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第6章 魔族の国

第51話 交易路3

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 その後、数日を掛けて山の峠道を抜ける事ができた。計画の半分以下の日数でここまで来れた事になる。

「あれが、魔王城か。この目で見れるとは思ってなかったな」

 峠道を越えたこの高台からは、森に覆われる城跡やその先の殲滅の平原まで見て取ることができる。伝説に名高い魔王城。森に覆われて道もなく、呪われた場所として誰も行く者のいない放置された場所。

「でも、もう瓦礫ばかりの場所だよ」
「それがいいんじゃねえ~か。二百年も前の城跡なんだろう。歴史を感じるね~」

 妖精族は魔族と直接戦っていないから、詳しく書かれた古文書のような物は無いらしい。でも、かつての魔王がここに住み、魔族が大陸を制覇したことは知っている。
 そんなに名高い場所なら、あのお城は観光資源になるんじゃないのかな。観光か……それは国にとって手っ取り早いおいしい収入源だよね。

「ここから城までは整備された道がねえ。どのルートで道を作るかだな」

 この先は馬が走るような地道しかなくて、既に森に飲み込まれている。木々を伐採して、新たな道を作っていくことになるらしい。

「それなら、遺跡の一番外側、西の端に道を通して、そのまま南に向かうようにすればいいんじゃないかな」
「まあ、そうなんだが……城跡の端がここからじゃ分かんねえからな」

 確かに森に囲まれているから、正確な位置は分からないね。

「女王様からは、城までの道を作るようにと言われている。だがそれで遺跡を壊すと後々問題になっちまうからな」

 女王と話した際、城に抜ける道を整備し魔国も協力すると約束している。了解が取れているとはいえ、魔国領に新しい道を作るとなると慎重になるみたいだね。

「ボクが城跡まで行って、目標地点で狼煙を上げるよ」
「大丈夫なのかい嬢ちゃん。森だから魔獣がいるかもしれないぞ」
「ボクは冒険者だし、あそこには行った事があるんだ。地形は分かっているからさ」

 そう言って、馬に跨って城跡に向かった。途中からは馬を安全な場所につないで空を飛ぶ。
 学者のフロードを助けた場所は、お城の周辺部。瓦礫はその先も続いていて、大きな堀のある場所が遺跡の端っこだとフロードから聞いている。空から見ると、途切れ途切れに地面がへこんだ場所がある。

「するとここが西の端になるね」

 堀を作ったであろう、石垣が連なっている場所に降り立つ。そこから少し離れた平らな場所で狼煙を上げる。峠からここまでは五、六キロメートルと言ったところか。


「よっ、ご苦労だったな。これで位置は分かった。明後日までに道は完成しそうだぞ」

 親方達は、既に峠から平地まで降りる坂道を作りかけている。魔道具で木々を切り開くだけだから、それほど時間は掛からないようだね。
 その日の仕事が終わって夕食の後、親方と相談してみた。

「このずっと南にアカネイという町があってね。そこまで街道を伸ばしてもらう事はできないかな」
「どれぐらいの距離だ」
「馬車で半日かからないぐらいだね」

 紙に簡単な地図を描いて説明した。

「できねえことは無いんだがな。他国の領内だ。契約をちゃんと結ばん事には工事ができないんだよ」

 予定の工事期間に余裕はあるそうで、追加工事として受ける事はできるそうだけど、手続きが大変らしい。

「それなら、書類を作ってもらうよ。明後日の工事が終わっても、ここに居てくれるかな」
「それはいいけどよ、王様のハンコがいる契約書だ。そう簡単に作れんぞ」
「大丈夫、大丈夫。じゃあ、今から行ってくるから待っていてね」
「今からって、夜中だぞ。本当に大丈夫か」

 大丈夫だよ、と言いつつ野営地を出て空に飛び立つ。今から首都のお城に行って、ブクイットに書類を書いてもらおう。遅くても明後日の夕方にはここに戻って来れるよ。少しお金は掛かっても、妖精族の技術で道を作ってもらった方が早いからね。


「うおっ! 本当に契約書を持ってきやがった。あんたは一体何者なんだ」

 二日後、親方に羊皮紙の正式な書類を見せる。魔王の紋章を押した国内で工事をする許可証と、ブクイットの印を押した工事内容に関する契約書。でもどれだけの金額になるか分からないから、後日金額を決めて支払うという契約になっている。

「前金はもらって来たんだけど、これで大丈夫かな」
「工事代金は、今の時点じゃ分からんからこれでいいさ。それに今まで嬢ちゃんが頑張ってくれたから、それほど高くならんよ」

 それならこれからも頑張れば安くできるかな。お金は王国の金貨で支払う。この金貨なら両替ができるそうで、持ってきた契約書にサインをしてくれた。

「で、町までのルートだが」
「この城跡から南に一直線で作ってほしいんだけど」
「この先は森と平原だ。それも可能だが目印はあるか」
「明日の朝。アカネイの町で狼煙を上げてくれるから、それを目印にしてよ」
「段取りがいいじゃねえか。お前も道路工事に慣れてきたな」

 えへへ、と笑いながら親方と工事の計画を練っていく。

「じゃあ、その直線部分はあんたが魔道具を使って木を伐採してくれるか」
「うん、分かったよ」
「曲線部分や坂は俺達がやる。伐採した木の始末だが……」
「明日になったら、三十人程の兵隊さんが来てくれるって。その人達も使ってくれるかな」
「兵隊が三十人もかよ! あんたがこの国の兵士を手配したのか、すげ~な。ほんとに何者なんだ」
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