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3章 こうして私はメインストーリーから外れる

39話 まずは帰還を優先

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『私とミューゼリアは協力関係にあるんだ! 憑き物とは失礼な奴だ!!』

 レフィードが怒っている。

「本当に驚きだよ。800年前に精霊の上位種は世界からいなくなった説が濃厚だったから、イリシュタリアの姫の様に精霊憑きが人類から現れるのは可能性低いだろうと思っていたんだ。現実は小説より奇なりとは、この事だねぇ! 精霊が傍に居る事で、人体や周囲にどのような影響があるのか知りたいな!」

『私を悪霊や呪詛の様に言うな!!!!』

 うわぁ……両方がうるさい。
 レフィードが姿を現してしまう前に、私が何とかしなければならない。

「あの、精霊憑きって何でしょうか? まずそれが知りたいです」

 アンジェラさんは私の肩から手を離した。

「精霊憑きは、魔素を大量に放出する魔物に精霊がくっ付いている状態だね。魔物達は、精霊達に自分の体を住処として提供する代わりに、力を借りる事もあるんだ。例えば、雷竜。彼らは、自身でも雷撃を放てるけれど、より攻撃が通りやすい環境を作り出すために、精霊の力を借りている」
「雷竜が精霊憑きであるか見分ける方法は何ですか?」

 レフィードがスィヤクツから私を守ってくれた時、爆発を起こしたのを思い出した。無詠唱であるのは、私達人間とは違い魔力や魔素を操る力に秀でているからだ。今はまだ初歩魔術に似た現象しか起こせないが、記憶を完全に取り戻したレフィードは遺物の様に環境そのものに影響を与える程の強大な力を持つようになる。途方もない力に、想像力が働かない。

「年中を通して遠くから雷竜を観察していたら、周りに淡い光の玉がふわりと浮かんでいるのを確認したんだ。若い個体はその光の玉が無く、大人になる程に数が増す。虫などの生物なのか確認するために、眠っている個体に近づいて網で捕えられるか実験したけど、すり抜けて駄目だった」

 そんな危ない事をやっているのか、この人。
 そもそも、ダンジョンを1人で歩き回っているのが異常だった。

「でも、私にはそんな光の玉はいませんよ」
「それは、そうだね。でもボクは会話をしている内に、キミが精霊憑きだと確信を持った。あ、ちなみに、アーダイン公爵とは全く関係が無いよ。最近届いた手紙は、鉱山に入りたかったら予め知らせろって内容だった」
「どうしてですか?」

 私は一口水を飲んだ。パンを食べている合間に飲んではいたが、今は妙に乾いている。

「ダンジョンの崩壊について質問をするのは、子供は君が初めてなんだ」

 驚いて、コップの水を溢しそうになったが、中は既に空だった。

「それに、ボクの発言で所々小さな反応を示していたよね? 特にさっきは、なんだか耳元で何かに騒がれているようだった。ボクはずっと同じ音量で話しているのに、どうしてかな」

 ペラペラと話している様に見えてアンジェラさんは、私の言動や行動を事細かに見ていたようだ。
 途端に何て答えれば良いのか、分からなくなった。
 何もかも見透かされているようで怖い。

「さて、そろそろお話もお開きにしようか」
「えっ」

 アンジェラさんは話を急に切り上げ、パンの最後の一口を口の中へと入れ、冷めてしまった紅茶を一気に飲み干した。

「帰らないと、皆が心配するよ」
「そ、そうですけど、私はまだ知りたい事があります」

 最も重要な話を聞けていない。遺物の代わりになる存在についてだ。冒険者によってダンジョンが破壊されてきたのならば、危険地帯はもっと点在している筈だ。しかし、ゲーム開始6年前の今でも、危険地帯は一か所のみ。危険地帯が遺物を無くしたダンジョンと置き換えるならば、先代の国王陛下に直談判したアンジェラさんなら、何か方法を知っている。

「今のキミは、頭の中で沢山の事がグルグル回っているのを無理やり止めているでしょう? ちゃんと整理してないと、散らかったままだよ」
「でも……」

 アンジェラさんの話は、ゲームの設定とは違うので情報量が多く感じ、文字にしてまとめたい。リティナの行動に対して、改めて見直したいとも思っている。
 でも、このチャンスを逃したくないとも思っている。
 しかし言われてみると、整理しておかないと、やるべき事を見つけても何が何だか分からなくなりそうだ。

 ………………これは確かに、あっちへこっちへとグルグル回っている。

「ボクはここを出た後は、霊峰に行くんだ。もし、まだ話したい事があったらそこへ来てよ」
「霊峰……シャンディアですか?」
「うん。今登れる時期だから」
「……わかりました」

 私は渋々と了承すると、温め直された鍋の紅茶がコップに注がれる。なんだか悔しくなって、残りのパンを口の中へ詰め込んだ。
 その様子を見てなのか、アンジェラさんは微笑んだ。
 食事を終え、私はアンジェラさんに連れられて、バンガローが建ち並ぶエリアに戻って来た。体感としては歩いて25分程の長い距離だった。オーナーや護衛兵の人達は私が戻ってきたことに安堵し、謝罪を述べてくれた。林間学校は中止になり、生徒たちはもう学園に帰還した。オーナーたちは、捜索と調査をしようと動き出す前だったらしい。気づけば、アンジェラさんはその場から居なくなっていた。
 私はその後、知らせを受けて迎えに来た先生達と一緒に学園へ戻り、学長からの謝罪、そしてクラスは大騒ぎになった。ロクスウェルは私に抱き着き、一緒にスィヤクツから逃げていた子は泣きながらに謝罪を述べた。きっと責任を感じ、不安だったと思う。あなたのせいでは無いと私は声を掛けた。
 沢山の人に心配を掛けていたとより実感した。

「ミューゼリア!」
「お父様!」

 知らせを聞き、学園到着した両親の姿を見て、安心したと同時に涙が溢れてきた。
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