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37.領地へ
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王都から南へ進むこと馬車で6日。
途中の街で休みを挟みつつ、イリスたちの馬車はフィオニア侯爵領へ入った。
馬車の窓を小さく開けると潮の香りが鼻孔をくすぐる。
大好きな港町、フィオニア領へ帰ってきたのだと実感が沸いた。
「侯爵様の馬車だ!!」
「侯爵様がお帰りになられた!!」
「おかえりなさーい!!!」
馬車が通ると道には人だかりができ、みんな笑顔で手を振ってくれている。
作業をしていた人たちも手を止め、遠くからも手を振っている姿が見えた。
正面に座っている父の顔は穏やかに微笑んでいる。
今までは気に留めなかった彼らの服装や持ち物にも目が行く。
華美とは言えないが過ごしやすそうで清潔な服を着ている様子を見てイリスはホッと息を吐いた。
お父様が守ってきた大切な領地。
大好きなフィオニア領の領民たち。
彼らの期待に応えるためにもしっかりとしなければならない。
イリスは領民たちの笑顔を見ながら膝の上の両手をぐっと握り締めた。
――
「お帰りなさいませ。」
「イリス様!!まぁ……お美しくなられて…!!」
侍女のマヤが目に涙を浮かべる姿を見てイリスは思わず抱きつく。
「マヤ!!!」
産まれた頃から世話をしてくれていた一人だから王都へエレナと一緒に連れて行きたかったが、彼女の家族が領地にいるため、残ることになった侍女だ。
父は領地の様子を見るために何度か帰ってきていたが、イリスは王太子の婚約者候補となってからずっと王都で暮らしていたため、領地へ帰るのは実に7年ぶりということになる。
幼いころから自分を知っている懐かしい使用人たちの顔ぶれにホッとしつつ、みんな少し年を取ったな、と思ってしまう。
「旦那様、早速ですがお客様がお待ちです。」
「分かった。すぐ行こう。」
「そのお客様はきっとイリス様にもお目にかかりたいと思いますよ。」
「そうか。じゃぁイリスも疲れているだろうが身支度を整えたらサロンへ来なさい。」
「はい、お父様。」
ーー
「まぁ…留守にしていたのにさっき出掛けて帰ってきたみたいね!!」
壁紙や調度品は年齢に合わせて少し大人っぽくなってはいたが、自室が以前自分が過ごしていた時とそっくりそのまま、美しく保たれていることに目を丸くする。
自分の背が高くなったので置かれた家具が少し小さくなったように感じて、それだけ長い間ここに帰っていなかったのだと実感する。
「お嬢様がいつ帰って来られても良いように毎日綺麗にしていたのですよ!!」
自信満々に話すマヤにエレナも笑顔で頷く。
「イリス様のお世話がまた出来るなんて…嬉しいです。」
マヤはまた泣きそうになっている。
「私もマヤに会えて嬉しいわ…あ!!そうだ!ゆっくりお話ししたいけれどお客様がお待ちだと言っていたから早く着替えなくちゃ。」
「はい、すぐにご準備いたしますね。」
エレナとマヤに手際良く着替えと髪を整えられ、イリスはサロンへと向かった。
ーー
「お嬢様、お久しぶりでございます。」
浅黒い肌にゆったりとした服を身に纏った男性が柔らかに微笑みイリスを迎えた。
「レーメ!!元気だった?」
以前会った時より雰囲気が幾分落ち着いたレーメはイリスの手を取りキスを落とす。
「はい、お嬢様。」
「商団の皆んなも元気にしているかしら?」
「お陰様で。皆イリス様にいつお目にかかれるかと心待ちにしております。」
「そう…嬉しいわ。」
嬉しい言葉をかけられたことにくすぐったいような気持ちになってしまう。
「そうだ、アズールは?今日は来ていないの?」
「会頭はまだ船中です。」
「あら…レーメは行かなかったの?」
「…置いていかれました。」
口を尖らせながら言うレーメがおかしくてイリスは笑ってしまう。
「アズールが安心して国を出られるのはレーメがラムダ商会をしっかりとまとめているからなんだよ。」
「勿体ないお言葉です。」
ジョアンの言葉にレーメは笑んでお辞儀をする。
「ところでレーメ、話しとは?」
「私は退室した方が良いかしら?」
「いえ、お嬢様がいらしても大丈夫です。その、船の戻りが予定より少々遅いので…何らかのトラブルが起こったという連絡は来ていませんので大丈夫かと思いますが。」
「何日ほどの遅れだ?」
「今日で3日です。」
「そうか…また情報が入れば連絡を。」
「承知いたしました。しかし…。」
「どうした?」
「…お嬢様がタイミング良くお戻りになられましたので帰還が早まるやもしれません。」
レーメはにっこりと笑って言う。
「それはどういう…?」
ジョアンの言葉にレーメはただ微笑む。
「お嬢様、もしお疲れでなければ明日、街の様子を見に行かれませんか?ご一緒致しますよ。」
「嬉しいわ!!レーメ、よろしくね。」
