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懐妊編
使者
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拍手と共にセイラム王太子がシンポウジウムを後にした、その翌々日。
学会からの正式な使者として、ヴァシリス上皇の来訪が知らされ、王宮は喧騒に包まれた。
監査の結果は、認定される場合は使者が、認定が得られない場合は書簡が届くと聞いており、勿論認定がもらえるとは思っていない王宮関係者は気を抜いていた。
認定はあり得ない。
ではなぜ使者が?しかもヴァシリス上皇が?
シンポジウムを途中退席したせいで正式な抗議が来るのではないか?と肝が冷えたジェスだったが、会談の場に現れたヴァシリス上皇は和やかだった。
短時間、且つ王宮内、しかもヴァシリス上皇との会談の機会など早々ないと言うことで、この日ばかりはリリアナも同席した。
出迎えた王太子夫妻の姿に、ヴァシリス上皇は固まった。
「リリアナ殿は…大丈夫なのか?」
腹と顔を交互に見ながら怪訝な表情で体調を尋ねられ、リリアナは疑問に思ったが、もちろんそんなことは微塵も表情に出さず、淑やかに返答した。
「お陰様で、健やかに過ごしております。監査の際は代表を務めるべき所を、大事を取り失礼させて頂きました」
「そうか…大事ないなら何よりだ」
納得したようなしないようなヴァシリス上皇だが、すぐに気を取り直して話を進める。
「本来であればジル学会長が使者となるべき所ではあるが、学会長の業務が立て込んでいること、そして私自身が使者となることを希望したことから、学会長代理として参った次第だ。その点、承諾頂きたい。」
頷くセイラムを見やって続ける。
「今回使者として、御国へお伝えしたいことは3点。まずは、御国の監査評価であるが…」
同席している文官達が、一応ぐっと身を乗り出す。
「評価としては、基準を満たしていないため、認定はできない。」
文官達は、深いため息とともに、一斉に身を引いた。
「だが、王宮職員の認識、問題意識などは前回と比べて飛躍的に改善している。制度の見直しについても高く評価した。詳細な内容は、追って出る書簡を参照してほしい」
ヴァシリス上皇に、褒められた・・
毒舌辛口で知られるヴァシリス上皇からの思いがけない評価に、リリアナは内心驚いた。
認定されないのは想定範囲内だとして、王宮職員の認識、問題意識が飛躍的に改善って・・改善が一番難しい部分なのに、いつの間に?
チラリとセイラムの方を窺うが、その表情からは何も読み取れない。
「2点目は、今年の国際婦人学会賞についてだ」
ヴァシリス上皇はセイラムを見る。
「先日セイラム殿がシンポジウムを退出した後に総会を開き、国際婦人学会賞の対象を『今年最も活躍した女性』から、『今年最も活躍した女性、及び活躍に貢献した人物』へ広げることに決まった。賛成多数で、予定通り今年はジェシー ミケーレ殿に授与される。」
まぁ、とリリアナが瞳を輝かせた。
学会が賞の対象を拡大してまでジェシーに授けたとあれば、国にとっても非常に名誉なことである。
「本人不在のため授与式は行わず、メダルは送らせてもらったが、もし可能なら、直接会って学会からの謝意を伝える場を設けたい。これについては、セイラム殿、リリアナ殿に間を取り持って頂けると助かる」
「もちろんです」
リリアナが笑顔で応え、文官も安堵した様子を見せる。
「さて、3点目だが・・」
ヴァシリス上皇はチラリとセイラムを見た。
「その前に、セイラム殿、立ち上がって、この辺りまで来てもらえるか」
指名されたセイラムは怪訝そうにしながらも、立ち上がり、ヴァシリス上皇の座る椅子の近くへ、数歩の距離を歩いた。
「ちょっと近すぎるな・・もう半歩後ろへ。そう、そうだ。そこで立っていてもらえるか」
文官たちは、何が始まるのか、ソワソワしながら首を伸ばしている。
ジェスは、とうとう先日の途中退席の正式抗議が始まるのではないかと気が気ではない。
「よし、それでは・・・ふんっと」
椅子の肘置きに両手をついて、ヴァシリス上皇は立ち上がり、セイラムに向かい合った。
「すまぬな。病をしてから、少し足腰が弱ってしまってな」
「いえ・・」
静々と近づいてきた側付きの者から、筒状のものを受け取ると、上皇はゆっくりした動作で広げだしたので、それが紙なのだとわかった。
広げ終わると、咳払いの後、上皇は声高らかに紙面を読みあげた。
「学会認定証!セイラム フォンヴァイセン グロース王太子殿。貴殿は広い知見と熱き使命力、そして豊かな実践を通して国を導く若き指導者である。貴公の深い洞察は性別を超え、今後の学会の方向性も含め、我々への示唆に富むものである。以上から、特例として貴殿個人に学会認定を授け、向こう3年間は評定員と同待遇として、監査への付き添いを許可するものとする。尚、特例のため、4年目以降は認定は失効しー」
使者一行とセイラム以外、その場にいた全員が仰け反った。
学会からの正式な使者として、ヴァシリス上皇の来訪が知らされ、王宮は喧騒に包まれた。
監査の結果は、認定される場合は使者が、認定が得られない場合は書簡が届くと聞いており、勿論認定がもらえるとは思っていない王宮関係者は気を抜いていた。
認定はあり得ない。
ではなぜ使者が?しかもヴァシリス上皇が?
