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第3部 仇(あだ)

62:オトラル戦25:突破作戦3日目の夜3

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  人物紹介
 ホラズム側
イナルチュク・カン:オトラルの城主。カンクリ勢。

あの時の上官:イナルチュクの配下。かつてモンゴルの隊商を案内し、後にはその虐殺の実行を指揮した人物。
  人物紹介終了



 遂に太鼓が打ち鳴らされる。突撃の合図である。

(明るみ目がけ突っ込んで行く。剣を抜いて。その先の薄闇のおおう地に至るべく)

 ただあの時の上官がそう想えたのは意識の上だけであった。前の者の槍に足を取られ、片手に剣を持っておったため、したたかに腰を打つ形で転んでしまい、そのためにしびれた如くとなって動くことができなかったのだ。

 前方では自軍が敵部隊に突っ込んで行く様が見える。己の配下の者でさえ、誰一人我を助けるために戻って来る者はおらず、立ち止まる者さえおらなかった。取り残され、しばし呆然とその様をながめるしかなかった。ようやく体がいうことをきき出し、剣を持ち直し、何とか立ち上がると急いで後を追い始めた。

(己はまがまがしき運に、スルターンの運に巻き込まれたのだ)

 どうやればそれをぬぐえるのか。どうやればここを突破できるのか。全く分からなかった。

 やがて激しき痛みが足に走った。

(またか。この足が)

 叩こうとして、手を伸ばそうとしておる間にまた転んでしまう。その状態で手が細い棒状のものに触れる。

(矢で射られたのか)

 いきどおりの声を発する。そこで倒れ伏しておる者が少なくないことに気付いた。うめいておる者。はいずる者。全く動かず声も発せぬ者。再びいきどおりの声を発し、何とか体を起こす。左足を除けばまだ自由が利いた。

(逃げられる)

 急に希望が湧いて来た。片足を引きずって進もうとしておるその時に、強い衝撃を受けた。それがどこかも分かる間もなく、また確かめることもできぬまま命を奪われた。
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