レーメの魅力的な提案に目をキラキラさせて微笑むイリスの姿を久々に見て、ジョアンは胸が詰まるような思いになった。
途中の街で休みを挟みつつ、イリスたちの馬車はフィオニア侯爵領へ入った。
馬車の窓を小さく開けると潮の香りが鼻孔をくすぐる。
大好きな港町、フィオニア領へ帰ってきたのだと実感が沸いた。
「侯爵様の馬車だ!!」
「侯爵様がお帰りになられた!!」
「おかえりなさーい!!!」
馬車が通ると道には人だかりができ、みんな笑顔で手を振ってくれている。
作業をしていた人たちも手を止め、遠くからも手を振っている姿が見えた。
正面に座っている父の顔は穏やかに微笑んでいる。
今までは気に留めなかった彼らの服装や持ち物にも目が行く。
華美とは言えないが過ごしやすそうで清潔な服を着ている様子を見てイリスはホッと息を吐いた。
お父様が守ってきた大切な領地。
大好きなフィオニア領の領民たち。
彼らの期待に応えるためにもしっかりとしなければならない。
イリスは領民たちの笑顔を見ながら膝の上の両手をぐっと握り締めた。
――
「お帰りなさいませ。」
「イリス様!!まぁ……お美しくなられて…!!」
侍女のマヤが目に涙を浮かべる姿を見てイリスは思わず抱きつく。
「マヤ!!!」
産まれた頃から世話をしてくれていた一人だから王都へエレナと一緒に連れて行きたかったが、彼女の家族が領地にいるため、残ることになった侍女だ。
父は領地の様子を見るために何度か帰ってきていたが、イリスは王太子の婚約者候補となってからずっと王都で暮らしていたため、領地へ帰るのは実に7年ぶりということになる。
幼いころから自分を知っている懐かしい使用人たちの顔ぶれにホッとしつつ、みんな少し年を取ったな、と思ってしまう。
「旦那様、早速ですがお客様がお待ちです。」
「分かった。すぐ行こう。」
「そのお客様はきっとイリス様にもお目にかかりたいと思いますよ。」
「そうか。じゃぁイリスも疲れているだろうが身支度を整えたらサロンへ来なさい。」
「はい、お父様。」
ーー
「まぁ…留守にしていたのにさっき出掛けて帰ってきたみたいね!!」
壁紙や調度品は年齢に合わせて少し大人っぽくなってはいたが、自室が以前自分が過ごしていた時とそっくりそのまま、美しく保たれていることに目を丸くする。
自分の背が高くなったので置かれた家具が少し小さくなったように感じて、それだけ長い間ここに帰っていなかったのだと実感する。
「お嬢様がいつ帰って来られても良いように毎日綺麗にしていたのですよ!!」
自信満々に話すマヤにエレナも笑顔で頷く。
「イリス様のお世話がまた出来るなんて…嬉しいです。」
マヤはまた泣きそうになっている。
「私もマヤに会えて嬉しいわ…あ!!そうだ!ゆっくりお話ししたいけれどお客様がお待ちだと言っていたから早く着替えなくちゃ。」
「はい、すぐにご準備いたしますね。」
エレナとマヤに手際良く着替えと髪を整えられ、イリスはサロンへと向かった。
ーー
「お嬢様、お久しぶりでございます。」
浅黒い肌にゆったりとした服を身に纏った男性が柔らかに微笑みイリスを迎えた。
「レーメ!!元気だった?」
以前会った時より雰囲気が幾分落ち着いたレーメはイリスの手を取りキスを落とす。
「はい、お嬢様。」
「商団の皆んなも元気にしているかしら?」
「お陰様で。皆イリス様にいつお目にかかれるかと心待ちにしております。」
「そう…嬉しいわ。」
嬉しい言葉をかけられたことにくすぐったいような気持ちになってしまう。
「そうだ、アズールは?今日は来ていないの?」
「会頭はまだ船中です。」
「あら…レーメは行かなかったの?」
「…置いていかれました。」
口を尖らせながら言うレーメがおかしくてイリスは笑ってしまう。
「アズールが安心して国を出られるのはレーメがラムダ商会をしっかりとまとめているからなんだよ。」
「勿体ないお言葉です。」
ジョアンの言葉にレーメは笑んでお辞儀をする。
「ところでレーメ、話しとは?」
「私は退室した方が良いかしら?」
「いえ、お嬢様がいらしても大丈夫です。その、船の戻りが予定より少々遅いので…何らかのトラブルが起こったという連絡は来ていませんので大丈夫かと思いますが。」
「何日ほどの遅れだ?」
「今日で3日です。」
「そうか…また情報が入れば連絡を。」
「承知いたしました。しかし…。」
「どうした?」
「…お嬢様がタイミング良くお戻りになられましたので帰還が早まるやもしれません。」
レーメはにっこりと笑って言う。
「それはどういう…?」
ジョアンの言葉にレーメはただ微笑む。
「お嬢様、もしお疲れでなければ明日、街の様子を見に行かれませんか?ご一緒致しますよ。」
「嬉しいわ!!レーメ、よろしくね。」
レーメの魅力的な提案に目をキラキラさせて微笑むイリスの姿を久々に見て、ジョアンは胸が詰まるような思いになった。
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