戦鬼は無理なので

あさいゆめ

文字の大きさ
上 下
97 / 112

97

しおりを挟む
 南部にあるアンカレナ領は首都からは馬車で3日かかる。
 旅行などめったに出来ないからみんな楽しそうだ。 
 急ぐ旅でもない。
 観光しながら行こうという事で5日もかけてしまった。
 領地の邸は…これは城?
 主もいないのに維持するためだけに使用人が30
名以上いるそうだ。
 だけど私が来たかったのは本邸ではなく、湖のほとりの別邸だ。
 そこは亡くなった母の為に父がプレゼントしたもので、城のような重厚な造りの本邸より母の好みに合うかわいらしい造りだ。
 本邸には挨拶だけして別邸に向かった。
 皆、私の容態については粗方知っているので静養の為だと言えば納得してくれた。
 南部は温暖な気候で湖の回りには貴族の別荘が多く点在する。
 湖の対岸には遠くにアルプスが見える。雪解け水のおかげで澄んだ美しい湖なのだろう。
 別邸は母の侍女だった高齢のハンナが一人で管理していた。
「ようこそおぼっちゃま。」
「おぼっちゃまはやめてよ。ハンナは元気だった?」
「すっかり老いぼれてしまいましたけどまだまだ元気ですよ。」
 中に通されお茶を勧められる。
 このリビングの壁紙、いや、直接画かれた絵か。それも前の世界でのママに聞いた通りだ。
 お気に入りのウェッジウッドのティーカップの柄のようなイチゴが画かれている。
 大きな窓からは湖を一望できる。
 日の光をたっぷりと取り込む窓は眩しすぎるのでいつもレースのカーテン越しに景色を見ていたと。
「奥様もそこにお座りになり湖を見ておられました。
 そうそう、奥様からお預かりしていたものが。」
 どこからか箱を抱えて持って来た。
 中にはぬいぐるみ?
 そうだ、子供の頃遊んだ熊のぬいぐるみ。
 先代公爵が亡くなった時、もう遊ぶことは無いだろうと処分したはずだった。
 懐かしい。
「ぼっちゃまが必ず取りにいらっしゃるからと、大切にしまっておかれたのですよ。」
 おかしい。
 熊のぬいぐるみといっても作り手によって違う。パターンが違うからだ。
 この熊は私のパターンと同じ。いや、ママから教わったパターンと同じなのだ。
「これは母上が作ったの?」
「そうでございますよ。サンディ様の分もございましたのに、サンディ様ったら遊び方が激しくていらっしゃるからすぐにぼろぼろに…ちゃんとしたレディになられています?」
 ため息まじりに昔を思い出しているようだ。
 やはり、ママと母上は同じ人のようだ。ママの前世が母上なのか。
 あ、手紙も入っている。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:2,091

星を旅するある兄弟の話

SF / 連載中 24h.ポイント:1,576pt お気に入り:1

恋するレティシェル

BL / 連載中 24h.ポイント:397pt お気に入り:5

推しと契約婚約したら、とっても幸せになりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,932pt お気に入り:143

すべては花の積もる先

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:131

処理中です...