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出産編
待機
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ノックと共に軽食を片手に戻ってきたジェスは、国王に抱きしめられ涙するセイラムを見て、虚を突かれたようだったが、構わず中に入ってきた。
「殿下…なに辛気臭くなってるんですか。今日は御子の誕生日ですよ?」
呆れ声でテキパキと冷めた料理を片付けていく。
「どうせ昨日からろくに食べてないんでしょう?腹が減ってるから弱気になるんです。ほら、冷めないうちに食べて下さい。」
確かに、リリアナにずっと付き添っていて、リリアナが食べるのを一緒に少し摘んだ程度だった。
「今はあまり食べる気が」
しない、と言い切る前にジェスが釘を刺す。
「殿下、御子の立場で考えて下さいよ。せっかく生まれたのに、両親とも疲労困憊でお世話できないじゃ、どうするんですか。御子が路頭に迷いますよ」
ふほっ、と国王が小さく吹き出す。
「路頭に迷うのは困るな。フフ…お前の従者は、随分遠慮がない」
フハハハと愉快そうに笑うギリアンは、抱きしめていた手でポンポンとセイラムの背中を叩くと腕を解いた。
「さ、顔でも洗ってまいれ。」
「…はい」
冷たい水が、腫れた瞼に心地いい。
顔を洗って、正面の鏡に映る自分を見た。
疲労は色濃いが、気持ちは随分晴れた。
今なら、もう少し前向きな気持ちで、リリアナに付き添えるかもしれない。
「父親に、なるんだ。」
そう、鏡の中の自分に声をかけて、セイラムは待機室に戻って行った。
軽食を摂り終えても、お産の状況については何の知らせも来なかった。
経過だけでも聞きたいが、お産に入った侍女たちも1人も出てこないので、詳細がわからないのだと言う。
セイラムは居ても立っても居られず、時計を見ては立ちあがり、新しい情報がないか確認してはまた座る、を繰り返した。
「セイラム、少し落ち着け」
「俺がここに来てから、間も無くで1刻です。もう生まれてもいい頃合いのはず」
「悪い知らせもないということは、頑張っておるのだ」
「ですが…」
「ほら、ここに座れ。儂の話が慰めになるかはわからんが、少し話をしてやろう…」
セイラムは小さく息を吐くと、ギリアンの正面に座った。
「…聴きましょう」
今は少しでも他のことに気をやっていないと、悪い事ばかりを考えてしまう。
「以前言ったであろう。仕事人間のセリーヌは産休を取ることなく、結局破水してそのまま出産となった、と。」
「ああ、あの話ですね」
「破水して2刻ほどしたら陣痛も来て、そこまでは順調だった。だがな…産気づいてからも長くてな…お前が生まれたのは陣痛が始まって、ちょうど丸一日経った頃だった」
「丸一日…」
確か初産の場合は産気づいてから生まれるまで半日より今少しかかると聴いている。
1日とは流石に長すぎる。
「儂も心配でな、執務の合間に度々見には行ったが、お産の間は入れないだろう?今のお前みたいに、執務室とセリーヌのいる部屋をずっとウロウロ往復したものだ」
こんな、自分の出生時の話をきくのは初めてだ。
「それで、何度目かの訪問が、丁度お前が生まれた直後だったらしくてな。人の出入りのために扉が細く開いていたから、思わず中に入ったのだ。そうしたら、入ったすぐの所で赤ん坊の臍の緒を切っていた。儂は思わず近づいて見入ってしまった。」
父と自分の初対面だ。
「そして…処置を終えた医者が、勧めてくれるままに、お前を抱っこした…」
国王は顔を両手で覆った。
「父上、まさか…母上が抱く前に…!?」
「儂も初めての我が子で舞い上がっていたのだ…!気付いたら、セリーヌが怒髪天をつく勢いで怒っていた。なぜ悪阻も陣痛もお産も耐えて、辛い思いをしてきた私でなくあなたが先に赤ん坊を抱くのか、と。興奮して出血が増える、と医者に慌てて部屋から出された」
セイラムはドン引いた目で国王を見た。
「殿下、目、目」
軽蔑しきった目で国王を見る王太子を、流石にジェスが小声で諌める。
「いいのだ、ジェス。この間の父親教室で教わって、儂が最低だったことは認識している。」