シンポジウムを途中退席したせいで正式な抗議が来るのではないか?と肝が冷えたジェスだったが、会談の場に現れたヴァシリス上皇は和やかだった。
短時間、且つ王宮内、しかもヴァシリス上皇との会談の機会など早々ないと言うことで、この日ばかりはリリアナも同席した。
出迎えた王太子夫妻の姿に、ヴァシリス上皇は固まった。
「リリアナ殿は…大丈夫なのか?」
腹と顔を交互に見ながら怪訝な表情で体調を尋ねられ、リリアナは疑問に思ったが、もちろんそんなことは微塵も表情に出さず、淑やかに返答した。
「お陰様で、健やかに過ごしております。監査の際は代表を務めるべき所を、大事を取り失礼させて頂きました」
「そうか…大事ないなら何よりだ」
納得したようなしないようなヴァシリス上皇だが、すぐに気を取り直して話を進める。
「本来であればジル学会長が使者となるべき所ではあるが、学会長の業務が立て込んでいること、そして私自身が使者となることを希望したことから、学会長代理として参った次第だ。その点、承諾頂きたい。」
頷くセイラムを見やって続ける。
「今回使者として、御国へお伝えしたいことは3点。まずは、御国の監査評価であるが…」
同席している文官達が、一応ぐっと身を乗り出す。
「評価としては、基準を満たしていないため、認定はできない。」
文官達は、深いため息とともに、一斉に身を引いた。
「だが、王宮職員の認識、問題意識などは前回と比べて飛躍的に改善している。制度の見直しについても高く評価した。詳細な内容は、追って出る書簡を参照してほしい」
ヴァシリス上皇に、褒められた・・
毒舌辛口で知られるヴァシリス上皇からの思いがけない評価に、リリアナは内心驚いた。
認定されないのは想定範囲内だとして、王宮職員の認識、問題意識が飛躍的に改善って・・改善が一番難しい部分なのに、いつの間に?
チラリとセイラムの方を窺うが、その表情からは何も読み取れない。
「2点目は、今年の国際婦人学会賞についてだ」
ヴァシリス上皇はセイラムを見る。
「先日セイラム殿がシンポジウムを退出した後に総会を開き、国際婦人学会賞の対象を『今年最も活躍した女性』から、『今年最も活躍した女性、及び活躍に貢献した人物』へ広げることに決まった。賛成多数で、予定通り今年はジェシー ミケーレ殿に授与される。」
まぁ、とリリアナが瞳を輝かせた。
学会が賞の対象を拡大してまでジェシーに授けたとあれば、国にとっても非常に名誉なことである。
「本人不在のため授与式は行わず、メダルは送らせてもらったが、もし可能なら、直接会って学会からの謝意を伝える場を設けたい。これについては、セイラム殿、リリアナ殿に間を取り持って頂けると助かる」
「もちろんです」
リリアナが笑顔で応え、文官も安堵した様子を見せる。
「さて、3点目だが・・」
ヴァシリス上皇はチラリとセイラムを見た。
「その前に、セイラム殿、立ち上がって、この辺りまで来てもらえるか」
指名されたセイラムは怪訝そうにしながらも、立ち上がり、ヴァシリス上皇の座る椅子の近くへ、数歩の距離を歩いた。
「ちょっと近すぎるな・・もう半歩後ろへ。そう、そうだ。そこで立っていてもらえるか」
文官たちは、何が始まるのか、ソワソワしながら首を伸ばしている。
ジェスは、とうとう先日の途中退席の正式抗議が始まるのではないかと気が気ではない。
「よし、それでは・・・ふんっと」
椅子の肘置きに両手をついて、ヴァシリス上皇は立ち上がり、セイラムに向かい合った。
「すまぬな。病をしてから、少し足腰が弱ってしまってな」
「いえ・・」
静々と近づいてきた側付きの者から、筒状のものを受け取ると、上皇はゆっくりした動作で広げだしたので、それが紙なのだとわかった。
広げ終わると、咳払いの後、上皇は声高らかに紙面を読みあげた。
「学会認定証!セイラム フォンヴァイセン グロース王太子殿。貴殿は広い知見と熱き使命力、そして豊かな実践を通して国を導く若き指導者である。貴公の深い洞察は性別を超え、今後の学会の方向性も含め、我々への示唆に富むものである。以上から、特例として貴殿個人に学会認定を授け、向こう3年間は評定員と同待遇として、監査への付き添いを許可するものとする。尚、特例のため、4年目以降は認定は失効しー」
使者一行とセイラム以外、その場にいた全員が仰け反った。
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