で選んだなら、文句言うな」
息をついたロミオは自分も服を身につけつつ、ようやく無事に帰り着けると安心したようだ。仲の良いアランと、いつものように軽口を叩き始めた。
「俺もそろそろ、可愛い彼女作ろっかなー?」
「無理だろ。お前、飽きっぽいし」
「そんなことないよー。ミルドレッドさん、勘違いしないで。俺は別に、女の子を選り好みしている訳じゃない。旅の間はお互い合意の上の短い付き合いだし、その後の俺は行方不明になってたお前を探して回ってたんだよ。こんなに友情に厚い優しい俺に彼女は居ないのは、おかしいだろ」
「……お互い、合意ねえ」
含みのあるロミオの言葉に、アランは背を向けたままで大きく息をついた。
「いや……確かに何回か拗れたことはあるけど……いや。次は結婚を視野に入れて探すから……」
「そういう奴に限って、土壇場になって独身の身分が惜しくなってまだ遊んでいたいからとか言い出すんだ。背中を刺されないようにな」
「ロミオくん、ひどい……俺、お前の中でそんなひどい奴なの?」
着替えを終えたミルドレッドは、わかりやすい泣き真似をするアランが、この状況を冗談にして空気を明るくしてくれたことを感じた。彼は賢く優しい。あのクリスティーナが彼を評して言っていたことを、確かにそうだと思い出した。
「とりあえず外に出るか。あ。お前、ミルドレッドの顔見るなよ。絶対思い出すなよ」
「手を握りつつ顔見ないとか、めちゃくちゃ難しいんだけど……」
苦笑をしたアランが明後日の方向を向きつつ伸ばしてくれた手をミルドレッドが握れば、周囲の景色は一瞬で溶けた。
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