いやー、あの時が1番の離縁の危機だったぞ、とハハハと笑う国王に呆れていると、ドアがノックされた。
「殿下…なに辛気臭くなってるんですか。今日は御子の誕生日ですよ?」
呆れ声でテキパキと冷めた料理を片付けていく。
「どうせ昨日からろくに食べてないんでしょう?腹が減ってるから弱気になるんです。ほら、冷めないうちに食べて下さい。」
確かに、リリアナにずっと付き添っていて、リリアナが食べるのを一緒に少し摘んだ程度だった。
「今はあまり食べる気が」
しない、と言い切る前にジェスが釘を刺す。
「殿下、御子の立場で考えて下さいよ。せっかく生まれたのに、両親とも疲労困憊でお世話できないじゃ、どうするんですか。御子が路頭に迷いますよ」
ふほっ、と国王が小さく吹き出す。
「路頭に迷うのは困るな。フフ…お前の従者は、随分遠慮がない」
フハハハと愉快そうに笑うギリアンは、抱きしめていた手でポンポンとセイラムの背中を叩くと腕を解いた。
「さ、顔でも洗ってまいれ。」
「…はい」
冷たい水が、腫れた瞼に心地いい。
顔を洗って、正面の鏡に映る自分を見た。
疲労は色濃いが、気持ちは随分晴れた。
今なら、もう少し前向きな気持ちで、リリアナに付き添えるかもしれない。
「父親に、なるんだ。」
そう、鏡の中の自分に声をかけて、セイラムは待機室に戻って行った。
軽食を摂り終えても、お産の状況については何の知らせも来なかった。
経過だけでも聞きたいが、お産に入った侍女たちも1人も出てこないので、詳細がわからないのだと言う。
セイラムは居ても立っても居られず、時計を見ては立ちあがり、新しい情報がないか確認してはまた座る、を繰り返した。
「セイラム、少し落ち着け」
「俺がここに来てから、間も無くで1刻です。もう生まれてもいい頃合いのはず」
「悪い知らせもないということは、頑張っておるのだ」
「ですが…」
「ほら、ここに座れ。儂の話が慰めになるかはわからんが、少し話をしてやろう…」
セイラムは小さく息を吐くと、ギリアンの正面に座った。
「…聴きましょう」
今は少しでも他のことに気をやっていないと、悪い事ばかりを考えてしまう。
「以前言ったであろう。仕事人間のセリーヌは産休を取ることなく、結局破水してそのまま出産となった、と。」
「ああ、あの話ですね」
「破水して2刻ほどしたら陣痛も来て、そこまでは順調だった。だがな…産気づいてからも長くてな…お前が生まれたのは陣痛が始まって、ちょうど丸一日経った頃だった」
「丸一日…」
確か初産の場合は産気づいてから生まれるまで半日より今少しかかると聴いている。
1日とは流石に長すぎる。
「儂も心配でな、執務の合間に度々見には行ったが、お産の間は入れないだろう?今のお前みたいに、執務室とセリーヌのいる部屋をずっとウロウロ往復したものだ」
こんな、自分の出生時の話をきくのは初めてだ。
「それで、何度目かの訪問が、丁度お前が生まれた直後だったらしくてな。人の出入りのために扉が細く開いていたから、思わず中に入ったのだ。そうしたら、入ったすぐの所で赤ん坊の臍の緒を切っていた。儂は思わず近づいて見入ってしまった。」
父と自分の初対面だ。
「そして…処置を終えた医者が、勧めてくれるままに、お前を抱っこした…」
国王は顔を両手で覆った。
「父上、まさか…母上が抱く前に…!?」
「儂も初めての我が子で舞い上がっていたのだ…!気付いたら、セリーヌが怒髪天をつく勢いで怒っていた。なぜ悪阻も陣痛もお産も耐えて、辛い思いをしてきた私でなくあなたが先に赤ん坊を抱くのか、と。興奮して出血が増える、と医者に慌てて部屋から出された」
セイラムはドン引いた目で国王を見た。
「殿下、目、目」
軽蔑しきった目で国王を見る王太子を、流石にジェスが小声で諌める。
「いいのだ、ジェス。この間の父親教室で教わって、儂が最低だったことは認識している。」
いやー、あの時が1番の離縁の危機だったぞ、とハハハと笑う国王に呆れていると、ドアがノックされた。
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