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天文18年

第十五話 上洛準備と越前越後

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※誤字修正。
球体→髪(旧作リメイクの際の修正忘れ)

 そして翌日。

「お、おはよう……」
 銀ちゃんが疲れた声で、フラフラになりながら姿を見せる。

「素晴らしい朝ですわねっ!」
 逆に白金プラチナちゃんがイキイキしており、声から幸せが滲み出ていた。

 まさか銀ちゃん、ついに禁断の一線を超えてしまったのか?
 ゆうべはお楽しみでしたね、だったのか!?

「……超えてない超えてない。
 一睡も出来なかったから疲れてるだけで」
 と銀ちゃん。

「でも一晩中添い寝してくれましたのよ、うふふ」
 プラチナちゃんも意外に純情だった!

 そういえばプラチナちゃん、昨日の戦いで戦兎をボロボロにしちゃったけど大丈夫?

「問題ありませんわ。
 一度百獣の絡繰に戻せばすぐ回復しますの」

 へえ、そういう仕組みなんだ。

「逆にいうと、一度その形に戻さないと損傷は戻りませんわ。
 その隙が出来るのが玉に瑕ですわね」

「おっと、皆さんお集まりでござるな。
 ちょうど相談したい事が」
 遅れて長尾景虎こと千代が登場。
 その相談内容と言うのは……


「海路?」
「そうでござる。
 京へ上洛なさるなら、道三殿の美濃から我が越後へ抜け、そこから海を渡る道が一番安全ではと」
 我が父信秀に、千代がそう提案する。
 確かに彼女がここ尾張に来れるくらいだ、逆も容易だろう。
 そして日本海を通ってしまえば、京までさほど距離はない。

「問題は越前の朝倉と若狭武田氏の動き、か」
 
 日本海から京への上陸の際に、邪魔をしてくる可能性が最も高いのがこの二つの国である。
 何なら海上に船を出して攻めてくるかもしれない。

「何の、越前など越後の敵ではござらぬ。
 露払いはお任せ下され、でござる」
 そう言って千代は薄い胸を叩いた。


▶︎解説者ナレーター視点
 一方、その越前国。
 当主である朝倉 延景のぶかげは、去年父が亡くなり16歳で朝倉家を継いだ。
 今は父の父の父、齢70を超えた朝倉 宗滴そうてきが補佐をしている。

 そんな2人の前に、奇妙な来客があった。

「という訳デェ、朝敵の明王の化け物が此処に来るかもしれないノォ!」
 と特徴的な野太い声、錫色髪の中年男。

「今川もここ朝倉も、朝廷の忠臣を自負する者として見過ごす訳に行かないわよネェ!!」
「爺……」
 錫色の剣幕に、延景は困ったように隣の宗滴を見る。

「いやはや許しがたい事でござりますな。
 帝をも恐れぬ不届き者、我々が天誅を下すべきでござりましょう」
「分かってくれて嬉しいワァ!
 今回の件、東国の都(今川の支配地、駿河の事)も全面協力するわヨォ」
 錫色は嬉しそうにそう言い放つ。

「待ってなさい銀色!
 今度こそ、死ぬのも緩いと思える程の地獄に叩き落としてあげるわヨォ!」


「長夜叉、不甲斐ない」

 城の謁見の間から自室に戻る途中、延景はそう声をかけられた。
 ちなみに長夜叉というのは、彼の幼名である。

 彼が振り返ればそこには、この時代には珍しい、後頭部を刈り上げたお禿かっぱの髪型の女性。

小少将こしょうしょう……」
 呟くように延景が声を漏らす。

 彼女は家臣の斎藤 兵部少輔へいぶしょうゆうの娘で、延景にとって幼馴染でもあった。

「あんな爺の言いなりで良いの?」
「仕方ないだろ、小生は若輩者だ」
 そう言って延景はため息を吐く。

「子供の頃の長夜叉はもっと奔放で、怖いもの知らずだった。
 あの大うつけ信長すら超えると思ってた」
「大人になれば、人は変わるものだ」
「長夜叉は、それでいいの?」
 小少将が納得出来ないと言う口調で、なおも食い下がるように言う。

 すると、しばらく二人は見つめ合った後、

「……今の私は延景だ、『長夜叉』じゃない」
 吐き捨てるように言い、延景が去っていった。

 そしてその姿見えなくなってから、
「……いるんでしょ、錫?」

 小少将がそう言うと、

「あーら、気づいてたのネェ」
 と柱の影から錫髪の中年男が姿を見せる。

「覗き見とは、趣味が悪い」
「むしろ話の邪魔をしなかったアターシを褒めて欲しいけどネェ」
 嫌悪感を示す小少将に、涼しい顔で答える錫。

「……で、小少将チャン?
 結局アターシに協力してくれるって事で良いのネェ?」
「勘違いしないで、協力じゃない」
 錫の言葉に、小少将が言い返す。

「長夜叉は、私が守る。
 そのためにするだけ」



 
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