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38 美味しいものは壁をも越える
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立ち合いに臨む剣士のような真剣そのものの表情で、ケントはアリサのスイーツを口に運んだ。
口の中に広がったのは予想通りの味ーーではなく、予想よりも上の味だった。
「美味い!」
「よかったあ」
張り詰めていたアリサの表情が緩む。心底からほっとしたようだ。
「やったね、アリサ」
サンディがアリサに向けて親指を立てる。
「うん」
誰もがドキッとするような晴れやかな笑顔。
大行列ができていることからもわかる通り、美味しいのは間違いない。自分で食べても美味しいと思う。
しかし、ケントに認めてもらえなければ、アリサ的には何の意味もないのであった。そういう意味で、ケントの賛辞はアリサにとって何よりのご褒美なのであった。
「アリサ、これっておまえ一人で考えついたのか?」
「そうだよ?」
「実はな、これと同じスイーツが異世界の記憶にあるんだ」
「え、そうなの!?」
驚くのと同時に、アリサはちょっとだけがっかりした。自分の思いつきに自信を持っていただけに、先を越されたのが悔しかったのだ。
「待て待て。何で悔しそうなんだよ。すげえことなんだぞ。異世界でこれができあがるまでにどれだけの時間がかかったと思ってるんだよ」
「どれだけかかったの?」
素朴に問い返されて、ケントは言葉に詰まった。
「…正確なところはわからんけど、いろんな人がいろんなものを積み重ねてできあがったものなのは間違いない。おまえはそれを自分の感覚だけで飛び越えたんだぞ。すげえことじゃねえか」
「そ、そう?」
ケントにべた褒めされて、アリサはあっさり相好を崩した。
「でな、これ、俺の記憶のものよりも美味い」
「ホント!?」
アリサの表情が更に崩れる。嬉しさのあまり空でも飛びそうな勢いだ。
「これを独力で作り上げたってんだから、俺はおまえを尊敬する」
嬉しさが天元突破したアリサは、もう言葉にならず、くねくねと身悶えした。
「じゃあさ王子、このスイーツにも名前あるの?」
サンディに訊かれて、ケントは大きく頷いた。
「ーーティラミスっていうんだ」
「ティラミス?」
「うん。現地の言葉で、直訳すると『わたしを引っ張り上げて』って意味になるらしい。そこから『わたしを元気にして』って意味を持たせてるって聞いたことがある気がする。たしか」
うろ覚えの知識だったが、アリサの感性にはしっくりきたらしい。笑顔が更に明るくなった。
「みんなを元気にできるっていいね!」
「そうだな。アリサにはぴったりかもな」
「うん!」
テンションがマックスに跳ね上がったアリサは、何やら複雑な表情をしているフローリアに向き直った。
「フローリアさんもぜひ食べてみてください」
まっすぐな笑顔を向けられたフローリアは、少々気圧された様子を見せた。
「あ、うん。いただきます」
すくった一匙を、物凄く真剣な表情で見つめる。
しばし見つめた後、何かを決意するかのように小さく頷き、フローリアはスプーンを口に運んだ。
モグ。
「!?」
フローリアの目が見開かれる。
もう一口。
モグ。
「ーーっ!」
声にならない歓喜の叫び。
フローリアはおもむろに立ち上がると、アリサに歩み寄った。
ライバルと目した相手に、無言のままに近寄ってこられると、自然と身構えてしまう。
「な、何?」
そんなアリサの両手をとって、フローリアはしっかりと握りしめた。
「え?」
「素晴らしいわ、アリサさん」
紛うかたなき賞賛に、アリサの表情も緩む。
「あ、ありがとう」
「お礼を言うのはこちらです。こんな美味しいものを食べさせていただけるなんて、望外の幸せです」
フローリアはアリサの手を放そうとしない。
一歩間違えれば敵対関係になりかねなかった二人がわかりあえた瞬間だった。
口の中に広がったのは予想通りの味ーーではなく、予想よりも上の味だった。
「美味い!」
「よかったあ」
張り詰めていたアリサの表情が緩む。心底からほっとしたようだ。
「やったね、アリサ」
サンディがアリサに向けて親指を立てる。
「うん」
誰もがドキッとするような晴れやかな笑顔。
大行列ができていることからもわかる通り、美味しいのは間違いない。自分で食べても美味しいと思う。
しかし、ケントに認めてもらえなければ、アリサ的には何の意味もないのであった。そういう意味で、ケントの賛辞はアリサにとって何よりのご褒美なのであった。
「アリサ、これっておまえ一人で考えついたのか?」
「そうだよ?」
「実はな、これと同じスイーツが異世界の記憶にあるんだ」
「え、そうなの!?」
驚くのと同時に、アリサはちょっとだけがっかりした。自分の思いつきに自信を持っていただけに、先を越されたのが悔しかったのだ。
「待て待て。何で悔しそうなんだよ。すげえことなんだぞ。異世界でこれができあがるまでにどれだけの時間がかかったと思ってるんだよ」
「どれだけかかったの?」
素朴に問い返されて、ケントは言葉に詰まった。
「…正確なところはわからんけど、いろんな人がいろんなものを積み重ねてできあがったものなのは間違いない。おまえはそれを自分の感覚だけで飛び越えたんだぞ。すげえことじゃねえか」
「そ、そう?」
ケントにべた褒めされて、アリサはあっさり相好を崩した。
「でな、これ、俺の記憶のものよりも美味い」
「ホント!?」
アリサの表情が更に崩れる。嬉しさのあまり空でも飛びそうな勢いだ。
「これを独力で作り上げたってんだから、俺はおまえを尊敬する」
嬉しさが天元突破したアリサは、もう言葉にならず、くねくねと身悶えした。
「じゃあさ王子、このスイーツにも名前あるの?」
サンディに訊かれて、ケントは大きく頷いた。
「ーーティラミスっていうんだ」
「ティラミス?」
「うん。現地の言葉で、直訳すると『わたしを引っ張り上げて』って意味になるらしい。そこから『わたしを元気にして』って意味を持たせてるって聞いたことがある気がする。たしか」
うろ覚えの知識だったが、アリサの感性にはしっくりきたらしい。笑顔が更に明るくなった。
「みんなを元気にできるっていいね!」
「そうだな。アリサにはぴったりかもな」
「うん!」
テンションがマックスに跳ね上がったアリサは、何やら複雑な表情をしているフローリアに向き直った。
「フローリアさんもぜひ食べてみてください」
まっすぐな笑顔を向けられたフローリアは、少々気圧された様子を見せた。
「あ、うん。いただきます」
すくった一匙を、物凄く真剣な表情で見つめる。
しばし見つめた後、何かを決意するかのように小さく頷き、フローリアはスプーンを口に運んだ。
モグ。
「!?」
フローリアの目が見開かれる。
もう一口。
モグ。
「ーーっ!」
声にならない歓喜の叫び。
フローリアはおもむろに立ち上がると、アリサに歩み寄った。
ライバルと目した相手に、無言のままに近寄ってこられると、自然と身構えてしまう。
「な、何?」
そんなアリサの両手をとって、フローリアはしっかりと握りしめた。
「え?」
「素晴らしいわ、アリサさん」
紛うかたなき賞賛に、アリサの表情も緩む。
「あ、ありがとう」
「お礼を言うのはこちらです。こんな美味しいものを食べさせていただけるなんて、望外の幸せです」
フローリアはアリサの手を放そうとしない。
一歩間違えれば敵対関係になりかねなかった二人がわかりあえた瞬間だった。
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